20201104「不審者訓練」

駅のホームで電車を待つときは、両足に力を込めて踏ん張ります。
知らぬ誰かに突き飛ばされて線路に落ちないためです。
生きたくて必死みたいで恥ずかしいですが、念には念を。

思えば昔から、最悪の事態を予測し、備える癖がある気がします。
小学生の頃はよく「もし教室内に不審者が入ってきたらどう対処するか。」という妄想をしていました。
必ず全員で生きて帰る方法。
火災訓練があるのに不審者訓練がないのはおかしい。
僕だけでもシュミレーションをしておかなければ。

僕の中の不審者はどこかいつも短絡的で、世の中に対する行き場のない怒りだけを原動力に前の扉から勢いよく入ってきました。
僕は、怯える同級生たちに目で合図を送ります。
「大丈夫。まずは落ち着こう。」
相手は興奮していますから、下手に動くと命を落としかねません。
まずはおとなしく相手の出方を伺おう。
先生も同じように判断したのか、その場で手を上げて立っています。

いたずらに相手を刺激することなく均衡を保つことに成功した僕たちは、タイミングを見計らって攻めに転じなければなりません。
当時、僕はクラス中でもドッジボールが強い方だったので、身体能力的にも行くなら僕だと考えていました。
外の物音に反応した相手の隙をついて、胴にタックルしようと試みますが、子どもの僕のスピードと力では太刀打ちできず、撃たれてしまいました。
相手はピストルを所持していました。
やり直し。
クラスで1番足の速かった元ちゃんと共闘します。
とはいえ、事前に打ち合わせはできていませんから、どうにか息を合わせる必要があります。
元ちゃんの方を見ます。
目をつぶり耳をふさいで声を押し殺して泣きじゃくっていました。
普通はそうか。
計画変更。



などと幾度もシュミレーションを重ねて、小学生の僕がたどり着いた答えは「余計なことをするな。大人の到着を待て。」というもの。
最初から最後までできるだけ相手を刺激せずに時が過ぎるのを待てるだけ待つ、という保守的な考え。
地に足が着き過ぎた退屈な答えで、好きになれませんでしたが、これしかないという実感だけはありました。
幸い、このシュミレーションの成果を試すことなどなく、平和に毎日は過ぎていきましたので、実際どうしたらよかったかなんてまったく分かりません。

同じような妄想をしており、かつ、他人任せでなく己の力で相手を打ち負かせる必勝法を知っているという猛者の方いらっしゃいましたら、ぜひご教示ください。

それを知るまで死ねませんから、ホームで足踏ん張って生き延びときます。



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