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たばこ

お酒の味とたばこのにおいと。楽しそうな音楽に騒がしい人の声。おぼつかない頭にリズムを取り出す足元。やたら曲線をなぞりたくなる指の向こうには大好きなおにーさん。 大好きなおにーさんはたばこを吸わない。吸いそうな顔してるのに吸わない。私も吸わない。だからたばことは縁がない。 なのに私はたばこのにおいがするとどきどきしてしまう。昔付き合っていた人がたばこを吸っていた。私はたばこのにおいをまとうその人にどきどきしていて、そのどきどきがたばこのにおいに移ってしまったのだ。 でも私

宝石になる

大切に育てられた。 生誕を祝福され、不自由ない家庭に育ち、友人に恵まれ、いっぱしの大人になった。大きな病気もせず、お金の苦労もなく、犯罪に巻き込まれたこともない。 宝石のように扱われている、と思った。それはとても素晴らしいことで、稀有なことで、心から感謝することだ。なにせ宝石だ。愛されていたのだ。 でも私は自分がそんな大層なものだと思ったことはなかった。 まわりがどれだけ称えてくれようが、大切にしてくれようが、愛してくれようが。しょうもない、そこそこの出来の、メッキを貼

止り木より

信条の話。 誰かの止り木になりたいと思っていた。ずっと傍に居る必要はない。でもふいに疲れたとき、泣きそうになったとき、助けを求めたくなったとき、ぼんやりと思い出す顔、深夜突然の電話が許される相手、いつだって受け止めてくれる場所、そんなものになりたかった。 都合よく使われたいわけじゃないし、ぞんざいな扱いを許すつもりもない。最低限の敬意がない相手は取り合わない。だから無償の愛みたいな大それたものじゃないけれど、ちょっと飛び続けるのがしんどくなっちゃったときに、少しの時間羽を