見出し画像

坐骨骨折後の殿部痛症例

以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。

情報)
初老の方でADLは自立している。

転倒による左坐骨骨折で入院する。

骨折部位)

↑       骨折部


その後、全荷重の歩行訓練が開始される。

安静時は痛みが軽減しているが、左荷重時に痛みが強くなり、歩行中に力が抜けて左膝折れを起こす。

痛みの場所は左殿部で、理学療法開始後からずっと同じ場所が痛む。

平行棒内歩行では、右下肢と両上肢支持で歩き、左下肢に体重が乗らない。

理学療法を開始して、痛みは入院当初より若干軽減してきたが、その後は変化が無く、理学療法を施行して2週間以上経過するが横ばい状態である。

Q) どのように考えるか?

A) まず、痛みが何によって起こるかを知る必要がある。

それがわからないとアプローチのしようがない。

Q) 原因は?

A) ヒントになる内容は、常に殿部の同じ場所で痛み、左下肢荷重で痛みが起こることである。

Q) そこから見えるのは?

A) 殿部は坐骨骨折部が含まれる。

○:骨折部


左荷重時痛では、荷重で骨折部に剪断の力がかかり、痛みが起こる。

⇒:歩行の荷重時に骨折部にかかる力の方向


と説明可能である。

Q) アプローチは?

A) 骨折部の癒合を促進したり、骨折部の偏位を押さえるアプローチになる。

Q) 方法は?

A) 骨の癒合については、骨折部を癒合させる方向と類似した走行の筋収縮により骨折部に圧迫を加える。

⇐:骨折部癒合の圧迫方向


Q) 何筋か?

A) 内転筋群である。


ここで、坐骨を前後から挟み込んで、坐骨の前後の偏位を生じないようにさせる。

前面では恥骨筋など、後面では大内転筋である。


また、骨折部圧迫の方向に類似させるには、股の付け根に近い筋の収縮が重要になる。

Q) 外旋6筋群も骨折部を圧迫させる方向に近い走行であるが?

⇐:骨折部癒合の圧迫方向


外旋6筋


A) 外旋6筋も股関節内転作用があるので、この方法で収縮が起こる。

Q) 偏位を押さえるアプローチは?

A) 上記の方法で、筋収縮による坐骨前後の偏位を押さえる。

他に、歩行時の左荷重で力が抜けて、膝折れを起こすことがヒントになる。

Q) それは?

A) 膝折れを起こることから大腿四頭筋が関係している。

大腿四頭筋中の大腿直筋は、腸骨の下前腸骨棘に付着する。

①縫工筋 ②大腿直筋 ③内側広筋 ④外側広筋 ⑤中間広筋


大腿直筋の収縮で腸骨は前下方に引かれる。

すると、骨盤は股関節を軸に回転するので、骨折部は後方に動いていく。

それを避けようと力が抜けた可能性がある。

Q) アプローチは?

A) 大腿四頭筋の広筋群の収縮を促し、その分、大腿直筋の収縮量を減らす。

ここで、腹部のインナー筋が弱いと筋連結から大腿直筋の緊張を高めて、腹直筋の収縮を促そうとする。

大腿直筋の緊張は、歩行時の大腿直筋使用を優位にしてしまうので、評価で体幹筋の低下が見られれば、そこにもアプローチする。

大腿四頭筋中の広筋群は、内側が内転筋、外側が股関節外転筋とつながるので、運動で膝関節自動伸展させながら股関節内外転運動を加えると内外側広筋が選択的に収縮できる。

また、痛みは骨折部を偏位させる力なので、筋力強化運動や歩行練習は痛みが起こらない範囲で行なう。

EXの詳細)

① 内転筋群:背臥位で股関節屈曲伸展、内転外転0°から両膝にクッションを挟み、股の付け根に力を入れて、股関節内転を等尺性に3秒ほどして力を抜く。痛みがない範囲で5分程

② 広筋群:座位で左殿部の荷重を避けた状態で、(左殿部にクッションを入れ、右に傾けさせる)、左広筋群を等尺性に実施。痛みがない範囲で5分程

Q) 結果は?

A) その後の理学療法継続で、痛みはかなり軽減したとの報告を受ける。


最後までお読み頂きましてありがとうございます。

引用文献)
Donald A.Neumann 原著 嶋田 智明 他監訳:筋骨格系のキネシオロジー 原著第2版 
AnneM,Gilroy 他著、坂井 建雄監訳、市村浩一郎 他訳 :プロメテウス解剖学コアアトラス第2版




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?