あの日が戻るなら…

「寒……」

ハラハラと落ちる雪が、全身に降りそそぐ。
寒いわけだ、雪が降ってるんだから。
雪を避けるように、暖かい場所へと入る。

寒い時期になると、
どうしても思い出してしまう。
弟が亡くなったことを……
この時期には毎回、思い出したくなくても
思い出してしまう。

弟は「笑顔が多い奴」だった。
「兄ちゃん!おい!こっちだって!」
俺のことをよく見ていて、
心配してるような奴だった。

こんなどうしようもない俺を……

小さい頃はケンカも多く、
嫌なこともたくさんした。
大人になってからは仲良くなって、
たくさんゲームをしたり、話したり、
楽しい時間を過ごした。

お互いのコミュニティもできて、
程よい距離感で……

「俺、家、出るわ」
「え、な、突然…じゃん…」

俺は、思い立って家を出た。
一人暮らしを始めた。
新しい環境、新しい人間関係、
自分の力が試されることばかりだった。

そんな俺を心配して、
よく弟は電話してくれた。

『元気ー?』
「おぅ、元気だよ」
『年末年始は帰ってくる?』
「一応、帰るよ」
『じゃ、みんなで外食しよ!
何時に帰る?』
「まだ決めてないから、
決めたら連絡するわー」
『うん!待ってる!』
「彼女かよ」

弟の対応が彼女のようで、
思わず笑ってしまった。

『え!だって!久しぶりだから!』

弟はそういう奴だった。
優しくて、気にかけてくれて、
家族の中を取り持ってくれる。
そういう奴だった。

それが一変した。本当に突然だった。
なんの前触れもなかった。

電話越しに泣いている父親の声。
今でも忘れられない。
あの日も寒くて、雪が降っていた。

ウソだと言ってほしかった。
聴いた言葉が耳から離れなかった。

しかし現実は本当で……
膝から崩れ落ちることを知った。
「……あ……あぁ……本当だったんだ……」
母が泣いている。
父は葬儀の準備をしていた。

「……本当だったんだ……」
ウソじゃなかった。
家に着いて、部屋に入ると
布団に横たわる弟がいた。

俺の声を聴いても起きない。
目を開けない。
あぁ…本当に亡くなってしまったんだ…

そこからはあっという間で、
葬儀の準備の手伝い、手配、親の補佐、
弟をゆっくりと見ることが出来なかった。

弟が家を出る瞬間、やっと時間が空いた。
「……」
言葉が出なかった。
まるで寝てるみたいなんだよ。
本当に。
死んでるなんて……寝てるんじゃないのか…

初めて泣いた。
声を上げて泣いた。
進んでいく準備に気を紛らわせていた。
見ないふりをしていた。

向き合って、初めて「弟」が
居なくなった現実に泣き崩れた。

もう話せないのか。
もう笑わないのか。
もう…もう……
俺は、お前に何も出来ないのか……

2人っきりの兄弟だった。
ずっと一緒にいると思っていた。
親が亡くなるその時も近くにいると
そう信じて疑わなかった。

もう言葉を交わすこともできない。
こんなに悲しいことはない。
こんなに泣くこともきっとない。

いや、あるかもしれない。

ただもう無ければいいのにとは
思う。

この日以来、大切だと思う人には
言葉を尽くそうと決めた。
そして安易に自分の命を削ることは
しないことを誓った。

弟にまた会えるその日まで。



●●●

思いつき文章でしたー

本当に人が亡くなるのって突然で、
仲良しのあの人に明日もまた会えるとは
限らないんですよね。

だからこそ言葉を交わせるうちに、
気持ちや想いを伝えてくださいね。
大切に、大事にしてくださいね。

隣のあの人がいなくなる前に。

そしてどんな人も誰かの大切な人だと
忘れないでくださいね。

馬が合わない人とは離れたらいいんです。

みんなが隣人に優しく出来たらいいのにと
思わずにはいられないのでした。

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