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たばこ

お酒の味とたばこのにおいと。楽しそうな音楽に騒がしい人の声。おぼつかない頭にリズムを取り出す足元。やたら曲線をなぞりたくなる指の向こうには大好きなおにーさん。

大好きなおにーさんはたばこを吸わない。吸いそうな顔してるのに吸わない。私も吸わない。だからたばことは縁がない。

なのに私はたばこのにおいがするとどきどきしてしまう。昔付き合っていた人がたばこを吸っていた。私はたばこのにおいをまとうその人にどきどきしていて、そのどきどきがたばこのにおいに移ってしまったのだ。

でも私はたばこのにおいにどきどきする私が好きじゃない。だってそのどきどきは昔付き合っていた人と結びついている。もし、大好きなおにーさんと先に出会っていたら、先に大好きになっていたら、私はたばこのにおいにどきどきする体にはなっていなかったはずなのだ。だってたばこ吸わないから。たばこのにおいにどきどきしない私でありたかった。私の体は全部大好きなおにーさんがよかったなあ。

などと考えていると、大好きなおにーさんが手まねきをする。テーブルに手を付きなぁにと前のめるとあちらも前にのめってきた。あとはお察し、みなまでいわずとも。

頭も顔面もへちょへちょになりながら吸い込む、誰かが吸ってるたばこのにおい。なんということでしょう。3秒前の私はたばこのにおいにどきどきする体だったけど、今の私はたばこのにおいに溶けるくらいどきどきする体になってしまいました。顔が熱い。頭がゆだる。だれのたばことか関係ないのか、まあ関係ないよね。大事なのはシチュエーションなのさ。

こうしてパブロフの私はスーパーパブロフの私になった。大好きなおにーさんはもっと大好きなおにーさんになる。もっと大好きなおにーさんに上書きされたたばこのにおい、にどきどきする私のことは、わりと、だいぶ、けっこー好き。

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