ふたりのお茶会を音声で残せる、楽しい遊び場【新井見枝香さん&千早茜さんインタビュー】
Radiotalkで活躍する音声配信者「ラジオトーカー」を紹介していく連載インタビュー企画。今回は、番組『新井のラジオ』を配信する、書店員で踊り子でもある新井見枝香さんと、「『胃が合う』お茶会」の回に出演している小説家の千早茜さんにフォーカスします。
新井見枝香さんは、一人選考の文学賞「新井賞」を発表したり、文芸書の魅力を伝えるイベントを企画したりしている書店員でありつつ、エッセイを執筆したり、2020年からはストリップの踊り子としても活躍しています。
千早茜さんは、『魚神』で第21回小説すばる新人賞を受賞して作家デビューを果たし、多くの著書を発表しているほか、エッセイ集『わるい食べもの』も刊行しています。
二人の共通点は、「食べることが好き」ということ。共著である『胃が合うふたり』を読んで感じる、新井さんと千早さんの食に対する情熱が、Radiotalkでは音声で感じることができます。
さながら二人のお茶会に紛れ込んでいるような感覚になる収録トークはどのように生まれているのか、取材を通して探ってみました。
(取材・文/ねむみえり)
お茶会をする口実にもなるRadiotalk
ーーRadiotalkで配信を始めようと思ったきっかけは?
新井:本を知ってもらうきっかけになったらいいかなっていうのと、定期的にお茶会ができるなと思って、始めました。
千早:『胃が合うふたり』の連載中は取材のために定期的に食事に行っていたんです。でも連載が終わると、お互い大人なのでそこそこ忙しいし、きっかけがないと会わない。まあ、結局なんやかんや理由をつけて会うんだけど。
新井:ラジオのためにネタを用意することはないけれど、ラジオ録るしちょっと特別なお菓子買っちゃおうってことはあるかな。
千早:私に関して言うと、新しいお茶を買う口実になっていますね。お茶を淹れたい人なので。
ーーRadiotalkを選んだ理由は?
新井:踊り子の葵マコ姐さんが配信している番組『まこらじお』を聴いていたんです。
マコ姐さんのファンの方だけでなく、ステージを観たことがない人も番組のリスナーになって、それをきっかけに劇場に来てくれたりっていうことが実際あるみたいだったので、素敵なツールだなと思っていました。
そういうわけでアプリもすでに入れていたし、使いやすさも分かっていたので、すぐに始められましたね。
二人での「お茶会」と一人での「晩酌」、それぞれの持ち味
ーーお二人での「『胃が合う』お茶会」と新井さん一人での「新井の晩酌」の更新のタイミングはそれぞれありますか?
新井:「『胃が合う』お茶会」は二人が会えるときで、お茶も淹れてもらうから大抵ちはやんの家で収録しています。一緒にお菓子を食べていて「あ、これ録ろうか」って思い付いて録ることことが多い。
千早:わりとひんぱんに集まっていますが、半分ぐらいは忘れていて録ってないです(笑)
新井:ひとりで録るときは、話したいことがあるときかな。「新井の晩酌」の更新頻度が少ないのは、ちゃんと考えを消化してからでないと、中途半端になるから。
千早:「新井の晩酌」のときのほうが真面目にちゃんとしゃべってる印象がある。ストリップのことをしゃべってるのが多いよね。我々のお茶会のときはあまり内容がない(笑)
新井:録り直しもしないし、聴き返しもしないままいつも配信している。
千早:あれはちょっとびっくりしたね。私、最初はお茶の知識とか、お菓子のうんちくとかを話そうと思っていたのに、いつも突然収録を始めるから準備ができない(笑)。だから結局だらだら「うまいねうまいね」とか言って終わってしまう。
ーー突然収録が始まるんですね。
千早:そうなんです。よく私は「あれ?始まってる!」って驚いています。
新井:「はい、始まりました〜。胃が合うお茶会、何回目だっけ?」とか、自分でもよく分かっていない(笑)
千早:最初の頃はすぐに声が出てこなかったんだけど、最近は、その「はい、始まりました〜」の新井どんの声でスイッチが入るようになってきた。
新井:収録が終わってるのに気づいてない回もあるね。
千早:うん……みんなもっとちゃんとやってるのかな……?
新井:マコ姐さんは録り直しされるときもあったみたいだし、私もひとりのときは録り直すことがあって。
千早:あっそうなの。じゃあ私とのときもちゃんとやってよ(笑)
新井:録り直すのは、言葉が足りなくて誤解されそうだなと思うときだから。
千早:「『胃が合う』お茶会」はそういうノリではないということ?
新井:うん、あのライブ感がいいんだよ。
ーー「『胃が合う』お茶会」を録るタイミングは?
千早:録ろうって言って会うことはほぼないんですよ。「今日このケーキがあるよ!」とか「新しい中国茶を買ったよ!」とかLINEして、新井どんが来たら、じゃあせっかくだし録るかって感じですね。
新井:Radiotalkありきではないですね。
「胃が合うふたり」だからこそ録れる収録トーク
ーー新井さんも千早さんも、何かを食べるときに「食べる」ということに集中するタイプだと思うのですが、食べながら収録トークを録ることに抵抗はないですか?
千早:本当は黙って食べたいよね。
新井:二人とも放送事故みたいに黙るときは、今の「おいしい」を漏らしたくないっていうときです。でもそれは二人の回ではありだと思うんですよね。その沈黙を想像してもらえれば。
千早:言葉がでないくらいうまい、とか。
新井:お茶会のときは、それで成立するし、二人いるからどっちかが話せばいいと思うんです。でも、自分一人だとしゃべったり食べたり忙しくて。「新井の晩酌」というタイトルだけど、酒も肴も進まないまま収録が終わっちゃうときもあります。
千早:お茶会のときも、大体先に何か食べて、お酒も飲んで、大いに盛り上がってから始めるから、収録されているのは宴のほぼ終盤だよね。
新井:そうだね。メインの部分はもったいないから録らない。
千早:あと、ものすごく楽しみにしてたケーキのときとかも全く録ってないです。
ーーRadiotalkで配信するということは音声での記録ということになりますが、そこに対する意識はありますか?
新井:記録っていうよりライブ配信に近い感覚です。だから反応があるとやっぱり楽しい。
千早:私は全く反応が気にならないし、できるなら音声の記録は抹消したいですね(笑)。やっぱり小説家なので、文章を書いたら校正さんのチェックが入り、編集さんのチェックが入り、何度も添削をして言葉を世の中に出しているので、生音源が出てしまうのは不安なところもあったりします。
新井:どうしても言い間違いとかあるもんね。
千早:あと話したことは忘れるね。何しゃべったか忘れちゃってる。書いたことって忘れないんだけど。でも、私は自分で料理してるときとかにたまに聴き返して、「ははは、この二人おもしろい」とか笑ってる。気持ちが明るくなる。
新井:面白いし平和だよね。
ーー収録トークを聴いていると、食べ物に対する語彙がすごいなと思います。
新井:食レポみたいに、その食べ物を食べてほしいとか思わずに、感じたまま言ってるだけです。あくまでも私は、目の前のちはやんに言ってるだけっていう感じですね。
千早:我々は、ふわふわ〜とかとろける〜とかリポーターのようなことを言わないから、若干まずそうに聴こえるときもあると思います。この間も新井どんが、「失敗した子どものお菓子みたい」とか言ってなかった?
新井:褒めててもね。
千早:褒めてるんです。私は、素朴な味のものや、もっさもっさした食感が好きなんですけど、その良さはここでしか伝わらない。例えば新井どんがテレビに出て、「これは口の中の水分が取られる、失敗したお菓子みたいですね」とか言ったら絶対怒られるよ。
新井:うん。でも私たちのニュアンスだから、良い意味で言ってるんだろうなっていうのが伝わればいいかなって。
千早:このふたり、おいしそうだなって。
ーーお茶やお菓子に対しての解像度が上がる気もします。
千早:正式名称を伝えたいので、私がツイートするときはお茶とお菓子の紹介もなるべくしています。
新井:本当に知りたい人は探せるように。
喫茶店で聴く他人の普通の会話のような面白さを
ーー昨年の9月から始められて約半年経ちましたが、続けてみていかがですか?
千早:もうそんなに!最近更新できてなくない?ほんとは週1でやりたいんだけど。
新井:そうだね、お互いあんまり会えないときもあるからね。でもその無理のない感じがいい。
千早:誰にも強制されてないからね。
新井:リスナーさんがネギとかなんかよくわかんない玉(※収録トークに贈れる「元気の玉」というギフト)とかを贈ってくれるのはありがたいし、やっててよかったなと思う。おそらくRadiotalkが好きで聴いてる人なんだなって。
千早:面白い媒体だよね。なんで12分なんですか?
ーー検証した結果、制限がないとだらだら話し続けてしまうことが分かり、サービス側がフォーマットを決めた方がいいとなったんです。その上で、リスナーは「ながら聴き」ができて、配信者側は5本で1時間のセットにもできたりするような、各々の体系に合わせて配信ができる時間が12分、ということになりました。
新井:ちょうどいい。
千早:すごくちょうどいい。
新井:聴いてる人もみんなそう言うね。私はコロナ禍で外にも出られないし仕事もやれなかったときに、『まこらじお』聴いてる12分間、腹筋をやり続けたりしてた。
千早:私も、化粧は10分って決めてるから、新井どんとのラジオを流してる。化粧してたら何分経ったか分かんなくなるから、聴きながら「おおー、もう終盤終盤」みたいな。
ーーRadiotalkをやってきた中で、印象的な出来事などはありましたか?
新井:ストリップのお客さんは、お茶会なんて興味がないだろうと思ってたんですが、結構楽しく聴いてくれているんです。
千早:そうなんだ。
新井:料理しながら聴いてます、とか。お茶やお菓子の話がどこまで伝わっているのか分からないんだけど、楽しそう、なんかいいなっていう雰囲気だけで聴いてもらってたら、それでいいと思います。
ーー新井さんが収録トークの中で、「誰か聴いてるのかなこのラジオ、でも誰も聴いてなくてもやるけどね」と仰っていたのが印象的です。
新井:ちはやんとRadiotalkで遊んでるから、収録した時点でもう満足はしています。それとは別に、もし自分だったら本当に聴きたいのってこういう感じだよなっていう思いもあります。
「本日のゲストは小説家の千早茜さんです」って台本通り読んで、こういう賞を取られていて、みたいなプロフィールをずらずら話すのって私じゃなくてもいいし。
例えば喫茶店とかで、誰も聴いてないと思ってる誰かと誰かの会話を聴くのってめちゃくちゃ楽しいじゃないですか。そういうのを、全部じゃないけど切り取って見せるっていうのはすごくいいし、そっちの方が面白いでしょうって思うんです。
千早:うん、まあ私は最初は尻込みしていたけど(笑)
新井:Radiotalkもお仕事ではないからこそ、ちはやんがやってくれるっていうのも分かってるから。ちゃんとした仕事なんだよって言ったら、この人多分警戒してしゃべらないから。
千早:そうだね。
新井:だからちょうどいいんだよね。やんなきゃいけないわけではないから、楽しいんじゃないかなって思います。
ーーお二人にとってRadiotalkってどういう場所になっていますか?
新井:録ったことも忘れちゃうので、自分には何も変化はないんですけど、続いているってことは楽しいんだと思います。
千早:不思議な感じですね。
「『胃が合う』お茶会」で一番いいのは、それを口実にお茶を買えるということなんです。今、家にお茶が30種類以上あるので、お菓子に合わせて好きに選べて、新井どんがどんどん飲んでくれるからまた新しいお茶が買える。
あと、私は生活も仕事も計画的にするタイプなのですが、新井どんと関わるとことごとく壊されるので、柔軟性を高める鍛錬になっていいと思ってます。