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小室哲哉の夏曲コレクション・2020〜楽曲ライナーノーツ(前編)

小室さんは,TM NETWORKでのデビュー以来,いやその前のスピードウェイの頃から,たくさん夏の曲を作ってきました。そこで,ginza TK NEXTの放送中のチャットや,Twitterのハッシュタグで集めたリクエストをもとに,45曲・約4時間のプレイリストを作成し,SpotifyとApple Musicで公開しました。各曲の簡単な紹介を,前編と後編に分けてお届けします。

1. BOY MEETS GIRL 2020/Namewee, DJ KOO
TRFの人気楽曲の盆踊りリミックス。「Tokyo Bon 2020」のヒットを受け,マレーシア出身のNamewee,DJ KOOにより2018年に製作された。振り付けは,DJ KOOとともにユニットUKOONを結成し,日本舞踊や盆踊りとダンスミュージックの融合を進めている孝藤右近。仙波清彦による和楽器がトライバルビートの中核を担っていた原曲の要素を生かしつつ,サビ以外は今の時代を踏まえたラップに差し替えられている。

2. SMILE AGAIN (ANYTIME YOU'RE MY LOVE)/スピードウェイ
小室哲哉が加入したスピードウェイが1980年に発表したアルバム『BASE AREA』に収録された,三連ロッカバラードの楽曲。夏の終わりに別れるカップルの情景を,海岸の風景とともに描いた歌詞が切ない。イントロには,TOTOの「Hold the Line」の影響も感じられる。アルバム全体は,横田の米軍ハウス跡に若者が憧れて住み出した1970年代の多摩〜入間地域のカルチャーを反映している。

3. カリビアーナ・ハイ/TM NETWORK
TM NETWORKのデビューアルバム『RAINBOW RAINBOW』の1曲目に収録。野口五郎のアルバムではプログレッシブロック作品の作詞を手掛けていた麻生香太郎によるカラフルな色彩を感じる歌詞が光る。「カリビアーナ・ハイ」は麻生氏による造語だが,"Caribbean Highball"で検索すると色々とレシピが出てくる。

4. FAIRE LA VISE/TM NETWORK
タイトルは,軽い挨拶のキスという意味のフランス語「faire la bise」の誤植と考えられる。夏の恋愛模様を描いた曲が多いアルバム『CHILDHOOD'S END』のA面のなかでも,唯一の小室哲哉による作詞曲で,歌詞に出てくる英語のフレーズのなかに,小室哲哉らしさや,洋楽からの音楽的影響を感じられる。

5. 永遠のパスポート/TM NETWORK
アルバムの中でも根強い人気を持つ曲。麻生香太郎がSEYMOUR名義で唯一当アルバムで作詞した曲。海岸沿いの国道ドライブで,プチ喧嘩をして仲直りをしたカップルの情景を,コケティッシュかつスタイリッシュに描いている。小室哲哉による原詞は大幅に書き換えられたが,「永遠の前」というフレーズに原詞の名残を感じる。

6. 8月の長い夜/TM NETWORK
元々は,ピアノと生ギターによるシンプルな弾き語りでデモテープが作られたが,山本圭右によりギターサウンドに作り替えられた。小室哲哉と山本圭右とは「村田和人バンド」時代からのつながり。他に村田和人のメンバーには阿部薫もいた。小室自身はアルバム解説で「歌謡曲というか芸能音楽」「TMっぽくない」と述懐している。

7. さよならの準備/TM NETWORK
スリーコードと転調で構成されている。wow wowを多用する歌詞,ファンキーなリズムを刻みドライブ感を感じさせるAメロのキック,高杉登と村上ポンタ秀一によるパーカッションなど,小室サウンドの原型ともいえるグルーヴの原型を感じる楽曲。EXPOツアーのフォークパビリオンで披露されたが,TM NETWORKのツアーではなかなかセトリに入らない曲。

8. Spanish Blue(遙か君を離れて)/TM NETWORK
スペインを舞台とした曲ということもあり,ハンドクラップなどフラメンコの要素を取り入れ,イベリア半島・地中海沿岸の乾いた夏を感じさせる曲。小室みつ子による作詞だが,ご本人は「曲聴いて「スペインだ!」って思って地図と旅ガイド読みつつ、妄想で書きました」ということで,小室哲哉によるデモを受けてインスピレーションが広がり生まれた曲といえる。

9. Maria Club(百億の夜とクレオパトラの孤独)/TM NETWORK
1986年に福岡のディスコ「マリア・クラブ」の開店にあたり製作された,小室哲哉と木根尚登による共作曲。明るいサビと,甘い雰囲気の漂うAメロに対し,半音下がるBメロの転調が醸し出す孤独感が印象的。ディスコに集って,みんなで踊って,悪いことを何もかも忘れようという小室哲哉の歌詞が,転調した切ないBメロにより,さらに印象的に伝わるようになった。

10. RAINBOW RAINBOW/TM NETWORK
「ファンハウス」の人気DJ・ジェリービーン(Jellybean)によるリミックス。当時のディスコで盛んに流れていたディスコサウンドを象徴する人物の一人。曲をつなげるだけでなく,自らリミックスを行い,数多くの12インチシングルを世に送り出した。1984年のTM NETWORKの楽曲が,NYのDJにより違和感なくリミックスされたというのは,画期的だった。

11. DIVE INTO YOUR BODY/TM NETWORK
GET WILD '89でリミックスを手掛けたイギリスのPWLのプロデューサー,ピート・ハモンド(Pete Hammond)によるミックス。trfを中心に1990年代の小室サウンドを方向付けた原点ともいえる。リズムトラックは,ほぼPete Hammondによるグルーヴに差し替えられているが,これ以降,グルーヴを自らの手中に収めるための「小室哲哉の実験」が繰り返されることになる。

12. OPERA NIGHT/小室哲哉
元々は,「OPEN YOUR HEART」として,1984年発売のTM NETWORKの1st.アルバム『RAINBOW RAINBOW』に収録される予定だった。歌詞・アレンジなどを変更し,メロディを付け足し,「オペラ座の怪人」をモチーフとした楽曲に作り替えられた。シンクラヴィアがレコーディングに導入され,日向大介が共同プロデュースした。

13. MAGIC/小室哲哉
東京〜マイアミ〜ニューヨークで制作が行われた小室哲哉のソロアルバムのタイトル曲。ヴォーカルディレクションを日向大介が行い,コーラスワークも含めたヴォーカルの落とし込み方に定評があるM. Hutchinsonがミックスを行っており,小室哲哉のクセのある歌声も爽やかで聴きやすい仕上がりになっている。TR-808/TR-909による軽快なリズムは,小室ファミリー時代の到来を予感させる。

14. Too Shy Shy Boy!/小室哲哉
観月ありさのシングル曲を,ラテン風のアレンジでセルフカバー。実際のアレンジ作業は,多くの部分が久保こーじに任された。TR-909によるクラッシュシンバルの打ち方やスネアの連打に,久保こーじらしさを感じられる。サビ以外の歌詞は,新たに作り替えられている。David Mannによるサックスが曲のクライマックスで入る構成は,trf「WORLD GROOVE 3rd. chapter」と共通している。

15. summer visit/華原朋美
1996年に発売された華原朋美の1st.アルバム『LOVE BRACE』に収録された曲。ヴォーカルは,ムードを出すために観音崎マリンスタジオ(観音崎京急ホテル内,現在はチャペル)で録音された。Aメロでは,一瞬使われるA♭dimコードに乗るメロディが,不思議な雰囲気を醸し出している。楽曲制作は,小室哲哉と松尾和博の二人でほぼ行った。現在はORUMOKレーベルの楽曲は配信が解禁されていないので,2013年のライブヴァージョンを採用。

16. Summer Holiday/篠原涼子
1995年に発売された篠原涼子の2nd.アルバム『Lady Generation 〜淑女の世代〜』収録曲。アコースティックギターのストロークとパーカッションに,TR-808のリズムが軽快に絡み合う曲。作詞家の前田たかひろは,篠原涼子の歌声について,「オトナっぽいんだけど、インテリジェンスを感じさせる声」と評している。この曲も,透明感のある美しい歌声が,爽やかな夏曲にマッチしている。

17. love the island/鈴木あみ
グアム政府観光局のCM曲に起用された鈴木あみのデビュー曲で,唯一の8cmシングル曲。全編にわたり,Randy Waldmanのアレンジによるストリングスが入り,フレッシュかつゴージャスな仕上がりになっている。「alone in my room」のカップリングには「love the island TK ragga mix」も収録されており,TKレゲエでプレイリストを作成する際は,そちらもお勧めしたい。

18. OVER & OVER/TRUE KiSS DESTiNATiON
バリを感じさせるガムラン系の音色が印象的。インディーズ盤アルバムでは全てasamiのヴォーカルであったが,メジャー盤シングルでは,asamiのヴォーカルと小室哲哉のラップが交互に出てくる形に作り替えられた。ラップ,コーラスの裏メロも含めて,多層的にメロディが積み上がっていく構成が心地よい。"Bassy" Bob Brockmannによる変則的なキックの構成に,当時のR&Bの傾向も反映されている。

19. You're my sunshine(Hollywood Mix)/安室奈美恵
シーブリーズのCM曲。アルバム『SWEET 19 BLUES』に収録されたヴァージョンは,Keith Cohenによるミックス。Randy Waldmanによるストリングスやホーンセクションのアレンジが入り,キックが強調されたことで,シングルとは異なる印象の曲になった。CMタイアップで使われたサビ頭と,疾走感のある曲のメイン部分を,徐々にBPMを上げてつなげていく手法が画期的だった。

20. Me love Peace!!/安室奈美恵
1997年のアルバム『Concentration 20』に収録された。ハードなデジロックを主体としたアルバム構成のなかで,佐野健二によるベースが心地よいレゲエ曲。南の島を舞台にしたトロピカルな曲であるが,マークパンサーによる歌詞には何故かライオンが出てくる。2001年に沖縄で開催された「MUSIC FEST PEACE OF RYUKYU」でも歌われ,現在でも根強い人気を誇る。

21. How to be a girl/安室奈美恵
当時の小室哲哉が嗜好していたデジロック路線を前面に出した曲。武藤眞志監督によるPVは,イギリスの「エジンバラ国際映画祭」で音楽ビデオ部門にノミネートされ,『ミラーボール2』にて上映された。小室哲哉によるワイルドなコーラスは,その筋のファンによく知られている。ザ・トロフィーズの住吉中によるドライブ感のあるベースも聴きどころ。

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