0625

この夏私は、何一つ自分の言葉を話していない。心から自我を遠ざけ、なるべく触らないように、ただ過去の自分が設定した通るべきルートを闇雲に辿る。感情が全てを壊す前に、ただがむしゃらに手を動かしている。人が笑えば私も笑い、気分を良くした人からものを貰う。人から愛情を貰う、賞賛を貰う、自我は眠ったまま。
心が動かない。憂いが消えたから?
心が動かない。それは、幸せに包まれていて、苦しみを感じられないからではない。
恐れの輪郭を、存在さえぼやけた悲劇を准う赤子を抱きしめて、ただ前に進もうとしているだけだ。過去の傷さえ癒しとするような喜びを、私は確信して、ただ歩みを進めている。
悲嘆以外を口にするのは苦手だ。それは他者の言葉によって覆されることが常だったから。自分だけがひとりぼっちだったら、見捨てられたら耐えられない。私だけの独りよがりだったら耐えられないし、果たして聞く勇気もない。という逃げもまた、独りよがりで、浮ついた気持ちを勝手に消去しては相手の心を知らぬふりをしている。本当のこころは、本当の気持ちは、本当のこころは、本当の気持ちは、本当の気持ちを、過去で塗り固めて、綺麗な言葉を纏わせるようなことはしたくない。本当の心で伝えることを恐れないで、本当の心、本当の心で。
夕日が差し込むころ、私は窓際でピアノを弾く。それはきっと、新しい気持ちで。

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