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国鉄とJRの電車の「車両番号」の奥深さ~「クハ」「モハ」以外で分かること~


まえがき

私がちょうどいい感じに鉄道への知識を溜め込み始め、「この電車は○○系だ」くらいの判別が出来るようになった幼い頃、京葉線に乗る機会があった。

その頃の京葉線には「201系」という電車が居て、珍しい存在ではなかったので、海浜幕張駅で電車を待つ間にも201系はやってきた。

筆者は当然「201系だ」と認識するが、車体に記された番号を見た母親が一言。「コレって200系って言う電車なの?」と。そんなバカなと車番を見ると、確かに「クハ200」と書かれていたのだ。

その時はどういう理屈か分からず、適当にあしらった記憶があるが、今となってはその理屈を説明できる。

201系なのにクハ200と名乗っている理由。それは一般的な電車は車両の向きや設計の違いによって番号を増やしたり減らしたりしているからなのだ(めちゃくちゃ噛み砕いた説明)。

…という前書きはほどほどに、本稿では巷にある「鉄道車両の記号の意味」を説明した記事であまり深く語られないであろう、「車両の番号の意味」を解説していこうと思う。

「クハ481-1016」という番号から読み取れること

結論から言うと、

  • 485系電車の制御普通車

  • 雪や寒さに強い区分で、東北本線基準で上野向きの先頭車

くらいの事はとりあえず読み取れるのだ。
なんのこっちゃ?という方がほとんどだと思うので、一つ一つ説明していく。

まず、「クハ」や「モハ」といったカタカナの意味は、鉄道系Youtuber辺りがよく解説しているので本稿では割愛する。モーターのない、運転台のある先頭車である。

次に「481」という番号。485系の先頭車を示す番号だ。
485系という電車も、今さら説明は不要だろう。1067mm軌間で電化されていれば、大体の鉄道路線は走行可能な、旧国鉄の特急形電車の代表格的存在だ。しかし、485系なのになぜ「481」という番号が用いられているのか。それはこの485系の設計の経緯に理由がある。

485系の先頭車はなぜ「クハ481形」を名乗るのか

485系の特徴を掘り下げてみよう。
まず、485系は以下の電源方式に対応している。

  • 直流1500V

  • 交流20000V・周波数50Hz

  • 交流20000V・周波数60Hz

少なくとも国鉄やJRの在来線で使用されている電源はこの三種類と言っても過言ではない(新幹線はさらに高電圧、逆に地下鉄や地方私鉄などではこれらより低い電圧の場合もある)。50Hzは主に東北や北海道、60Hzは北陸や九州の交流電化路線で使われている周波数だ。
485系が日本中ほぼどこでも走れる電車と呼ばれるゆえんは、搭載している電気機器がこれら三種類の電源全てに対応しているためなのだ。

だが485系という電車は「三種類の電源全てに対応した電気機器」が開発されて始めて現れる電車である。ではそれ以前はどうなっていたのか。
その答えは「直流1500Vと、交流20000V、ただし周波数は50Hzか60Hzのどちらかのみ対応」というものだった。

少々ややこしいが、箇条書きにするとこういうことである。

  • 直流1500V

  • 交流20000V・50Hz

もしくは

  • 直流1500V

  • 交流20000V・60Hz

つまり、かつては二種類の電源方式のみに対応した電車が開発されていたのだ。

歴史的な経緯も確認してみよう。
1964年にまず「481系」という電車が現れる。この481系が対応している電源方式は直流1500Vと交流20000V・60Hzのみである。
さらに翌年の1965年には「483系」という電車が現れる。この483系が対応している電源方式は直流1500Vと交流20000V・50Hzのみである。 

この時、483系は中間車となるモーター車しか製造されていない。一方の481系は先頭車からモーター車、グリーン車や食堂車を含めて全てイチから新しく設計・製造されている。
実はこの時、481系も483系も、先頭車には「クハ481形」を用いるという方針で製造されていたため、「クハ483形」は存在しなかったのだ。

種を明かすと、当時の国鉄は「モーター車の電気機器が対応している電源が異なっていても、モーターのない車両は共通で使えるようにしよう」というような設計方針になっていたため、先頭車のみならず、グリーン車と食堂車も481系と483系で共通の形式、すなわち「サロ481形」と「サシ481形」を用いている。

詳しく解説すると、モーター付きの形式において以下の違いがあれば別の形式とする思想が当時の車両設計では取り入れられていた。

  • 主電動機の出力

  • 抑速ブレーキ(下り坂を下る際に使うブレーキ)の有無

  • 横軽協調運転機能(碓氷峠、かつて存在した信越本線横川~軽井沢駅間の急勾配区間を通過する際に連結する補助機関車と動力を協調する機構)の有無

  • 歯車比

  • 対応周波数(交直流・交流電車の場合)

横軽協調運転だけはモーターのない車両にも特別な対策が必要となるため、モーターのない車両も新しい形式として設計されているが、それ以外の車種では先述した、「モーター車の電気機器が対応している電源が異なっていても、モーターのない車両は共通で使えるようにしよう」という設計方針が採られていたということだ。

その後、国鉄の在来線で使われている三種類全ての電源方式に対応した電源機器が開発されると、1968年にいよいよ485系の登場である。
そして、対応している電源方式の変更の影響を最も大きく受けるモーター車は485系で独自に開発されたものとなり、モーターのない車両は従来どおり481系由来のものを(改良しながら)製造することになったため、485系でありながらモーターのない車両は「481」の番号を名乗ることになったのである。
以上が「485系なのにクハ481形」となっている理由の大まかな説明である。

ちなみに、後年には「クハ485形」も現れるが、それはJR化後に現れた改造車の形式名なので、本稿では解説しない。

「寒さに強く、東北本線基準で上野向き」の意味

485系はかつて全国各地で活躍した特急電車であり、その活躍範囲は北は北海道、南は鹿児島と広く、国鉄ないしJRの在来線のない沖縄、電化区間が皆無だった四国など一部を除けばほぼ全国で姿を見られた。

その中には、冬は寒く雪も多く降る東北や北陸も当然含まれていた。初期に製造された485系でもある程度の「寒さ対策」を行っていたのだが、不十分であるということが分かってきた。
そこで更なる寒さ対策を施した485系を設計し、車両の番号に「1000」を足してイチから番号を振り直して区別した。これが「485系1000番台」である。

解説書や解説記事では「ハイフンの後の数字は製造番号」と説明されていることが多いが、この場合の「1016」はクハ481形が1016両も製造されたという意味ではなく、「クハ481形1000番台の16両目」という意味になる。

だが、これだけでは「クハ481-1016」という車番が表す意味を正確に汲み取れたとは言えない。
まえがきの「車両の向きや設計の違いによって番号を増やしたり減らしたりする」という話を思い出してほしい。クハ481-1016にもこれと似た考えが取り入れられている。

結論から先に話そう。

  • 車両の番号が偶数になっている車両は、東北本線の場合上野寄りの車両、東海道本線の場合は神戸寄りの車両

  • 車両の番号が奇数になっている車両は、東北本線の場合青森寄りの車両、東海道本線の場合は東京寄りの車両

という基準があり、冒頭のクハ200形も似た基準が用いられているため、番号を見ただけでどちら寄りの車両であるかの区別がつくのだ。

ここからが本稿で最も専門的な話になる。
モーター車が1両単位となっている「旧性能電車」と呼ばれる電車では、東海道本線基準で東京方、すなわち「上り方」となる車両は奇数番号、神戸方、「下り方」となる車両に偶数番号を振る慣習があった。モーター車を二両一組とした(105系など一部車種を除く)「新性能電車」以降では、制御装置や主抵抗器などの機器を搭載した側のモーター車には奇数番号を、照明や放送などに用いる補助電源装置やブレーキなどに用いる圧縮空気を作り出すコンプレッサーなどの補助機器を搭載した側のモーター車には偶数番号が振られており、基本的にはこれらも上り方下り方で連結位置が決められている。

さらに、車両同士を電気的に連結するケーブルの端子、「ジャンパ栓」の取り付け位置も予め決められており、モーターのない車両では偶数番号と奇数番号で位置が異なる場合がある。このジャンパ栓の取り付け位置がミソで、奇数向き偶数向きどちらかにしか使えないようにジャンパ栓などが配置されている構造を「片渡り」と呼び、どちら向きでも使えるように配置されている構造を「両渡り」と呼ぶ。

余談だが、「両渡り・片渡り」に似た言葉に「両栓・片栓」というものがあるが、両渡り・片渡りはジャンパ栓の配置方法を示す言葉で、両栓・片栓はジャンパ栓の構造を示す言葉である。
両栓はジャンパ栓同士を繋ぐケーブル(ジャンパ)をジャンパ栓から完全に外せるもの、片栓はジャンパ線の片側がジャンパ栓から外せない構造になっているものを指している。一部の車両基地ではどちらの表現でも通じたようだが、誤用が多いため注意が必要だ。
両栓・片栓を身近なもので例えると、スマートフォンなどの充電ケーブルが近いだろう。USBケーブルをACアダプタから外せるものを両栓、外せないものが片栓と言えるだろう。

両渡り構造は比較的古い設計の電車で多く見られ、車両の製造番号が奇数か偶数かでおおよその向きを判別することが出来る。
一方、片渡り構造は比較的新しい時代の電車で採用される傾向にある。冷房電源を引き通すためといった要因で、車両の向きを反転させる可能性がほぼなくなったため、最初から向きを固定して設計した事が理由として挙げられる。また、車両の製造番号で偶数向き奇数向きを表す以外にも、形式名や番台区分で偶数向き奇数向きを表している事も多い。

例えば「クハ481-1016」の場合、「1016」は偶数であるため下り方(東北本線の場合は上り方)であると読み取ることができ、201系の先頭車「クハ200」は形式名が偶数であるため、下り方の先頭車であると読み取れ、209系の先頭車「クハ209」は奇数であるため、上り方の先頭車であると読み取れる。
一方185系の先頭車は全て「クハ185形」であり、「クハ185-1」「クハ185-315」というように、番台区分で偶数向き奇数向きを分けている車種であるため、この場合は製造番号の番台で見分ける必要がある(要は暗記項目)。

当然これらの法則に全く当てはまらない形式や車両も多く存在する。

  • 「サハ204形」「サハE530形」など、車体構造の違いや搭載機器の差異を起因とした形式違い

  • 「クハ164形」「サハ102形」など、他系列からの編入や方向転換を行った改造などによって生まれた形式

  • 169系や185系200番台など、急勾配を通過するために電動車の編成配置を偏らせた都合で編成全体が他の車両とは逆向きになっている(上り方に奇数設計の車両が来る)車種

  • 「クハ401-51」「クハ115-313」など、奇数番号だが偶数向きに方向転換された車両(これも暗記科目と言える)

以上の事から、「クハ481-1016」という車両は、「485系電車の制御普通車であり、雪や寒さに強い1000番台で、東北本線基準で上野向きの先頭車」ということが読み取れるのだ。

あとがき

記事の半分くらいが485系の解説になってしまった節はあるが、車両番号はカタカナの記号以外からも読み取れる要素が多いという話をした。基本的には国鉄とJRの在来線車両での話になるが、一部私鉄や民鉄の車両でも応用の効く理屈もある。

参考文献

  • 福原俊一著『415系物語』『115系物語』(JTBパブリッシング発行)

  • 梅原淳著『485系物語』(JTBパブリッシング発行)

  • 「旅と鉄道」編集部著『旅鉄車両ファイル004 国鉄185系特急形電車』(天夢人発行)

  • 国鉄72系電車 - Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%89%8472%E7%B3%BB%E9%9B%BB%E8%BB%8A 2024/02/13閲覧)

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