#195 なぜ紙は黄変するのか?
『紙について楽しく学ぶラジオ/Rethink Paper Project』
このラジオは、「紙の歴史やニュースなどを楽しく学んで、これからの紙の価値を考えていこう」という番組です。
この番組は、清水紙工(株)の清水聡がお送りします。
よろしくお願いします。
黄変する紙
はい、皆さんこんにちは、こんばんは。
いかがお過ごしでしょうか。
今回は、化学的なお話です。
「なぜ紙が黄変するのか?」というテーマでお届けしたいと思います。
長期間保管している本とか手紙が、黄色くなってしまった!という経験をお持ちの方、いらっしゃると思います。
僕も、先日久しぶりに本棚から出してきた「グラップラー刃牙」というマンガが少し黄色くなっていました。
日焼けで色が変わることもありますが、日が当たらない本棚とか引き出しの中に置いていても、黄変することがあります。
今回は、そんな紙が黄色くなってしまう理由を紐解いていきたいと思います。
なぜ紙は黄変するのか?
結果から言うと、紙を黄変させている主犯は、「リグニン」です。
リグニンは、この番組でも何回か出てきていますよね。
紙の原料となる木材に含まれている成分です。
ちなみに、リグニンは、約4億5000年前に、海洋植物が陸上植物になったときに作りだされたと言われています。
植物が陸上で生きていくために必要だったということですね。
さて、じゃあなぜリグニンが黄変の理由になるのでしょう。
説明します。
リグニンが持つフェノール系化合物が、光・熱・酸素によって酸化することで、フェノールが分解されて、色が変わる。
もう一度言います。
リグニンが持つフェノール系化合物が、光・熱・酸素によって酸化することで、フェノールが分解されて、色が変わる。
はい、フェノール系化合物が何かは、ここでは割愛します。
とにかく、酸化によって黄色くなるということです。
つまり、黄色くなった紙は、リグニンが含まれていて、且つ、酸化が進んでいるということになります。
酸化が進行すると、黄変するだけでなく、劣化もひどくなります。
新聞のようなすぐに廃棄する情報誌であればいいですが、書籍やアート作品なんかは、色が変わったり、劣化が進んでしまったりしたら、困りますよね、
亜硫酸法とクラフト法
そんな訳で、人々は、このリグニンを除去して紙を抄くようになっていきます。
まず登場したのが、「亜硫酸法」というやり方です。
これは、亜硫酸を使って、パルプからリグニンを除去する方法です。
1850年代から60年代にかけて開発が進んで、1900年には、主要な方法になっていきました。
しかし、20世紀初頭に、カール・ダールさんによって新たな方法生み出されます。
「クラフト法」です。
これは、硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムでリグニンとセルロースの結合を切断する、という方法です。
現在でも、このクラフト法は、多くの製紙工場で採用されていて、クラフトパルプとして流通しています。
さらに進む技術
現在では、リグニンを除去する技術はさらに進化していて、特に文化財とか資料保存用の紙には、リグニンを完全に取り除いた「無酸紙」が使われることが多くなっています。
無酸紙といういのは、リグニンが含まれないだけでなく、アルカリ性の成分が加えられていて、酸化を防いでくれています。
それから、漂白工程で塩素系化合物を使わない「無塩素漂白法」など、地球に優しい技術も導入されています。
こういった技術の発展によって、紙は、黄変しにくく、さらに、地球にも優しくなってきているんですね。
はい、という訳で今回は、「なぜ紙は黄変するのか?」というテーマでお送りしてきました。いかがだったでしょうか。
それでは、本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。