#179 泥が混じった和紙?!「名塩雁皮紙」
『紙について楽しく学ぶラジオ/Rethink Paper Project』
このラジオは、「紙の歴史やニュースなどを楽しく学んで、これからの紙の価値を考えていこう」という番組です。
この番組は、清水紙工(株)の清水聡がお送りします。
よろしくお願いします。
ユニークな和紙・名塩雁皮紙
はい、という訳で、今回は「和紙」の話題です。
#175と176で、兵庫県の杉原紙をご紹介しましたが、今回も兵庫県の和紙です。
その名も「名塩雁皮紙」。
兵庫県西宮市の名塩地区で漉かれる和紙です。
この「名塩雁皮紙」、他の和紙にはない、とってもユニークな特徴があるんです。
現在漉いているのは、谷徳製紙所さん、1軒のみです。
先日、谷徳製紙所さんを訪れて色々とお話を伺ってきましたので、ご紹介していきたいと思います。
名塩雁皮紙の歴史
まずは歴史的背景から。
名塩地区に和紙の技術が伝わったのは、室町時代と言われています。
紙漉きが盛んだった越前の国から技が伝わったとされています。
「名塩雁皮紙」という名前ですが、越前にも雁皮で漉かれた「鳥の子」という紙があります。
但し、越前の鳥の子とは技法が異なりますので、ここは後で説明したいと思います。
江戸時代になると「名塩千軒」と言われるほど、栄えていきます。
「名塩雁皮紙」の用途は、主に「間合紙(襖紙)」と「箔打紙」です。
確かに、雁皮紙と言えば、箔打紙のイメージが強いですよね。
これは、「#155 金沢の伝統工芸「金箔」づくりに欠かせない箔打紙」でもご紹介しましたね。
一躍和紙作りが盛んになった名塩地区でしたが、他の和紙産地同様、生活様式の変化などで需要が減り、衰退の道をたどっていくことになります。
名塩雁皮紙の特徴① 原料
現在では国の重要無形文化財に指定されている「名塩雁皮紙」ですが、他の和紙にはない、ある特徴があります。
それは、泥を入れて漉くことです。
そう、あの泥です。
名塩雁皮紙を漉くことは、原料となる雁皮、それから土を採りに行くところから始まります。
名塩周辺では泥土が取れ、名塩雁皮紙では「東久保(とくぼ)土」、「カブタ土」、「尼子(あまご)土」、「蛇豆(じゃまめ)土」の4種類の土を使います。
この4種類の土はそれぞれ色があって、「東久保(とくぼ)土」が白、「カブタ土」が青、「尼子(あまご)土」が黄色、「蛇豆(じゃまめ)土」が茶色です。
名塩雁皮紙はこの4色と、「東久保(とくぼ)土」と「尼子(あまご)土」をブレンドした白茶の合計5色で紙を漉きます。
何のために土を入れるのか。
実は、土を混ぜることで、色んないいことがあるんです。
光を通さない。耐久性が上がる。虫に強くなる。燃えにくい。
特に名塩雁皮紙は間合紙(襖紙)で使われることが多かったので、これらの機能性は理にかなっていますよね。
まぁ、もちろん機能性もあるんですが、シンプルに良い色だし、手触りも良いんですね。
とにかく、この泥を混ぜて漉くということこそが、名塩雁皮紙最大の特徴と言っていいと思います。
名塩雁皮紙の特徴② 漉き方
そして、同じ雁皮紙である越前の鳥の子との違い。
それは漉き方です。
越前の鳥の子は「流し漉き」であるのに対し、名塩雁皮紙は「溜め漉き」です。
「流し漉き」と「溜め漉き」の違いについて、簡単に解説します。
流し漉きは、紙漉きのフネの中に、原料となる雁皮と水、それからネリと呼ばれる粘剤を入れます。
ネリを入れることで、桁で原料をすくい上げたときに、原料の入った水が滞留します。
この滞留している間に前後左右に揺らすことで、均一に仕上げていくわけです。
一方の溜め漉きでは、基本的にネリを入れません。
なので、桁で原料をすくい上げたときに、一瞬で水が落ちて、原料の雁皮だけが残ります。
なぜ、名塩雁皮紙は溜め漉きで漉いているのでしょうか。
そう、泥を混ぜているからです。
泥を混ぜているから、そもそも水が落ちにくいんですね。
ここに流し漉きのようにネリを混ぜようものなら、水が全然落ちていかず、大変なことになる。そういう訳です。
ただし、ほんの少しだけネリを入れていました。
今回お話を伺った名塩雁皮紙の漉き手の谷徳製紙所さんでは、今でも昔ながらの漉き方を守られて制作されていました。
技術を継承されている姿に、本当に感銘を受けました。
実際に漉きあがった名塩雁皮紙を手に取ったんですが、泥が混じっている分、独特な風合いがありました。
それから、5色あると言いましたが、全部いい色です。
皆さんも、兵庫県に行かれた際は、名塩に訪れてみてください。
はい、という訳で、今回は兵庫県の名塩雁皮紙について解説してきました。いかがだったでしょうか。
それでは、本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
▼谷徳製紙所さんHP