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「不器用で」買って欲しいnote

 7/24日、わたくし短編集を出させてもらう運びとなりました。
皆様のおめでとうの声が聞こえてくるようであります。わたしの鼓膜は今確かに揺れております。

 小説の出版が現実味を帯びてきた数ヶ月前の頃から宣伝をすることになんとなく葛藤がありました。自分の書いたものが宣伝するに足るものなのか。さほど興味のない人に買ってと呼びかけても良いような作品になっているのだろうか。わたしの心の中にいる”仮想心無い人”たちが「それっぽいだけで大して面白くもない小説を宣伝してんじゃねぇよ」と囁いてくる。仮想ではなく、実際にそう言っている人も居るのだろうと思います。というかコメント欄とかで見ました。そういう人たちを見ると死ねば良いのにという気持ちも湧いてきますが、そうだよねとも思ってしまうものです。
これは自信があるとか無いとかそういった簡単かつ分かり易い話ではなく、なんとも説明の難しい感情です。小説を書くということ自体、ここまでの数少ない経験の中から思うに、無根拠な自己肯定と実際に手を動かしながら一文字一文字と増えていく文章の否定、ひいてはその書き手である自らへの否定との狭間に置かれてもがき苦しむ作業であるように思われます。
わたしは自己肯定よりも自己否定の方が少し得意で応援より苦言に心が引き摺られやすい質に生まれたようです。
書いたものは拙かろうと、その時々の自分の精一杯であるはずだ。そう思っていても、書いた物への否定に留まらず自己に否定の刃を向けてしまいたくなる、ある種の自傷の欲望のようなものがわたしの中に確かに存在しているように思います。ナイーブで傷つきやすいとはまた別の、まさに自傷癖のようなものです。
けれども自分に対する確固たる肯定感も同居していている。自らの心の内であるにも関わらず、読み解くのが非常に難しい。

 ただ出版に関わってくれる多くの方、編集者さんをはじめ、装丁のデザイナーさん、帯コメントをくださったRHYMESTER宇多丸さん、町屋良平さん、見本を読んでくださった書店員さんの御言葉に慰められて、宣伝するべきと思えています。
そもそも売れるに越したことはない。売れたら次書く場所が与えられるかもしれない。内容の評価はもちろんあるにしろ、それと売れるということはまた別。
うだうだとここまで書いてきたけれど、是非買ってくださいと、それだけがただ言いたかっただけです。
買ってね。


 ここで一旦『不器用で』の特設サイトをご覧ください。
収録した小説に関して一つずつ紹介文を書いていただいたのですが、それにプラスしてコメントを書こうかと思います。
読みたいと思ってくれる人が少しでも増えて欲しいので、出来るだけ正直に書きます。
どこまで書いて良いものか分からないのですが、ネタバレせずに書ける範囲で書きます。


①「遺影」
じゃあユウシはアミの遺影を作る担当な――。中学1年の夏休み、ユウシはクラスでいじめられている女子の遺影を作らなくてはいけなくなった。
貧しい親のもとに生まれてきたアミと僕とは同じタイプの人間なのに……。そう思いながらも、ユウシは遺影を手作りし始める。

人生で二つ目の小説。暗め。
学生時代って実家が貧しいっていう理由で虐められている人っていたと思うんです。そんな理不尽なこと無いと大人になった今は思うけれど、学生にはそういう教室内の虐めが起きる雰囲気に抗うことも難しい。ユウシもアミも両親が貧しく、一方は虐めに加担する側、他方は虐めの標的になっている。
ユウシは団地に住んでいるのですが、小池という友達に夜中電話を掛けて取材しました。
小池はスナックで酒を飲んでいたのを抜け出して電話に出てくれて、誰かの下手なカラオケが聞こえる中、色々質問させてくれました。感謝。
個人的には途中の花壇のところがとても好き。

②「アクアリウム」
僕の所属する生物部の活動は、市販のシラス干しの中からシラス以外の干涸びた生物を探すだけ。
退屈で無駄な作業だと思いつつ、他にやりたいこともない。同級生の波多野を見下すことで、僕はかろうじてプライドを保っている。
だがその夏、海釣りに行った僕と波多野は衝撃的な経験をする。

初めて書いた小説。暗め。今回本になるにあたって結構修正しました。話の順番も少し変えたりしてます。
高校生の時の東日本大震災で耳にした話が発想の一歩目になってます。あの時は神奈川に住んでいたのですが、いろんな情報が錯綜し、うがい薬の買い占めが起こったりなんかして、被災地に住んでいるわけではないにしろ混沌としていました。
そんな時に聞いて心に引っかかっていた話が、初めて小説を書こうという時に思い出されて、書きました。
全てにおいて見下せると思っている友人との関係性について書いた話。
『リスペクトない人間関係』がテーマだと創作ノートには書いてありました。けれど今の自分が冷静に考えると、これはてんで違う。全く的外れ。あの時のニシダ、何にも分かってない。

③「焼け石」
アルバイト先のスーパー銭湯で、男性用のサウナの清掃をすることになった。
大学の課題や就職活動で忙しいわたしを社員が気遣って、休憩時間の多いサウナ室担当にしてくれたらしいのだが、新入りのアルバイト・滝くんは、女性にやらせるのはおかしいと直訴したらしい。
裸の男性が嫌でも目に入る職場にはもう慣れた、ありがた迷惑だと思っていたわたしだったが――。

人生で六回目の小説。暗くはないけど、まぁ明るくもない。初めて女性が主人公。
野性時代にこの小説を載せてもらうとき、編集の方が女性の主人公だけど違和感なく描けていると言ってくださって嬉しかった。現在、新しい小説を書いているところなのですが、その一言が嬉しかったから女性を主人公にしちゃいました。
創作ノートを見直すと、『だれかにおもってもらえるってどんなことであれうれしいはず』と書いてあります。二重丸で囲まれているので多分これがテーマっぽい。たぶんあってる。
主人公がお付き合いしている彼氏とのシーンが好きです。自分が嫌いな奴を上手く描けた気がする。セックスをもう少し書こうかと思ったのですが、自己満足になるなと思ってやめました。

④「テトロドトキシン」
生きる意義も目的も見出せないまま27歳になり、マッチングアプリで経験人数を増やすだけの日々をおくる僕は、虫歯に繁殖した細菌が脳や臓器を冒すと知って、虫歯を治さないという「消極的自死」を選んでいる。
ふと気が向いて参加した高校の同窓会に、趣味で辞書をつくっているという咲子がやってきた。

三回目の小説。暗めだと思われそうだけど、明るい。というか個人的には一番ファニーだと思う。
ニシダ自身の話なのでは?と言われること多め。
咲子という人にモデルがいる。趣味で辞書を作っているというところまで同じ。
後半読みづらくなってるかもしれないけれど、煙草を吸いながら話すリズムを出来るだけ正確に表現しようとしているところがあって、大した箇所ではないけれど個人的にはそこに思い入れがある。

⑤「濡れ鼠」
12歳年下の恋人・実里に、余裕を持って接していたはずの史学科准教授のわたし。
同じ大学の事務員だった彼女がバーで働き始めてから、なにかがおかしくなってしまった。
ある朝、実里が帰宅していないことに気が付いたわたしは動転してしまう。

四回目の小説。ファニーめ。
野性時代に載せてもらったときのタイトルが気に入らなくて、今回タイトルを変えました。
前のタイトルは「虚栄心の鎧」
今日までにタイトルがないとヤバいですよ。という催促を何度か無視して、ずっと考えても良い案が出ず、ええい、ままよ!と古風な勢いだけで付けたタイトルだったのですが、しっくり来ませんでした。今回本にするにあたって編集者の方とzoom会議を行い、決定しました。短編を幾つか書いてきたけれど、タイトルつけるの延々と苦手。
一番実体験に近い話。
別に何にも起こってないっちゃない。おじさんが主人公。途中で何が書きたかったのか分からなくなってきて、何度もふわふわした。
何にも起こらない話にしようと努めて書きました。



こんな感じです。是非買って読んでください。
あとは電子書籍限定のあとがきがあります。
文字数も内容も何の指定もなく非常に困りました。電子書籍が好みの方は是非読んであげてください。
3パターンくらい書いて、全部ボツになってしまいました。誰かにNGを出されたみたいな言い方だけど、自分自身が納得できずに書き直しただけです。あとがき未遂が三つほどあるので、それもいつかnoteに出しても良いかなと思ってます。

とにかく宣伝がしたくてnoteに戻ってきて、たった今宣伝をしたのですぐに立ち去ろうと思っていました。
けれど意外とみんなnote読んでくれてるなと思ったらまた何か書こうと思っています。

Amazonなどなど予約できますので、お好みのサイトから是非よろしくお願いします。

ニシダ

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