見出し画像

銭湯

何年も前、僕は疲れ切っていた。

それは、自身の過去を振り返っても苦しく、現状を見ても苦しく、それならこの先歩むであろう道は真っ暗で。

まずは仕事を辞めたかった。

でも、働く人間ではあり続けたい。

大変な仕事に変わりはなくとも、働く環境を変えることで精神的に良い方に向かう、(かもしれない or こともある)と聞いたことがある。

つらいと分かっていながらつらい業務を日々こなすことが「つらい」の核たる原因となっているケースもある。

であるなら、新しい世界に飛び込んで、良くも悪くも「先が見えない仕事」をすることも、人生の改善策になるのかもしれない。

ギャンブルなことかもしれないが、生育環境がそもそも負債みたいな状態から始まってるんだ。

新しい仕事、新しい仕事。

僕の目の前には、古い銭湯があった。

銭湯の入口には張り紙が。

太い筆で手書きしたような字で、「求人募集」と書かれていた。

求人募集って、不思議な日本語だな、と思いつつも、これだ、とも思った。

清掃業務の経験はない。

きっと腰とか痛くなるんだろう、でもそれくらいしか分からない。

「つらいかどうかも分からない」仕事が目の前にある、僕は気がついたら銭湯の受付まで行き、志願した。

「え?よく見てよ、65歳以上の女性限定だって」

失礼しました、と引き下がり、もう一度張り紙を見直した。

条件、65歳以上の女性、と書いてある。

僕は本当に疲れ切っていた。

銭湯の近くに住んだことのない人生なので、銭湯通い慣れもしたことがないし、空き時間にちょっと行こうかな、という思考にもならない。

でもたくさんの人にとっての憩いの場になっている。

それでも金銭的、体力的に経営や存続が難しい。

楽な仕事なんてきっとこの世にはないんだな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?