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#182 溜め漉きと流し漉き

『紙について楽しく学ぶラジオ/Rethink Paper Project』
このラジオは、「紙の歴史やニュースなどを楽しく学んで、これからの紙の価値を考えていこう」という番組です。
この番組は、清水紙工(株)の清水聡がお送りします。
よろしくお願いします。

紙漉きの2つの技法

今回は、手漉きの技法についてです。
この番組でも何度か取り上げてきました。

手漉きの技法と言えば、大きく分けて2つ。
「溜め漉き」と「流し漉き」です。
今回は、この2つの技法の違いとそれぞれの特徴について解説していきたいと思います。

まず、日本に紙漉きの技術が渡ってきた当初は、紙漉き発祥の地・中国の技法「溜め漉き」で漉かれていました。

日本で作られたもので最古の紙は、正倉院に保管されている702年・戸籍断簡三点の用紙で、どれも「溜め漉き」で作られていることが確認されています。

なんで、そんなことが分かるんですか?ということなんですが、ズバリ、繊維の状態を見て判断するわけです。
「溜め漉き」と「流し漉き」の決定的な違いが分かることで、繊維の状態が違ってくることが分かります。

それでは、2つの技法の特徴を見ていきましょう。

溜め漉き

まずは、「溜め漉き」。

「溜め漉き」の工程は、基本的に、大きく分けて5つの工程があります。

①原料となる繊維を小刀で適当な長さに切っていきます。
②繊維を木連灰などで煮て、アク抜きをしていきます。
③アク抜きをした原料を水にさらして、繊維に付着している不純物を取り除いていきます。
④きれいになった原料を、漉きやすい長さに切断した後、よく叩いて解していきます。
⑤紙漉きをして、乾燥して、完成です。

原料を煮る工程
不純物を取り除く工程
原料を叩いて解す工程

はい、以上が「溜め漉き」の基本的な工程です。
ちなみに、原料によっては、煮る工程が省かれたりもします。

この「溜め漉き」のポイントは大きく2つです。

1つ目のポイントは、原料を割と短く切断して、よく叩くこと。
これにはちゃんと理由がありまして、、原料となる植物の繊維は、水中で沈もうとする性質、それから、集まって固まろうとするという性質があります。
繊維をよく叩くことで、繊維が湿って膨らんできます。こうすることで粘り気を持たせて、沈もうとする性質を抑えます。
それから、短く切断することで、なるべく分散させるようにするわけです。

それから、2つ目のポイントは、漉いた後の繊維の方向。
「溜め漉き」では、紙料をすくい上げた後、水を切るときに、なるべくムラが出来ないように、回転させたり、前後左右に桁を動かしたります。
なので、繊維の方向はバラバラになります。

流し漉き

それでは、次に「流し漉き」。

「流し漉き」も、基本的にやることは「溜め漉き」と変わりません。

大きな違いは、2つ。
①ネリ液を使うこと
②漉き方
です。

まず、ネリ液。
ネリ液というのは、トロロアオイとかノリウツギの根っこを叩くと出てくる、粘り気のある液体のことです。
このネリ液を、原料がよく撹拌された漉き舟に混ぜます。
こうすることで、原料がしっかり分散されて、なおかつ、粘性が生まれるので水きりの時に簀の上で滞留ができます。
しっかり原料が分散されている上に、滞留が出来ている間に前後左右に揺らすことで、紙料が均一に広がりやすくなります。

ネリ液

それから、漉き方。
「流し漉き」の漉き方には、ポイントが3つあります。
まず、「化粧水」(地方によっては「初水(うぶみず)」とか「数子(かずし)」と言ったりします。)、それから「調子」、最後に「捨て水」です。

皆さん、紙漉きの職人になったと想像してください。
まず桁を持ちます。
最初に、紙料をすくい上げて、直ぐに奥に向かって捨ててください。この時に、簀の上に薄い膜が出来ます。これを「化粧水」と言います。
次に、再度紙料をすくい上げて、今度はしっかり前後左右に揺らしながら紙の層を作っていきます。この動作を、紙の厚みによっては何度か繰り返します。これを「調子」と言います。
最後に、桁を自分の体と反対方向に傾けて、簀の上に余っていた水をパンと流します。これを「捨て水」と言います。

それぞれの特徴

「化粧水」と「捨て水」をすることで、表も裏も、表面の繊維の方向は一定になるのが分かりますでしょうか。
そう、「流し漉き」で作られた紙を顕微鏡で覗くと、表も裏も繊維方向が一定になります。
一方の「溜め漉き」で漉かれた紙を顕微鏡で覗くと、繊維方向はバラバラになっています。更に言うと、「溜め漉き」は繊維を細かく切断するので、切断した跡も観察できます。

それから、原料の分散の仕方にも違いが出て、「溜め漉き」の方はムラが出る一方、「流し漉き」の方はムラなくきれいに仕上がります。

日本製で最古の紙が、どれも「溜め漉き」で作られていることが確認されています。と言いましたが、こうやって繊維の違いを見ることで確認ができるわけです。

日本では、古代の紙は「溜め漉き」で漉かれていましたが、中世にかけて、徐々に「流し漉き」の技法が確立していきます。

和紙の研究家として名高い壽岳文章さんによると、「流し漉きは日本独自の製紙法で、平安時代前期頃から成立したと思われる」とのことです。

どうでしょう。
「溜め漉き」と「流し漉き」の違いとそれぞれの特徴、分かりましたでしょうか。

はい、という訳で、今回は「溜め漉き」と「流し漉き」の違いとそれぞれの特徴について解説してきました。いかがだったでしょうか。
それでは、本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

▼参考文献
『和紙の歴史 製法と原材料の変遷』 宍倉 佐敏 (著)

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