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前後不覚
午後の日差しは、昼間の光と同じ色をしているが、隠し味のような怠惰が折り混ざっている。
それは、クラッカーを食べたあとに喉に残る異物感のようなもので、そこに確かに存在しているのだけれど、取り除けないなにかだ。
各駅停車の電車はいくつもの駅を通過して、よく知らない画家の、ありきたりな展覧会に何枚もぶら下げてある風景画のように、つまらない景色ばかりを右から左に流していく。
しかし、つまらない絵だ景色だと思いつつも、よくよく見てみると新たな気づきや発見や、この間見たときとは違う何かの存在がそこにあったりする。
『違う何か』というのは、例えば新築のアパートであったり、焚き火をするおじさんの背中であったり、水面が低くなった河川などなど。
取るに足らないすごいことの連続で、この星は成り立っているな。
そう思う。
トンネルに入ると、景色が途絶える。代わりに、反射した車内や顔が見える。
よく見ると、それらは光の屈折の具合で二重になっていて、上手く貼り付けられなかったような二重の世界が広がっている。
今の世界の上からパラレルワールドを引っ付けたような、そんな感じ。
トンネルは異世界への入り口のよう。電車は暗闇を黙々と進んでいく。
私もやはり、静かに、暗闇に、落ち、る。
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