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柳原良平主義〜RyoheIZM 45〜

反骨精神、批判精神


作品に込められた思想

柳原良平は、どんなことでも間違っていると思ったら躊躇せず異を唱えた。漫画家時代の柳原が、風刺ネタも多く扱ったであろうことは容易に想像できる。

毎日の連載だから、いつもどこでもネタを考えていたと柳原は、自身の漫画家時代を振り返っていた。アンテナを研ぎ澄まし、世相をいろんな角度から眺めていれば、疑問を持つ事象に出会うことも少なくなかっただろう。

そんな柳原だから、切り絵にせよペン画にせよ、社会を風刺するようなアート作品が見当たらないのは不思議だと思っていた。だがそうした作品は、これまでお目にかかることがなかっただけで、ちゃんと(?)存在していた。

害虫の価値

横浜の画廊AKIRA-ISAOに、柳原良平作品展を観に行ったときのこと。カツオの一本釣りをするハチマキ姿のアンクルをはじめ、船や海をテーマに描かれた作品は当然ながら多かったものの、海とも船とも、そして港とも関係のない作品もあって興味が惹かれた。

特に巨大なゴキブリと酒を酌み交わすアンクルや、これまた巨大なノミやダニ、蚊やハエなどに挨拶するアンクル(両方とも切り絵)など、一般的に忌み嫌われる類の虫を登場させ、ユーモラスに描いた作品もあって、ラインナップの中ではかなりのインパクトを放っていた。

害虫が持つ生命力の強さを表すような作品で、色彩といい大胆な構図といい、さすがは柳原良平と唸ってしまうほど見事な作品だった。とはいえ、買ってもダイニングルームに飾りたいと思う人はいないだろうが。

原発に対するスタンス

メッセージ性の強い切り絵に出会うこともできた。ひとつは『とりあえず原発再稼働』というタイトルのついた作品で、こちらも鮮やかで素晴らしい切り絵による作品だった。柳原は原発再稼働のニュースをどのように感じたのかということが表現されている。

構図は丸い天井を持つ原発と、その手前に意味ありげな2台の重機が停車しているというもの。丸い天井は原子炉に見立て、半円状の黒紙が用いられ、中にドクロのマークが描かれている。

普通ドクロマークは、頭蓋骨だけでなく交差した骨とともに描かれるが、この作品の場合は骨の代わりに、交差したふたつの楕円がまるで永久機関のレールのように表現されている。

アイロニカル(?)な脇役の存在

そして重機の一方は修理のためのものだろうか、6本の手に見立てたスパナを備えている。もう一方は、4本の手に見立てた棒状のパイプのうち2本からは放水して原子炉を冷却し、他の2本は電気のプラグが付いている。

2台の重機は擬人化され、両方ともアイマスクのような目と大きく歯が見える笑った口がついている。このふたりの重機の表情には、少なくとも誠実そう、または思慮深そうな印象はない。

どちらも再稼働させるために必要な重機であることはひと目でわかる。というわけで、なぜ原子炉がドクロなのか、重機はなぜ笑っているのかなど、作者の意図を考えさせられた。

ヒネリを効かせて環境汚染を

もうひとつ、わかりやすかった切り絵があった。霞を食べて生きているアンクル顔の仙人が、険しい山の頂上付近に腰掛け、上空を漂う霞を食べながら、最近の霞はまずくなってしまったと嘆く作品だ。仙人の視点から、環境汚染を憂いていることはがすぐにわかる。

柳原は、周囲を巻き込む社会運動なども行い、実際の行動においても自分の考えを表明してきただけでなく、思想を込めた作品を創造するアーティストでもあった。もし戦争や紛争が起こったら、それを強烈に風刺する作品を作tたりするのだろうか、などと考えてしまった。ピカソがゲルニカを創造したように。(以下、次号)


※編注
「船キチ」という表現は「尋常ではない船マニア」といったニュアンスを表しています。柳原良平が自著の中で、主に自身に対して頻繁に使用している表現ですが、そこに差別や侮蔑の意図はまったく感じられません。従って本コラムでは、他の言葉に置き換えず、あえて「船キチ」という単語をそのまま使用しています。                                                                                                               

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