【015】DDにおける実務的な落とし穴や気構え等
4月も下旬に入り監査法人に所属している方々は繁忙期の真っ最中ですね。
私自身も監査法人にいた頃のこの時期はかなり忙しかった記憶があります。今は監査業務に携わっていないのですが、今週は、監査の仕事に間接的に関わることもありました。
そんな監査法人に従事していた方々が、FASに転職・異動される際、多くの方がデューデリジェンス(DD)、特に財務DDのプロダクトラインに入られることになるかなと思っています。バリエーションやFA業務やったりする方もいますが、財務DD含めたいわゆるトランザクション業務をやる方の比率が非常に多いです。
私自身、現在はDDレポートを直接書いていないのですが、間接的にDDレポートの作成過程を見ることが多いです。数にして、年間20件前後でしょうか。
それぐらいの本数の作成過程を横で見ていると、いわゆる初心者がやってしまいがちなポイントがいくつかあるなと思い、今日はそんな話です。
◆DDってそもそも何のため?
DDの目的は、大きく3つのポイントがあります。
-そもそも買うことを検討し続けるべきか否か
対象となっているM&Aを継続的に検討すべきかどうかという点です。
買収の対象となっている会社に「もはや検討進めるべきではない」という大きなリスクがあることもあり、具体的には粉飾であったり訴訟といったものが想定されます。
抜本的な改善や瑕疵の治癒が難しい、或いはそれを行ったとしても買手として許容できるリスクを超えているをような場合は、そもそも買うべきではないので、これらのリスクを検出することがDDの大きな役割だと思っています。
-買うとしたら何に気をつけるべきか
また他の目的として、仮に買収するとした場合に、いくらでどうやって買うかを伝える情報提供の側面もあります。買収前の情報提供の観点では、定量面と定性面の2つに分かれます。
定量面においては、M&Aの対象となる企業の株式価値の算定に資する情報提供として、過去の収益力などの情報を提供します。いわゆる正常収益力というものです。
また定性面においては、どうやってへM&Aを行うのかというストラクチャーであったり、ストラクチャーを含む契約書においてどのような手当てを行うのか、定量化が難しい論点に係る情報提供が想定されます。
-買った後に何に気をつけるべきか
最後に、買った後に何に気をつけるべきかという点での情報提供の側面もあります。具体的にはPMIにおける対応事項対応で、例えばクライアントが上場企業で対象会社(=買収される会社)が未上場企業の場合、決算体制が上場企業における決算対応に耐えうる水準に達していなかったり、会計基準の一部未適用であったりということがあり得ます。
この辺りの目的はDDを行う上で、基礎中の基礎なのですが、実務的な内容に関して、もう少し興味ある方は、以下のような書籍を読んでもらうのが良いです。
◆初心者が陥る落とし穴
M&A業務含めて、秘匿性の高い大規模の業務って超カッコイイ!イメージがあるんですが、そんな憧れを抱いて、DD業務を行う初心者がやりがちな実務上の落とし穴がいくつかあろうかと思いました。
-思った通りにいくはずがない
まず進め方の話です。
あなたが思った通り進みません。
あなたの上司が思った通りにも進みません。
当然、あなたが事前に読んだ専門書通りにも進みませんし、予定通りに進まない点への対処法の多くは専門書に書かれていません。
でも、これってある種当たり前だったりします。何故ならば、業務提供を行うクライアント(買手)自身が必要な資料の提供を行うのではなく、売手が対象会社をして情報提供を行うからです。なので、売手や対象会社は協力こそしますが、クライアント自身は情報提供の質や量を担保しえません。
加えて、そもそも売手と買手は利益が相反しています。対象会社を高く売りたい売手としては、必要最小限の情報開示に留めてDDを終わらせたい一方で、買手としては経済的に損失を被らない合理的な価格、つまり、安い価格でM&Aを成立させたいと思っています。更に、売手も一枚岩ではなく、売手と対象会社も相反する意向を持つことがあります。
こういった関係性一つとっても、M&Aはプロセスの難易度が非常に高い業務です。
また、時間的な観点からも、非常に短い期間で色々な分析や報告を行う必要がありますが、そのために必要な資料が出てこないこともしばしばです。
でも、これも至極当然の状況だと思います。何故ならば、対象会社が何故売却されるのかといえば、売手からみて、これ以上の経営権の継続保有が難しいと感じているから。つまり、そのような会社においては、継続的な事業成長が難しかったり、管理部門の体制が脆弱であったり、何かしらのリスクを抱えていたり、ということが想定されます。
DDのプロセスは教科書のように上手くはいかない、と理解しておくのが重要です。
-中間報告って50%の出来ではない(ことが多い)
DDは通常1ヵ月前後で行われるものですが、クライアントに対してサプライズがないように、 DD期間中に中間報告を行うことが多いです。
その中間報告は、例えば100ページのDDレポートになる場合に、50ページ完成していれば良いわけではありません。
前述の買収の検討を継続すべきか否かというリスクのアラートは、この時点では必須となりますし、まだ一部の項目について調査・分析が完了していなくても、これからどういった項目をどういったアプローチで分析しようとしているのか、方向性の指針や現状把握している事項の報告は必須となります。
加えて、その時点で資料開示ができてないものがあれば、クライアントとも協力して、必要な資料のうち特に重要な資料は早期に開示してもらうよう関係者の動きを促進するような対応が必要となってきます。
私自身、まだM&A業務に不慣れだった頃は、中間報告と言われた際に大体50%の出来のものが出てくるのかと思っていましたが、素人目にみても実際は70-80%ぐらいの出来に見えました。
必ずしも中間報告をするわけではないのですが、未経験や初心者がDD案件にアサインされた際には、最終的なレポートの完成系がイメージできていないうちは、中間で何をどこまで終わらせるかを上位者と必ず事前にすり合わせておく必要があります。
-高い水準の日本語力
特に重要であり、かつ苦戦するのが日本語力。
定型のフォーマットがあるわけではないので、そのプロジェクトに合わせて、クライアントが理解しやすいように、クライアントのためにDDレポートを書く必要があります。
別案件のレポートをコピーしたとしても使えないことが多いですし、そのままの書き方をコピペすると、クライアントの期待値がズレることもしばしばあります。期待値がズレると、クライアントからのクレームに繋がってしまう恐れもあります。
なので、正確な日本語で文章を書くことも(DDレポート作成に限らずですが)重要なポイントだと思います。
◆上手くなるための気構えと視点
上記の落とし穴に対して、どういった心構えでDDをやるべきか。
-思考は性悪説で、行動は「北風と太陽」で対応する
資料が思ったスピード感で出てこない
質問に対して「回答できません」と回答をされる
DDレポートの前日に大量の資料が開示される
インタビューで質問したら逆ギレされる
こういうことは日常茶飯事です。したがって、ありとあらゆる瞬間にリスクが潜んでいる、と思ってDDに臨むべきかなと思っています。売手と対象会社はありとあらゆる不正を行っている位の猜疑心をもって対応すべし!というと、言葉が強すぎるのですが、いずれにしても油断は大敵です。
他方で、関係者への対応は常に北風と太陽作戦で臨むべきです。シビアなシチュエーションであるからといって、ネガティブな感情で行動すると失敗します。極論すれば、感情と行動は常に切り離して対応することが難所を乗り切るポイントになります。
この辺り高い交渉力を求められるところですが、その辺りは次の項目で説明します。
-DD前後の業務を理解すべし
もう一つ、DDの目的を考えると、DDにおける発見事項を別の業務に落とし込んで活用する必要があります。
先ほど述べた株式価値の算定においてはバリエーションの専門家、事業計画の修正は経営コンサルタント、契約書においては弁護士の方々と協業する必要があります。
なので、非常に逆説的ですが、DDが上手くなるためにはDD以外の業務(特に後工程)に精通していく必要があります。つまり、良いDDレポートとは後工程でどういう対応をすればよいのかが理解しやすいレポートでもあります。この点で、交渉力も重要で、良いレポートを書くには十分な可処分業務時間が必要であり、そのためには早めに資料を開示してもらう必要があります。早めに資料開示をしてもらうためには、プロジェクトマネジメントはもとより、FAがいないときには自身で交渉することが求められるわけです。
こんな話を書いていると、久しぶりに自分でDDレポートを書きたと思いましたが、DDレポートを書き上げるのは、非常にタフな業務なんですよね。
DDレポートが、いつ誰にどういう風に読まれるか分からないので、もちろんディスクレームはするものの、その一言一句にかなり神経を使います。そんな最終成果物を複雑な状況下で短期間のうちに作り上げることから、相応の高いコストが発生するわけですし、その専門性がキラリと光るわけです。
今週は以上です。ありがとうございました。
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