マネジャー1年目の七転八倒を振返って思うこと
22年4月に持ち上がりマネジャーになって1年が経ちました。なかなかリアルタイムでは説明しにくいような失敗とトラブル続きの1年でしたが、ふとこの春の面談でボスから「色々大変そうだったけど、あなたはまた一連の経験を振り返って学びにするんだろうね」と言って頂いたことや、大学院同期の皆さんと話していて「めちゃくちゃ揉めてたけど、めちゃくちゃ良い組織になって表彰もされたってどうリカバリーしたの」と聞いて頂いたことをきっかけに、この1年の「挫折の記録」を少しまとめてみたいと思います(1年分の日記を読み返しました)。テーマはずばり、「持ち上がりマネジャーってどうして苦戦しがちなのだと思いますか?」。22年12月、悪戦苦闘している最中に本社からヒアリングに来られた方に聞かれ、その場ではぐうの音も出なかった質問です。
1年前の3月に大変有難いことにpromotionさせて頂いて、ボスから「ずっと(マネジャーを)やりたかったんだろうから思い切りやってみろ」と背中を押して頂いて、「これまでやりたかったことをやるぞ!」という想いで思った通り組織課題を片っ端から改善しようと行動したら、やることなすこと上手く行かなくて文字通り七転八倒してしまい「もう終わった」「誰にも顔向けできないなぁ」と思い詰めるところまで何度か行きました。どん底になる度に色々な方に励まして助けて頂いてなんとかリカバリーが軌道に乗り、今は日々の出来事はありつつもメンバーの皆さんと一体感を持って組織運営ができていると感じられています。23年春の面談では、後輩やメンバーから「僕が言うのもおかしいですが、1年前と見違えるようにマネジャーらしくなりましたね!」、「地元が良くなるように真っ直ぐに行動し続けて、成果が出てきているのは素直にすごいと思います」と言ってもらうところまできました(苦笑)。何はともあれ社会人生活を振り返って指折りの、とても新鮮で濃い1年だったことは間違いないので、自分なりの気付きや行動のメモを残します。
※基本的に僕よりずっと上手く、スムーズにやれている方が大半だと思います。あくまで主観の経験談として受け取って頂けると幸いです。
0.(前提として)僕がマネジャーになるまでの1年
僕は入社17年目となる2021年4月に今の拠点にサブマネとしてやってきて、「あぁ自分はもうpromotionとかはしないんだろうな、会社人生そんな上手くいかなかったけど人生を無駄に過ごさず『人の役に立つ・喜ばれる』人間では居続けよう」とか思いながら人事のことはあまり考えずに周りが助かるだろうと思うことをやりまくっていたら、幸運な巡り合わせで1年後にマネジャーに昇格させて頂いたという経過を辿りました。そこの心理的な経緯は前回記事に記載しています。
今日は、その先1年の話です。プレイヤーからマネジャーへの変化で組織も落ち着かなかったですしやりたいことに反発を受けることも多く本当に壁にぶつかりまくっていたので、なぜそこまで七転八倒しないといけなかったのかについて、できるだけエッセンスを抜き出して振り返ります。(※基本的に自分の振り返りなので他人の話はほぼないです)
1.メンバーとの「関係の再構築」をスムーズに進められなかったこと、個々の問題に一人で対処してしまえると思ってしまったこと
21年3月までは、「何があっても解決してくれるチームリーダー」のつもりで拠点内外で熱く奔走していた熱血チームリーダー(自分)のpromorionに対して、メンバーからは最初は微笑ましく受け止めてもらったように思います。一方で、僕自身は色々な方から「プレイングマネジャーにだけはなるんじゃないぞ、プレイヤーのままでいたら仕事が回らないんだからな!自分でやるなよ!!」と何度も何度も念押しされ、あらゆる依頼や相談をしてくれるメンバーの期待と自分のやるべきことのギャップを最初から感じながら「皆さんが期待しているように、何から何からやるのはもう難しいのです…」と内心気まずい思いをしていたのでした。結果としてそれまでの「熱さ」で多くを語りながらも実務では「手は出したらダメだったな」とチームリーダーにアサインすることが多く、残業管理や日常業務にうるさいだけの細かな「マイクロマネジメント」型リーダーになってしまい、僕を頼ってくれていたメンバーからは徐々に白けた反応を受けていくようになっていったように思います。
ある程度の反発などは人間関係の再構築としてありえるプロセスかとは思いますが、それまでは「自信満々のチームリーダー」でいたプレイヤー型の自分にとっては、それはメンバーとの強い繋がりを断ち切ってしまうような「痛み」を感じ続けるプロセスでもありました。メンバーからのまるで「あなたがやらないんだったら誰がこれまでみたいにトラブルを助けてくれるんですか(以前はやってくれたじゃないですか?あぁやらないんですね)」と言わんばかりの冷ややかな目、後輩達の「で、この状況どうしますか、自分でやるんですか(やろうと思ったらできると思いますが…)」というような心配そうな表情とともに、自分のそれまでの信頼貯金をどんどん目減りさせていくようなしんどい期間の記憶として思い出されます。
そして、ここからは得た学びです。言うは易し、なことばかりですが。
2.学び①:一定規模の組織を、自分が走り回って直接改善して回るのは難しいこと
サブマネとして組織の端々まで見えていることの多かった自分は、それまでの関係の延長上でメンバー個人の課題に対して直接の改善フィードバックをしまくっていたのですが、結果とすればこの「マネジャー自ら指導しまくる」スタイルは間に入ってもらうべきサブマネ層の力を借りれない分「局所的なアクション」に終わってしまいますし、評価者からのダイレクトで細かい指摘にはメンバーも本気で反発することも多いですし(今まで言われなかったことが悪い等。ここは大きな誤算)、自分がネガティブなコミュニケーションの泥沼にはまっていく相当な悪手だったと思います。タイミング悪く度重なる災害で仕事が非常に忙しくなった時期でもあり、ビビットに反応するメンバーへの対処にメンバー全体の疲弊感が合わさって組織全体がどんどん疲弊していったのが上半期でした。(今思えば、自分で口はたくさん出しながらも「手は出さないで権限移譲してるつもり」だったのがチグハグなところでした。)
で、年度中盤頃にトラブル続きで八方塞がりになった自分を見た後輩達が「いい加減この人に任せてても火は収まらんな、弱ってはるな」と諦めてくれたのか、徐々に「もうここから先は僕らで対話もやるので大丈夫ですよ、一人で全部抱えなくて大丈夫ですから」と前に出てくれるようになってからあらゆることが劇的に上手くいくようになりました。そこから徐々に、組織の決定事項について(人事・評価といった事項を除いて)「サブマネ層が主導してあらゆる施策を決めて、メンバーに主旨を語り、指示して、自分達でフォローしてくれる」場面がどんどん増えて今に至ります。結局のところマネジャーがあれこれ指示する「トップダウン型」からチームリーダー主体の「ミドルアップダウン型(ミドルが上下に影響していく方式)」になることでマネジメント側・メンバー側の双方に「良い意味の曖昧さと余裕」が生まれてまさに潤滑油が生まれていくのですね。(前者は危機時のリーダーシップ、後者は平時のリーダーシップのようにも言われることがありますね。)
その流れで、例えば今では自分が朝礼で細かいことをせっかちに話すようなこともすっかりなくなりました。以前よりずっと「少なく、ゆっくり」話すようになると、メンバーが以前よりも話をよく聞いてくれるようになったと感じるのは嬉しい誤算でもあります。一から十まで自分が言う必要ってないのだな(むしろやかましく話すのは逆効果ですらあるのかもしれないな)と。
「権限移譲、エンパワメント」と口でいうのは簡単なのですが、わかるとできるは大違いだったというのが実感です。「自分の任せ方は適切か、移譲したい相手に余裕はあるか」このあたりは大事な要素で再現可能なようにしっかり振り返っておきたいと思います。
※追記)好循環を作るきっかけは突き詰めると「(結果として)チームリーダーに『自ら語ってもらう』機会を増やすことができたこと」だったように思います。自分が「語るだけ語って丸投げする」ような良いとこ取りをせず、主旨を語るところからチームリーダーにしっかりやってもらうのがポイントだったように書きながら感じました。
3.学び②:「あなたのプレイヤー時代の強みは封印せず出していけば良い」というアドバイス
22年12月に来訪された本社の人事担当の方が、自分との対話の第一声で「持ち上がりマネジャーって苦戦する人が多いのですが、どうしてだと思いますか」と核心を突く質問を下さった話は冒頭に書きました。僕が上手く答えられずゴニョゴニョ言い訳をしていたら「あなたのプレイヤー時代の強みは、あなたが信頼されてきた理由でもあるんだから全部封印する必要は全くないんですよ」「その上でどこまで手を出して、どこから任せるかは殆ど全てのマネジャーが日々試行錯誤していることなんですよ」とアドバイスを頂いて目から鱗だったのでした。自分のプレイヤー時代の強みは「対外的な交渉力」だったのですが、そのアドバイスを頂いた直後に「あぁそういうことか」と、ずっと組織メンバーを悩ませてきていた地元の利害関係者(複数)との交渉と合意締結を自分でどんどんやり始めてみるようになりました。メンバーやチームリーダーの皆さんからのリアクションは「あぁ、やらないといけないと思いつつできてませんでした…とても助かります!」「口だけじゃなくて、手も動かせる●●さんがちょっと戻ってきたかも」というように変わってきたように感じたのでした。(その後、自分が道筋をつけたこの「地元利害関係者との顔の見える交渉」は担い手も広がり、しんどい交渉をメンバー任せにしない、組織としての一体感を作る1つのきっかけになったと思います。非常に頼もしい後輩達の姿を日々見ています。)
4.今、振り返って思うこと
今、マネジャー初年度の1年を振り返って思うことは「まず自分が思ったようにやってみて、無数の失敗を助けてもらいながらまた七転八倒して(おそらく何度も期待を裏切ってしまって)、それでも気長に見守って頂いたことで何とか『自分なりの塩梅を掴む』という本当に良い経験をさせて頂いた」ということです。「リーダーは権限移譲が大事だよね」と山ほど本やケースを読んで頭で理解しながらも、目の前で改善したいことがあるとついつい口を出したくなるものだったり、そういう「言うは易し・行うは難し」のことって常なのだと思います。
また嬉しいことに、権限移譲をすることでチームリーダー層もメンバーも見違えるほど活き活きしているように(必死でも活力があるように)見えます。何より外部の方から「あなたのところの●●君や**さん、めちゃ頑張ってるね!」と言われまくるようになったということが想像以上でした。(彼ら彼女らから見れば、とにかく働かせてくる上司(自分)への不満もあるとは思いますが。)
このような自分に組織を任せ続けて下さったボスや関係者の皆さん、自分を助けてくれたチームリーダーの皆さん、そして最後には「しゃーないな」と思って少しずつ適応してきてくれたメンバーの皆さん、それぞれに大変感謝しています。これから組織としてのサービス品質をさらに高め続けていくことで、しっかり恩を返していきたいと思います。人が集まっている以上、組織にトラブルはつきものですし今も日々試行錯誤ではありますが、引き続き良い組織を作って地元に貢献していきます。(終)
※書籍紹介。世の中に出回っている「新任マネジャーの教科書」的な本はかなり読みましたが、自分の中で印象に残ったものを残しています。
~(1)キングダム(マンガ)~
いきなりマンガなのですが、自分が相談したボスが皆さん愛読していた「キングダム」。悩み倒した時に一気読みして、「あぁどの将軍もめちゃくちゃ強いし、時には一騎討ちもしてるやん。プレイングマネジャーはだめと思い込んでいたけれど、リーダーが前に出ても組織は成り立つんだな」と妙に納得して、地元の業者にどんどん出てトップ交渉をしていって、メンバーから一定の信頼を取り戻せた(と感じる)きっかけになったのでした。
~(2)リンダ・A・ヒルさんの本~
※邦訳タイトルは少しミスリードです。原書タイトルは「Being the Boss with a new preface」。表紙も少し洗練されていますね。
いずれも新任マネジャーの悩みや心構えについて、例えば「昇格すると人間関係はどう変わるのか、部下との友人関係は成り立つものか」など事細かに豊富な事例をもとに記載されている本です。もともと自分が仕事で経験する悩みのほぼすべては「構造的に、世界中で起きうること」と思っているのですが見事にスポットを当てて記載してくれています。過去にも書きましたが、学者さんが書かれたものは「多くのサンプルからの考察」なので、主観が少なく普遍的なのが(押しつけがましくないのも)良いですね。デスクに置いて毎朝少しずつ読み進めるのが心の支えでした。
リンダ・A・ヒルさんの本は現行で買えるものは少ないですが(絶版なので表示額は高いですが、実質1000円くらいで買えます)、先日出版されたハーバードビジネスレビューの総集編にも執筆されていましたし、有名な方なのだと思います。個人的にとても好きな学者さんです。
~(3)駆け出しマネジャーの成長論(中原淳さん)~
組織論、人材育成論で有名な方の本。総じて「マネジャーってわからないことだらけだけれど、現場に放り出されて悪戦苦闘して、成長していくのが日本の管理職だから頑張れ!とにかく頑張れ!」という印象の内容でした。新任マネジャーのぶつかる壁、乗り越えるべき壁についてロジカルに整理されているので、自分の状況は結局あるあるなんやなと、気持ちが和らいだように思います。結局やってみないとわからないことばかりなので、本を読んで「ふむふむそうか」と思っても書いてあるドツボにはどれもハマってしまったように思います(多分そういうことも書いてありますね)。
ただ、マネジャーになってから相談相手は極端に減りましたし、人や本に共感してもらうこと、俯瞰することは、心を保つためには大事だったと思います(今でも読み返します)。
~(4)労働判例百選(別冊ジュリスト)~
マネジャーになって戸惑うことの多かったことの1つが「労務管理」についてでした。時に厳しい対話をすることもありますが何かと「それってパワハラじゃないんですか」とか言いたがる方もいるもので、その度に少し心がぐらつくようなストレスがあり手に取った本です。リーガルな目線で「どこがボーダーなのか」という話を知ることは(ぎりぎりを攻めるという目的ではなく、自分のスタンスで問題ないことを確認する意味で)自分にとってブラックボックスをどんどんクリアにしていくような、癒しの時間でした。同時に、日本の戦後の経済成長は労務問題とともにあったと言っても過言ではないような激しい労使関係の歴史も垣間見た思いでした。充実したこの内容でこの値段、コスパ最高です。