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赤い残照 道後温泉街

昼間は落ち着いた木の温もりを放つ道後温泉本館と、ゆったりした時間が流れる温泉街だが、私の記憶をたどり、普段と違う側面に触れてみたい。

道後温泉本館から数分歩いたところに、伊佐庭神社という千年以上の由来を持つ神社である。特徴的なのは、桃山文化の雰囲気を残した建物と、御本殿を四方から取り囲む回廊だ。この回廊は一周できる構造で、国内に3例しかなく国の重要文化財に指定されている。神社は岡の上にあり、急勾配の斜面に135段のでこぼこした、滑りやすそうな角の丸い石段を登ると、目に飛び込む鮮やかな朱色の楼門がある。小学生の頃、地域の秋祭りの時期に、この一周できる構造の回廊に安置された子ども神輿を宮出しするときの記憶が鮮明に残っている。小学生を中心に子ども神輿を舁(か)き(複数名で担ぐ意味)ながら、あの階段をゆっくり一歩ずつ降りるときは、滑落するのではないかと、ドキドキが止まらなかったことを思い出す。そして、この街には「喧嘩神輿」という、子どもが近づいてはいけない荒々しく、とても熱量の高い興奮するイベントがある。神輿同士をぶつけ合う男たちの顔は険しくも紅潮し、その激しさは見るものを圧倒し強烈な印象を与える。

激しい祭りは年に一度だが、日々の営みの中で違った街の側面もある。夕暮れになると、大正、昭和の雰囲気を持つ道後温泉街の周辺は、居酒屋や風俗店などで賑わう。赤い怪しげな照明が点灯し、街が紅潮したような色に染まる。この光景は、私が高校生の時に付き合っていた彼女と会うため、この温泉街を通り抜けていた時の記憶だ。近くの公園のベンチに一緒に座っていたドキドキする時間、夕闇の涼しげな雰囲気で包まれる公園の静けさと、温泉街の赤い光が対照的だった。当時、高校生の私にも風俗店の呼び込みの声がかかったことがあったが、その声は今となっては懐かしい思い出だ。大人になり、遠ざかっていたこの街の記憶は、今でも私の心の中で特別な赤みを帯びた記憶として存在していたようだ。

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