動作時肘痛の症例 後半
前回のあらすじ
情報)
洗顔や髪をとかす動作などで、右肘関節を屈曲・回外させると右肘にズキッとした痛みが生じる。
きっかけは、半年前に同部位に痛みが出現し、それが数日間続いた。
その後、痛みは減ってきたが、上記の動作時に時々痛みが起こる。
また、右肘関節の屈伸自動運動では、左に比べて重く、すぐに疲れる。
Q) 何が原因か?
A) 右肘関節屈曲・回外で関節包が挟み込まれる。
関節包を引出す上腕筋の低下があり、そのために右肘関節の動きが重く、すぐ疲れる。
Q) アプローチは?
A) 上腕筋の収縮を重力除去位で実施した。
痛みは7/10の低下で、微妙であった。
Q) 他の原因は?
A) 上腕二頭筋は、筋連結で体幹筋につながる。
そこで、脊柱安定化の代表筋である腹横筋と内腹斜筋を腰三角部で触診し、左右を確認すると、右の緊張が低かった。
Q) アプローチは?
A) 骨盤後傾運動で内腹斜筋、そこから息を吐くことで腹横筋の収縮を促した。
結果、肘の痛みは1/10に下がり、効果があった。
ここで、何故、右の内腹斜筋と腹横筋が低下したかについても検討した。
後半
Q) 何か?
A) 普段の生活で、体幹の側屈筋や回旋筋を繰り返し使用する動作に歩行がある。
Q) 何故、歩行で側屈や回旋を使用するのか?
A) 遊脚期の骨盤引き上げによる側屈筋、歩幅を稼ぐための骨盤回旋で回旋筋が使用される。
Q) 歩行の何を見ればよいか?
A) 体幹の回旋に関しては、右立脚期が延長すれば、その分、体幹の左回旋(左内腹斜筋の収縮)が右に比べて多くなる。
略図)歩行(PSw)の水平面
Q) 評価では?
A) PSwで右骨盤が左に比べて後方回旋が大きかった。
Q) 原因は?
A) 骨盤後方回旋は、歩幅を稼ぐための股関節伸展のカバーとして起こる。
立脚時間が延長されると、その分、股関節伸展のカバー時間が増えて、骨盤後方回旋が大きくなる。
Q) 評価は?
A) 歩行を観察しても、わからなかった。
Q) どうすればよいか?
A) 立脚時間の延長は、蹴り出しが不十分なために起こる。
そこで、蹴り出しを効率よくさせる前足部剛性を高めるための、下腿三頭筋(距骨下内返し作用)、ウインドラス機構(内側縦アーチ)を視診と触診で調べると、どちらも右の方が発達していた。
ただ、遊脚期の骨盤の引き上げを考えると、蹴り出しが強い方が、その勢いで骨盤が上がり、その分、骨盤の引き上げる力は少なくてすむ。
これは、右側屈筋が左側屈筋より活動が少ない原因の一つになる。
Q) 右足部剛性が大きいことから右側屈筋の活動が低いことが推測された。でも、何故、右立脚期が延長(骨盤後方回旋からの推測)なのに、右の蹴り出し機能が左よりも良いのか?
A) 足部からは説明できない。
そこで、膝関節や股関節からの影響を見た。
Q) どのように?
A) 膝関節や股関節の緩みが大きいと、足部剛性があっても、その床反力を体幹に伝える力が減る。
そこで、より大きい足部剛性を生み出そうと、足指まで荷重を延長させて、足指伸展を強めて、ウインドラス機構を高めようとする。
その分の時間が延長される。
Q) 評価では?
A) 膝関節の動揺テスト、股関節の他動回旋で筋の緊張を見ると、右の方が緊張が高く、関節は右で安定していた。
Q) では、何が原因か?
A) 骨盤や脊柱の問題がある!?
Q) どのような状態か?
A) 立位で右骨盤が前方回旋していた。
Q) それが?
A) 骨盤の右が前方回旋していると、普通に立っている状態で、体幹はすでに右回旋している。
略図)立位水平面
すると、体幹の右回旋より左回旋の方が可動範囲は大きいので、右より左回旋で多くの力を必要とする。
Q) 歩行時の骨盤右の後方回旋と逆だが?
A) 歩行において歩幅を稼ぐのに、骨盤の回旋を使用する。
右骨盤が前方回旋位であると、左蹴り出しの右歩幅は、元々ある骨盤の肢位に骨盤回旋を少しプラスして稼げる。
しかし、右蹴り出しで左の歩幅を稼ぐには、左立脚期以上に骨盤を後方回旋させなければならなくなる。
略図)歩行水平面
歩行時の骨盤触診で、右立脚期の骨盤回旋の可動範囲大きいことが、右骨盤の後方回旋が大きいと感じさせたことが考えられる。
Q) 右骨盤の前方回旋の原因は?
A) 脊柱の側弯が考えられる。
腰椎左凸側弯では、カップリングモーションから体幹は右回旋する。
その状態で、体幹を正面に向かせると、右骨盤は前方回旋位になる。
Q) 評価では?
A) 腰椎左凸側弯が確認された。
Q) アプローチは?
A) 左凸側弯を矯正するためのに、左を下にした側臥位で、左腹部にクッションを入れた。
Q) 結果は?
A) 立位の右骨盤の前方回旋は減少した。
肘の痛みに関しては、0/10に消失した。
ただし、数分後には1/10の痛みが出現した。
Q) 何故、痛みが出現したのか?
A) 側弯が復元したことが考えられ、原因は、腰椎左凸側弯させる組織の緊張である。
よって、クッション以外に、左腰部の筋の緊張を高めるexを加えるとよいのではないかと考える。
まとめ
肘関節を屈曲・回外させると腕橈関節に痛みが生じる。
痛みは、上腕筋の低下による関節包を引き出せないことによる挟み込みであった。
上腕筋の低下は、上腕二頭筋が優位に働くためである。
上腕二頭筋が優位なのは、腰部脊柱の安定化のためのアウター筋を活性させることにある。
アウター筋の活性は、インナー筋の収縮が少ないことからきている。
インナー筋の収縮が少ないのは、右蹴り出しが優位なので右骨盤引き上げ筋の使用が少なくてすむためと右立脚期の右骨盤の前方~後方回旋移動距離が大きいため、その分、体幹では右外腹斜筋と左内腹筋を使用している。
右骨盤の回旋移動距離が大きいのは、腰部の左凸側弯による影響であった。
左凸側弯による体幹左回旋の可動域が大きくなることは、左内腹斜筋の活動を高め、ADL上で左内腹斜筋の使用を優位にさせる。
腰部の左凸側弯の減少で痛みは、ほぼ消失した。
※左内腹斜筋の優位性により、右内腹斜筋の活動は低下する。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。
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