見出し画像

助手席に乗りたい

 誰かの運転している姿を見るのが好きだ。

 昔は、後ろの席ですれ違い通信をしたり、弟妹と指スマをする方が好きだったが、いつからか、誰かの運転している姿を見ながら横で他愛のない話をすることが私のマイブームになった。

 多分、他人の運転を意識するようになったのは自分が運転するようになってからだと思う。ハンドルの持ち方の癖とか、ブレーキのタイミングとか、カーブの曲がり方とか。乗ってて心地よかったり、ちょっとハラハラしたり。助手席は車の中で1番危険な席だと言われるけれど、そんな楽しさを含んでいるなら、プラマイゼロだと思うくらいには、私はもう助手席の虜である。

 昔、小さい頃旅行で遠出をする時には、運転が得意な父が家族全員を乗せて、長時間車で走ってくれた。子供たちが愚図らないように、眠っている隙に抱きながら車に乗せて、夜中じゅう車を目的地まで走らせる、という今考えれば体力お化けみたいなことを両親はしていたのだが、その時に私は父よりも、母の心配をしていた。「父は運転があるからいいけど、母は何もすることが無いのに父が寝ないようにするためだけに起きて隣で話し続けていなければならない。」小さい頃は、往復含めて12時間も話すことなんてあると思えなかったし、寝ないことが辛いことだと思っていたので、助手席に座る母は偉大に見えていた(父が偉大でないわけでは無い)。

 でも今なら分かる。私は母親譲りなのか、考えなくても話すことなんて無限に湧き出てくる。特に「助手席」という場では全くと言っていいほど話すことが尽きない。飲み会とは違う、また雰囲気の変わったしょうもない話を助手席でするのがやっぱり私は好きだ。ぜひ誰か私を隣に乗せて欲しい、と思いながら今日も1人運転席に乗る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?