プライバシーテック企業のキャリア安全性

Acompany 研究開発部門 R&D チームのマネージャーの牧野です。
この記事は アカンクリスマスアドベントカレンダー 2023 35日目の記事です。
さて、先日 元DeNA人材育成責任者の坂井さんという方が、日本のマネジメントについて語っている動画を見ていました。

自分も大学時代のラグビー部で副キャプテンでFWというパートのリーダーをやっていた頃、ちょっとキレてしまってその後の行動が良くなくて信頼を失いかけた経験があったり、別の会社に所属していた時は僕がリーダーではなかったですが、組織崩壊を経験したこともありました。
今は R&D チームのマネージャーをやって1年半以上経ち、まあいろんなことがありました。ある程度これはやってはいけない、ということは分かっていましたが、結構手探りでマネジメントをやっていました。
なので、わかるわかるという話や、自分ももっと引き締めないとなと思うような話、それは考えたことがなかったという話もあり、マネジメントについていい感じに体系だって言語化されており、この動画は非常に勉強になりました。
自分は、プライドとか承認欲求からは一定距離を置けているのですが、慢心に陥りやすいので気を引き締めていかないとなと思いました。

この中で、若手が辞めていってしまう原因について言及していて、それが「いても無駄」と「言っても無駄」と思うことであり、「いても無駄」と思う原因はキャリア安全性が保たれていないからだと言及されていました。これは、心理的安全性に似たような概念だが、あまり企業が気にしていないものであるともいっていました。

心理的安全性は結構流行ったのでご存じの方は多いと思いますが、「自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態」のことです。ここはかなりAcompanyでは気を使っていて、会社の Value や行動指針に書いてあり、それを基準に採用やフィードバックが行われています。


キャリア安全性については、「今の職場で働き続ければ自身のキャリアは安全な状態だという感覚」のことです。
自分も採用の面談などをする中で、プライバシーテック企業についてのキャリア安全性について、「プライバシーテックや秘密計算なんてやっている企業全然ないから、潰しが効かなくなるのが不安」と言われたこともあります。
自分としては、「いやそうじゃないよ」と思って伝えたりしていましたが、不安になる人も多いと思うので、プライバシーテック企業のキャリア安全性について考えてみたいと思います。

R&D編

R&D チームでは、プライバシーテック技術の 調査 / 研究 / 実装 / 検証 / ライブラリの実装 をメイン業務として担当しています。
チームの業務として、現実に存在する課題をビジネスと法律からある程度決定し、それを解決するための技術の調査して、既存の論文等で解決できるものがあれば、実装していきます。既存のものがなければ、新しいアイデアを考えて、実装していきます。もちろん、パフォーマンスの改善なども行います。
まず、ソフトウェア領域でこのような現実に沿った課題に対して研究開発して実装する能力自体を必要としてくれる組織は、たくさんあるでしょう。
また、プライバシーテック技術というのは、多くの技術の掛け合わせになっています。僕は良く、ざっくり言うと、プライバシーテック技術は、暗号 x データサイエンスだとか、kaggle x 競プロ x CTF だとか言ったりしますが、まあ大体そんな感じだと思ってます。

最終的にはデータを使って価値を出していくので、データサイエンスは確実にいろんなところで関わってきます。その上でデータを安全に組み合わせていくので、暗号や秘密計算なども確実に関わってきます。
秘密計算やゼロ知識証明など暗号にものすごく寄っているテーマもあれば、そもそも暗号や署名といったそれ自体のテーマもあります。一方で、合成データ(生成AI)や概ねデータサイエンスだなと言うテーマもありますし、連合学習のようにまさに「暗号 x データサイエンス」といったテーマもあります。アルゴリズム寄りの競プロっぽい話もあったりします。

このような研究開発をしていく中で、データサイエンス的な研究開発は必然的にできるようになっていくと思われますし、暗号系統にもかなり強くなります。雑に言うとデータサイエンスと暗号という2つのキャリアを手にできるようなものかもしれません。

今はテーブルデータを扱うことがほとんどですが、近い将来的には画像やテキスト、音声なども扱っていくようになると思うので、この辺の処理技術もできるようになっていくと思います。
また、単純なライブラリではなく、通信が絡むことが非常に多いです。なので、通信周りの技術なども必然的に身につくことになります。

また、弊社の事業開発のマネージャーである橋村さんがこのような note を書いていました。


データサイエンスの問題は、個人データを使う場合、単なる技術ではなく法律も含んだ問題になります。プライバシーテックの場合は、制約条件として密接に関わってきます。

僕らの研究開発は、あくまで社会実装を見据えた研究開発なので、ビジネス的な要件や法的要件を踏まえながら開発を進めます。弊社には技術をかなり分かってくれるインハウスの弁護士もいますし、個人情報の権威である
ひかり総合法律事務所 弁護士 板倉 陽一郎
光和総合法律事務所 弁護士 渡邊 涼介
法律事務所LEACT 弁護士 世古 修平
といった弁護士が顧問としてついてくださっていて、見解をもらいにいけます。

このような方達と技術に対する法律の議論をしているうちに、個人情報保護法についてめちゃくちゃ詳しくなります。どのようにしたら法律の壁を乗り越えられるのか、その際のビジネス的なメリットやデメリットを含め、いろんな手段を現実的な側面から理解できます。

なので、しばらくやっているうちに、個人データに関わる法律の問題も解決することができるデータサイエンティストになれることでしょう。
もちろん、僕らはグローバルの市場も将来的に狙っているので、USの法律やEU圏のGDPRなどにも詳しくなります。

先ほどの note のように、個人データに関わる問題はデータサイエンスをやっていけば必ずぶち当たります。その際に技術側からも解決策を出せる人材は貴重になるでしょう。

また、メンバーが直接関わる機会はあまり多くはないですが(僕は良くやります)、知財についても関ったり、勉強会で教えてもらえる機会もあるので、この辺の知見もつきます。論文だけではなく、知財も読める人材は重宝されるでしょう。

最後に、プライバシーテック自体の未来について考えてみます。
例えば、このような記事がありました。


2030年までにプライバシーテック市場がどうなっていくのかというものです。この見立てによると、市場はかなり急拡大していっているのが分かるように、相当な成長産業になっています。

データの活用には本当にとても強いパワーがあります。データサイエンスが近年もてはやされてきたことからも分かることでしょう。データを活用していく流れはどんどん加速していくと思われます。しかし、データの多くは個人データのため、必ずどこかでプライバシーの問題にぶち当たります。
この時、データ活用とプライバシーのトレードオフにならずに、両立ができるプライバシーテック技術は、見えている人にとっては伸びて当たり前の産業でしょう。

今は国内にプライバシーテック自体のプレイヤーは少なく、一部のベンチャー企業の一部門や、一部の大企業の研究開発組織の一部門がやっているに留まっていますが、これから国内、国外でプレイヤーは増えていくと思われます。
ただ、データを安全に連携するデータクリーンルームといったサービスや、データの同意管理などを管理していくデータマネージャーといったサービスは急速に増えていっている印象です。

データクリーンルームのサービスの中で、プライバシーテック技術を使うことは多々あります。もちろん、Acompany でもプライバシーテック技術を用いてデータクリーンルームのサービスを提供しています。


プロダクト編

プロダクトのことを勝手に語るのはどうかと思いつつ、勝手ながら僕視点での解説をさせていただきます。
弊社では Auto Privacy という自社プロダクトやプラットフォームの開発をしており、データエンジニア的なデータの処理基盤やワークフローの作成をゴリゴリに頑張っているのをよく見るので、その辺の知識はとても身につくと思います。
また、プライバシーテック技術は通信が処理の過程でよく入るため、めちゃくちゃ難易度の高いプロダクト実装を要求されます。
秘密計算の一つである、MPC(Multi Party Computation)一つとっても、めちゃくちゃ複雑で実装難易度が高く、すごく色々な知識を要求されます。
弊社が出しているMPCのOSSだけでも、かなり複雑で難しいものになっています。

このOSSは今のプロダクトチームの前身になったQMPCチームが作ったもので、さらにそれをプロダクトとして提供できるように構築もやっています。
また、プライバシーテックの開発上、ユーザーAから見れるユーザーBの情報を、一部見れるようにしつつ、それ以外は見れないようにしないといけないので、その辺の管理とか大変そうだなっていつも思ってます。

僕目線で、プロダクト部門の技術力は本当にすごいなと思っていて、魑魅魍魎で通信が入りまくるものを、プロダクトとして提供できるように何から何までやっています。
また、R&D が作ったライブラリを理解して高速化までしてくれたりもするので、本当にすごいなと。

プライバシーテックのプロダクトを作るのは非常に難易度が高く、あらゆる技術を使いこなさないといけないので、どこでもやっていけるだけの技術力が身につくと思われます。

また、かなりフロント寄りですが、お客さんにデモとかプロダクトのガワを当てながらプロダクトを高速で改善していくようなチームもあったりします。セールスエンジニアに近いような動きで、プロダクトの知識だけではなく、Biz的な観点でのフィードバックを回してくようなスキルが得られるのではないかと思います。

Bizdev編

Bizdevの人たちはめちゃくちゃすごくていつも勉強になってます。
特に、COOの佐藤さんやマネージャーの橋村さんはめちゃくちゃすごくて、こうやって枠組みを作っていくのかとか、営業かけるのかとか、調整していくのかとか、たまにしか商談や外部打ち合わせにに参加しない身でもめちゃくちゃ勉強になります。

プライバシーテックを軸にしたデータクリーンルームなる他社から見たら謎のサービスを中心に企業向けに売っているので、相当のスキルが要求されることでしょう。

新しいビジネスを作っていく力にも驚かされます。弊社で法律を絡めたいろんなスキームを佐藤さんが大体作っていて、マジでバケモンです。ロビイングとかもうまくやってますし、技術理解度もめちゃくちゃ高いです。
そんな人たちから学べるので、きっとどこでもやっていけるパワーが身につくのではないでしょうか?

テック企業なので、技術理解も一定求められ、そういったものを売ったり作っていく力も身についていくかもしれません。展示会とかもよくやっていて、バケモンみたいにリードを取っています。
このような場所でやっていけていれば、キャリア的には安泰でしょう。

他のチーム

あんまり知らないですが、高いパフォーマンスでいい感じにやっているように見えます。
テック企業なだけあって、業務などの効率化には余念がありません。いろんなことをハックしていく姿勢があります。
きっとどのチームに所属しても、キャリア安全性はあるのではないでしょうか?

最後に

いろんなチームで、採用を募集しています。
一見なさそうなものでも、オープンポジションから気軽に申し込んでください。
特に今はプロダクトのメンバーをたくさん欲しているようです。もちろんR&Dもぜひ。

おまけ

今 Podcast でR&D特集回をしているので、内部のメンバーの話を聞けます。
是非聞いてもらえると、良いと思います。


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