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ある女性の狂想曲

この会社に勤めて20年。

私はこの会社にとても貢献してきたわ。

子育てしながら、義両親の介護をしながら、

生活費を入れない夫の世話をしながら、ここまで来たの。

上司はまあいい人だけど頼りない、同僚や部下は曲者ぞろい。

ここは私がしっかりして、みんなをまとめなくちゃ。

私は長女だからしっかりしているし、

この会社に20年もいるんだもの、

私が一番この会社のことをわかっているわ。

私が頑張らなきゃ。


新人社員が入ってきたわ。

澤村君、22歳、大学卒業の男の子。

何もわかってないから、私が教えてあげなきゃ。

なぜかしら、私は丁寧に仕事を教えているのに、

澤村君は私にそっけない。

別に親密になろうとしているわけじゃないけど

こんなにやさしく仕事を教えてあげてるのに

なんであんなに冷たくされなければならないのかしら?


終業後に、お局の真島さんに呼ばれたわ。

私の澤村君への指導の仕方が間違っているって。

仕事を教えている体で、彼の仕事を全部奪っているように

見えるんですって。

だから澤村君が仕事を覚えられなくて、本人も困っているって。

「私以外にも、みんなそう思ってますよ」

みんなって誰よ。

それに澤村君は一言も私にそんなこと言ってないのに。

私は私が正しいと思うことをするわ。

私はしっかりしているし、私が頑張らなきゃ

この会社は回らないもの。


私はなんでも知っているの。

今月は企画部の向田部長の結婚記念日、

うちの課の春日さんは来年結婚するらしいのよ。

みんな私を信頼してるから情報をくれるのよね。

秘密の内容はさすがにもらさないけど、

例えば、向田課長は実はカツラをかぶっている、とか

春日さんは人事課の佐山さんと人ならぬ恋をしているとか。

知ってて何をするわけでもないけれど

なんでも知っているって気分がいいわ。

もちろん、そんなゴシップっぽいものだけじゃなくて

この会社が、世間にバレたらまずいことをしていることも

知っているの。

長くいたらそれなりに、ね。


ネットでうちの会社が粗悪品を作っていたと炎上してた。

内容は事実無根のデマだけど、拡散されすぎて

誰がどう弁明してもどうにもならないわ。

ここは私の出番ね。

私が頑張って会社を守らなきゃ、誰がやるのよ。

会社を擁護するブログや記事を書いて発信して

取引先にも説明に行かなきゃ。

もう、このデマを流す人たちは人の話を聞く気がないし

思い込みでばかり話をしてきて会話にならないわ。

こんな奴がいるから、社会は暗くなっていくのよ。

こんな人たちには何を言ってもいいわ。

この人たちだって、無関係の人たちを傷つけているもの。


どうして私が左遷されなければならないの?

理由が納得できないわ

業績不振、仕事中にずっとネットをやっているから。

それは会社の悪評を語る悪人どもを制裁するためだったのに。

新人教育の力量不足、私があんまりにも澤村君の仕事を先回りして

やるものだから、澤村君は「困っている」とお局真島に言っていたみたい。

どうして私に言わないの?

社内の人間関係を悪化させた、人の噂をあることないこと流していたって。

向田部長にしても春日さんにしても、証拠の写真も見せてもらったし、

目撃者もたくさんいたわ。

ないことは話してないわ、みんなから聞いた話を他の人に

話していただけよ。

それくらい、誰でもやっているでしょう?

上司に無断で会社のネットアカウントを使用した。

広報部の若い女の子が会社のアカウントでいろいろやっていたけど

あんな生ぬるいやり方じゃ、悪人を付けあがらせるだけよ。

だから私はそのアカウントを使って、

悪人どものやっつけてあげたんじゃない。

上に報告せずに取引先に今回のことを説明に行ったって。

取引先も、あんなデマに踊らされるかもしれないじゃない。

早めに動いて火消しをしたのに

私が早く動いたからこれだけ早く収束したのに、

上司に報告しなかっただけで、なぜ左遷の理由になるのよ。


なぜ?

私は頑張ったわ、頑張って会社のために働いたわ。

誰も助けてくれなかったけど、一生懸命がんばったし、

いろんな人を助けてきたのに、

どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないの?

私がどれだけがんばっても、

誰もほめてくれない。

私はなんのために今までがんばってきたのかしら。。。




※ この話はフィクションです。実在する会社や人名、出来事ではありません。

#創作 #フィクション #ムナクソかもしれない  


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