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本物の妖精

僕が居酒屋で働いていた頃、
一人で来店する女性客がいた。
彼女は、40才くらいで、色白、
ポッチャリ体型だ。本人曰く、アメリカ西海岸
ではよくもてる体型なのだそうだ。
仕事は「病院勤務」。看護婦長をしているらしい。
彼女はいつもカウンターの端の席で、妙に身体をくねらせながらいつもチューハイを呑んでいる。
僕も仕事なので、カウンター越しに彼女の話し相手もしなければならない。彼女はいたって真面目なのだが、とても面白い話をする。
彼女がまだ二十歳くらいの頃、彼女曰く、もう、そのむちむちナイスバディは完成していたとのこと。ただ太っているだけと思うのは、僕のひね曲がった感性のなせる技だ。
話を戻そう。
彼女は、短大からの帰り道、男の集団にさらわれそうになったそうだ。
その集団は、真っ黒なワゴン車に乗り、降りてきたそのイデタチは、黒い目出し帽に上下黒のタイツ、
そして、その人数は10名ほどいたそうだ。
まるでショッカーである。
彼女が悲鳴をあげると、
少林寺拳法の使い手というバイクに乗った酒屋の配達員が助けに来てくれて、事なきを得たとのこと。
まあ、色々引っ掛かる話である。
彼女が云うには
「少林寺拳法かなにか・・・をやっているとか言ってたわ」
とのことだが、
「手をかざすだけで相手が吹っ飛んだ」
というところからいくと、気功の使い手か、もしくは魔法使いだろう。
そんなこんなで、彼女は、その美貌と、ナイスバディのせいで、危ない目に、多々、あってきたらしい。勤務する病院のドクターたちも、
嫌らしい目でしか彼女を見ないのだそうで、
その目つきは、
「レントゲンよ」
と、よくわからない例えで閉めた。
他にもいろいろなエピソードを持つ彼女だが、極めつけは、その生い立ちだろう。
彼女はなんと、「妖精」なのだ。
妖精なのだが、ごく普通の人間の家に生まれ落ち、
12才まで、人間として育てられるのだそうだ。
彼女が云うには、世間の人たちは妖精を勘違いしているらしい。そもそも、妖精だからといって、飛んだり消えたり魔法を使ったりなど、できないとのこと。
そんな特殊能力のかけらもない妖精だが、人間の家に生まれ、そして、12才まで育てられる間に、その家の人たちに妖精だとバレなければ、そのまま、人間になれるそうだ。
飛ぶことも消えることも魔法も使えないのだから、
バレるもなにも、そんな普通の子供に対して、
「あなた、本当は妖精なんじゃない!?」
などと言う方がもはや人間離れしている。
そんな彼女も、育ての親のために、マッサージチェアを買うところをみると、育ての親には感謝しているのであろう。
もう、20年以上前の話である。
今頃彼女はどこで何をしているのか。
妖精の国にでも帰ったのであろうか。

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