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自問自答の場で、言葉と心を磨く【内海あささんインタビュー】

Radiotalkで活躍する音声配信者「ラジオトーカー」を紹介していく連載インタビュー企画。今回は、番組『忘れてみたい夜だから』を配信する、内海あささんにフォーカスします。

内海あささんは、普段は会社員として働きながら、2019年10月からRadiotalkをスタート。毎週金曜20:30からの定期回を中心に配信を行っています。

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心に傷を負った会社員が飾らないトークで“小さな世界平和を模索する”様子が第1話から話題となり、ニッポン放送『NEXT-RAD 超発掘!尖ったキッズたち』TBSラジオ『爆笑問題の日曜サンデー』『ZonE』など、地上波ラジオへも続々と出演を果たしました。

トークの力でシンデレラストーリーをかけ上がる内海さん。しかしインタビューをはじめると、それはあくまでひとつの側面にすぎないようで……。

(取材/文:鼻毛の森

自由に話せる場を求めて

──「心に傷を負った会社員」という肩書が気になります。

内海:飲料メーカーで、飲食店などを相手に飛び込み数百件をこなす営業畑にいたのですが、豪雨の被害から得意先の状況が一変する様子を見て、無力感を感じたことで抑うつ状態になってしまいました。メンタルは強い方だと思ってましたし、周りからもそう言われていたんですが、医師からも正式に診断を受けまして。

その後、上司の計らいで異動となって、いまは営業職の仲間をサポートする部署でお仕事をしています。

──「忘れてみたい夜だから」というタイトルは、この出来事とも関連しているのでしょうか。

内海:もともと私の中には、忘れたい過去が常によぎっていて。思い出しては嫌になったり、「たられば」が巡ったり……。実際に落ち込みが激しくて眠れない夜が多かったんです。

でもどんなに忘れたくても、次の朝を迎えても、都合よく忘れられないことも知っているんです。自分の番組を作るうえで、そんな等身大のもどかしさをタイトルにしようと思ったんですけど、「忘れてしまいたい」だとだと聴く人に投げやりでマイナス過ぎる印象を与えてしまう。そこでもう少しライトな印象の「忘れてみたい」が浮かんで、ワードを置き換えました。語呂もよかったです(笑)

──番組では、言葉のセレクトが繊細だなと感じます。話の運び方が上手なのは、やはり営業職出身だから?

内海:そう言われると、その影響もあるのかも…… と思いますが、もともと妄想を小説化する趣味があって。頭の中で骨組みを作って文章化するプロセスが当たり前だった、という学生時代の影響が大きいかもしれません。

例えば、頭の中で架空の人物を作って、実在する世界にねじ込んで物語を作るとなった場合、違和感を出さないためには、より客観的な組み立てが大切になると言いますか……。全体のストーリーを考える習慣は、トーク収録前に用意する台本づくりに活かされていますね。

──どのようなきっかけから、音声配信を始めようと思ったのですか?

内海:妄想小説を書くオタク仲間たちがRadiotalkで楽しそうに番組を配信していて、それを聞いたのがきっかけでした。

当時の私は会社も休みがちで、体調もよくありませんでした。いろんなことが起きて、いろんなことを考えて……。誰でもいいから話したいはずなのに、友達と遊ぶのもままならなくて。でも、突き詰めて考えるとそれって私が一方的に喋りたいという願望であって、相手の話を聞いて、合わせるまでの余裕はなかったんです。

「友達に負担をかけたくないな」と思ったとき、オタク仲間がハマっていたRadiotalkに手が伸びていました。とにかく、私が話したい話を自由に話せる場が欲しかったんです。

徹底的に練り込んだ“台本”が雰囲気を作り出す

──「#01 世界平和のために性欲をお金で解決した話」は、落語のような満足感に浸れる、完成されたトークでした。

内海:あれは一言一句、台本通りです(笑)。友達とバーで話しているときに、一番引きがよかったエピソードトークを書き起こして、番組用に構成しました。

人の話って、くすっと笑えても、長くなればなるほど流し聞きになるじゃないですか。それが友達の話でも。でもこの「性欲をお金で解決した話」には、酔いつぶれそうなみんながどんどん前のめりになる手応えがあったんです。

私が喋りたいだけの配信なんですけど、せっかくなら知らない人にも話を聞いてほしいですし、リスナーになってもらうための自己紹介トークとしては、これしかないなという目算がありましたね。

ただ、その話が脚光を浴びすぎて、下ネタのイメージや一発屋感もできてしまって。その後は音楽や同僚についてなどいろんな話を意識的に配信していたんですが、結局「性欲」のイメージを払しょくするのに、50話ぐらいまでかかった気がします(笑)

──本人の想定を超える威力の劇薬だったんですね……。ちなみに、番組はどんな環境で収録していますか?

内海:iPhoneひとつで事足りる手軽さがRadiotalkの魅力だと思っているんですが、第1話が話題になったときに「音が惜しい」みたいな書き込みを見て。必要なのかなと思って、3,000円のUSBマイクをポチりました。

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結果、「ホワイトノイズがなくなった」とも言われるんですが、私に聞こえるレベルでは正直効果が分かりません(笑)。でもマイクの前で話すと「さあやるぞ」って気分が上がるので、自宅で録るときには、ほぼほぼセッティングしていますね。

──「一言一句台本」と言う言葉もありましたが、番組の準備はかなり入念に行っているのでしょうか?

内海:週に一度、同じ時間に一本以上の配信をノルマと決めて収録するんですけど、序盤はかなり早めに録って、編集も時間をかけてやっていましたね。もっとも、直近20エピソードぐらいは、編集時間2分程度のほぼ録って出しで、手間は激減しています。

もちろん台本は変わらず書くんですけど、今はタイトルだけ決めておいて、収録直前に一気に書きあげる感じです。アドリブを入れる余白も作っておいて、嚙んじゃった部分や間が空いた部分も、疾走感が保たれているなら味としてそのまま無編集でいいかなという考えです。「気分が乗っていること」がなにより大事かなと。

──ライブ配信も行っている内海さんですが、アーカイブは非公開なのですね。

内海:収録はポートフォリオ、ライブは水物、という考えで、アーカイブは残さないことにしています。

ライブ配信は、「暇だなーッ」「ライブでもするか」ぐらいのノリでやっています。ビールを飲みつつ、日経新聞を読みながらとか。私生活で気が乗らないときとか。生配信をすることで人に見られている実感が沸くので、もうひと踏ん張りできたりするんです。もっとも台本無しなので、ポンコツ配信ですが……(笑)

「話さないこと」を決める。あとは自由

──内海さんのトークは、話題こそネガティブでも、不快に感じない語り口が印象的です。

内海:「何を話すか」は決めず、「何を話さないか」を決めるようにしています。どんなに数字が取れるとしても、誰かへの誹謗中傷や仕事の愚痴は避けるというか、笑えるエピソードトークとして完成しない状態のままなら出さないように心がけていますね。

マイナスの感情をマイナスのまま出しても、不安をあおったり、意見が分かれるだけですから。「オチ」は必ず決めるようにしています。

──トークのテーマに掲げている「世界を小さく平和にしていく」とは、具体的にどういうことなのでしょうか?

内海:仕事きっかけでの抑うつ状態を経験して、テレビすらつけられず、ニュースを見れない時期が長かったので、そんな私のように心が弱っている人でも安心して聴ける配信にしたいという気持ちがありまして。

「なにをするか」という大義ではなく、「なにをしないか」「なにを言わないか」の小さな積み重ねが、それぞれの平和に繋がると思っているんです。

私の配信では「引き算のコミュニケーション」で、品のないトークをしないようにしています。まあまあなことを言ってもスルスルと聞ける匙加減を意識していますね。

手の届く範囲、自分の半径5メートル…… いや1メートルの「小さな世界」の幸せぐらいなら、それぞれがなんとかできるだろう、という考えを、「世界を小さく平和にしていく」というコンセプトに込めました。

──番組に手応えを感じるようになったのは、いつごろから?

内海:それこそ万全な状態で配信した第1話は手応えがありましたし、序盤は思い出話で食いつなげていたので、しばらく十分な手応えを感じ続けられていました。

ただ、その思い出話が尽きたとき、タイムリーで面白い話がなくて。自然と毎週配信のハードルが上がってしまったんですが、そこで踏ん張って、なにげない日常を膨らますことで、話す力が育てられたのかなと思います。

初期の私では、「#73 職場が突然イケメンパラダイスになったけど手も足も出ない」のようなエピソードは組み立てられなかったでしょうし。自画自賛できるお気に入り回ができることが、私の手応えですね。

賞ノミネートと「地上波進出」で芽生えた感情

──『JAPAN PODCAST AWARD 2019』ではノミネートに選出されましたが、このときはどのような心境でしたか?

内海:結果通知はTwitterで発表という感じだったので、ノミネートは唐突に知りました。会社の昼休みにスマホを見たら、通知が凄いことになっていてびっくりしましたね。

リスナーさんから「応募してみたら?」と声をかけられて、ポッドキャストがなにかもわからずエントリーしたので、正直「え? 何?」という戸惑いのほうが大きくて。「こんなポッと出が表に出て、コツコツやってきた人にはひんしゅくものだろうな」と思うくらいに余裕がなかったんですが、同時に「立派に配信しなければ」という気持ちが湧いたのも事実でした。

──その後も、地上波ラジオへの出演が相次ぎましたね。

内海:どの番組も「お邪魔する」という感覚で出演していたのですが、いまとなっては「もっと主体的に取り組めばよかったかな」と思っています。企画を練ったり、ディレククターさんと話す機会も設けてもらっていたので、「こういうことがやりたい」と、もっと明確に言ってもよかったのかなと。

もっとも、「変に仕上げすぎず、肩の力を抜いてね」とも言われていたので、入念に準備をすることが正解かどうかはわかりませんが、機会があるなら、またチャレンジしたいなと思っています。

「アウトプットの習慣」と「リスナーとの交流」が心の安定に

──Radiotalkでの配信は、内海さんにどのような影響を与えましたか?

内海:抑うつ状態の改善に役立ってくれたと思います。抑うつ状態の改善にはセルフモニタリングが大事なんです。今の私が病気のせいで後ろ向きなのか、自然な感情なのか、自分と病気の境目がぼやけることが多々あって。毎週の配信でアウトプットを習慣づけ、自分の言葉にまとめ続けることで、その境目が見えるようになりました。

──「お便り回」を設けたり、リスナーさんとの交流を大事にしている印象もあります。

内海:リスナーさんにも、本人やパートナーが同じ悩みを抱えているという人がいて、「救われた」と言ってもらえたり、逆にリスナーさんの言葉に救われたりしています。

私は中学から私立で、今はそこそこ大きな企業にいて、ある意味人のつながりが限定的なんです。なので、音声配信によって出会う人の幅が広がって、受け入れができるようになったことが、一番のプラスですね。

──内海さんにとって、リスナーはどのような存在ですか?

内海: 「大事な友達」ですね。そもそも、友達にしゃべる機会を失って始めた番組ですし、LINEの公式アカウントでは直接繋がっていて、個別返信もしますし。私にとって、リスナーさんは友達だと言い切れます。

──Radiotalkは、内海さんにとってどんな場所ですか?

内海: 遊び場…… というか、居酒屋ですね。第1話の原作を披露する舞台となったのもお酒の場でしたし。気負わない発信ができる、話せる空間です。

「伝説の第1話」を超えるために

──今後、取り組もうと考えていることはありますか?

内海:実は、『忘れてみたい夜だから』はそろそろ完結して、別の名義で新たにRadiotalkの番組を作ろうと思っているんです。

第1話のインパクトで高い下駄をはかせてもらったものの、どうもそれが身の丈に合わない感じがして。私のコンプレックスの問題なのかもしれないですけど、あの第1話を超えるためには、同じ土俵で戦うのでは無理だなと。

周りは励ましてくれるけど、リスタートして「もっと自由に戦いたい」という思いが強いですね。なので、新番組は本名でやります。たぶん。

──「内海あさ」は、本名ではなかったのですか?!

内海:実は私が「内海あさ」であることは、リアル友達はあまり知らないんです。友達に紹介して恥ずかしくない番組を目指すことで、もっと面白くなる可能性があるのかなと。

もちろん、つまらなくなるリスクもあるので、そうなったら今のチャンネルは残してはおきますし、しれっと戻ってくるかもしれませんね。「お恥ずかしながら」ってはにかみながら。それもまた「内海あさ」っぽいのかなと今から思っている当たり、オチへのフリでもあるのかもしれません。

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