ゴールデンカムイはウェンカムイなのか

ゴールデンカムイ最終巻によせて。31巻一気読みの感情と感想。加筆部分ネタバレ含む。


 別冊太陽 日本の心280「アイヌをもっと知る図鑑 歴史を知り、未来へつなぐ」に掲載された北原モコットゥナシさん著の寄稿文「先住民族アイヌの心を知る」では、カムイについて以下のように解説されている。
「人間に神話的な物をペケレカムイ『清いカムイ』、人間に無関心であったり、邪な心から加害をするものをニッネカムイ『固いカムイ』やウェンカムイ『悪いカムイ』と呼ぶ。人間を殺すことができる者は、それをなさないことで生かすこともできる。したがって両者の区分は流動的であり、その者の本質というよりは状態ととらえることができる。」


 私がこの文章を読んだときに、一番に思ったのは、「ゴールデンカムイをウェンカムイにしなかった白石すげええ」だった。アシリパがレタラに「ウェンカムイになっちゃダメ!」と言っていたように、カムイは初めからペケレカムイかウェンカムイか決まているのではなく、その者の状態によって変動する。



 ではタイトルでもある、「ゴールデンカムイ」ははたしてウェンカムイなのか、ペケレカムイなのか。



 作中で鶴見は「黄金にもカムイがいるとすれば…!!それはアイヌにとって災厄をもたらす悪い神様なのではないかね? 触れる者に無残な死をもたらし どんなカムイよりも醜悪で凶悪で 眩しいほどに美しく 黄金色に輝くカムイ いわば…ゴールデンカムイか」と話している。この金塊争奪戦で数多の命が失われ、数多の人間が手を汚した。アシリパが金塊に執着するのは、アイヌのことはもちろんだが、アイヌ以外の手にゴールデンカムイが渡った時、それは本当にウェンカムイになってしまうことを予測していたからだと思う。31巻でアシリパは杉本と白石に最後のお願いとして井戸を開けないでほしい、つまり黄金を無かったことにしてほしいと頼んでいる。「あの大量の金塊を手に入れたから『めでたし めでたし』とは絶対にならない 持っているかぎり 殺し合いが延々と続く…!! みんな死んでしまった 黄金のカムイの呪いを断ち切らないと‼︎」と話す。鶴見がゴールデンカムイを悪い神様(ウェンカムイ)と言っているのに対し、アシリパは黄金のカムイの呪いという言い方をしており、黄金自体が悪いカムイというわけではないというニュアンスが感じられる。先述したようにカムイとは状態のことであり、ゴールデンカムイをウェンカムイにしたくないアシリパの想いがあるように感じる。
 だが実際問題そこに黄金が在る限り、黄金がウェンカムイになる可能性は一生消えない。そこを華麗に解決したのが最終話だった。白石、ゴールデンカムイをウェンカムイにしなくてありがとう…。もちろん白石がそんなことまで考えていたかは不明だが。(そこがいい)


だけど、それで終わりじゃなかった。


「カント オロワ ヤク ノ アランケプ シネプ カ イサム」
(天から役目なしに降ろされたものはひとつもない。)


この言葉はゴールデンカムイのコミックスの表紙カバー袖に毎巻書いてある言葉だ。中川 裕さん著の『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』の中ではこう解説されている。
「『役目なしに降ろされた物はない』というのは、カムイというものはすべて理由があってわざわざこの世界にやってきているのだという考え方です。」


 加筆部分で、まだら模様の金貨が人知れず北海道を救っていたことが分かった。あぁ、ゴールデンカムイの役目はこれだったのかと。争いを生むウェンカムイではなくて、新たな国を生み、そして今あるアイヌを守るカムイだったのかと。誰かを殺すことができるカムイは、それをなさないことで生かすこともできる。ゴールデンカムイは金塊をめぐっての戦い、まさしく争奪戦の物語だが、戦いだけの物語ではないことは読者なら皆知っている。杉本も、アシリパも、白石も、みんな、みんな、金塊によって出会い、学び、暮らし、気付き、赦し、赦され、そして前に進んでいった。ゴールデンカムイという物語のおもしろさはそこに尽きるのではないか。
 そして、黄金としての「ゴールデンカムイ」だけでなく、ゴールデンカムイにはこの物語そのものという意味もある。私もそうだが、私だけでなくきっと多くの人がこの作品からアイヌの文化に興味を持って、その文化に触れたり、学んだりしたことだろう。この作品にはそれだけの力がある。少数民族や消えゆく文化を私は再興できるわけじゃない。私には私の文化があり、その違いはなにをどうしても埋まることはないし、埋めるものではない。だからこそ、その違いを排他的に見るのではなく、違いを受け入れて、互いの文化を互いに尊重できればいいなと思う。アシリパは最終話で「それぞれの違う部分を受け入れて 共に生きていける道を探そうって話し合いたい」と言っている。「ゴールデンカムイ」に触れた人はきっとそんな想いをもつことができるのではないか。

 物語の終焉を見届けたものとして、私は声を大にして言おう。ゴールデンカムイというカムイは、ペケレカムイだと。

ありがとうゴールデンカムイ!最高だった!


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