水野莉日子

ミズノ リカコ 小説

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  • ただ、君に会いたい【創作大賞2024・恋愛小説部門 応募作】

    全26話をまとめました

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「ただ、君に会いたい」#1(全26話)【創作大賞2024・恋愛小説部門】

【あらすじ(300文字)】 十五歳の恋は、十年後の春に散った── 佐藤夏々花(さとうななか)の長年の悩みは、生まれつき茶色い髪だ。高校入学後のある日、夏々花は生徒指導の教師に髪色を指摘される場面をクラスの人気者である瀬名慧(せなけい)に目撃されてしまう。最悪の出来事だったが思いがけず慧に救われ、その日を境に慧とは親しくなる。次第に夏々花は慧を好きになったが、突然の転校によって慧は消息不明になってしまった。 それから十年。二十四歳の夏々花は美容師として働く。 友人や同僚にも

    • 「ただ、君に会いたい」#26 (最終話)【創作大賞2024・恋愛小説部門】

      前話↓【#25】 https://note.com/royal_serval8408/n/ndb2c853cd433  エピローグ これは運命だ。  そう信じたがる心が、後ろ姿を目で追わせた。  その日、家に帰ってから、もう何年もしまい込んでいたスマホに充電器を挿し込ませた。  丸形のホームボタンがもはや新鮮だなんて思いながら、フォトアルバムを開く。遡るは高校一年の秋頃。タップしたのは体育祭の写真。夏々花と撮ったツーショット。  懐かしさに目を細めたあと、現在使っているスマ

      • 「ただ、君に会いたい」#25【創作大賞2024・恋愛小説部門】

        前話↓【#24】 https://note.com/royal_serval8408/n/n96148f64e584  2  高校一年生を過ごした街。  戻ってきた。帰ってきた。記憶のままに流れる車窓の景色に、そんな所感が浮かぶ。  ここへ来たらまた会えるかもしれない。友達に、クラスメイトに。ひょっとしたら佐藤にも──  転校してから初めての夏、暑さでおかしくなった十六歳の頭はそんなことを考えた。  だが実行はしなかった。別れの挨拶なしに街から離れた俺を、誰が歓迎するとい

        • 「ただ、君に会いたい」#24【創作大賞2024・恋愛小説部門】

          前話↓【#23】 https://note.com/royal_serval8408/n/n6ccf5aae46b8  第五章1  初めて会った。  リアルタイムで雨に直面しているにもかかわらず、訪れるかどうかも未定な晴天を指した人。  突飛に青空の話を持ちかけたかと思えば、俺が反応できないでいる間にいなくなったその人。  透明のビニールごと小さくなるその姿を、俺は不思議な心地で眺めていた。  彼女は晴れの話をしていたはずなのに、彼女の姿にはまるで太陽が感じられなかったの

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        「ただ、君に会いたい」#1(全26話)【創作大賞2024・恋愛小説部門】

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        • ただ、君に会いたい【創作大賞2024・恋愛小説部門 応募作】
          26本

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          「ただ、君に会いたい」#23【恋愛小説部門】

          前話↓【#22】 https://note.com/royal_serval8408/n/na6572b50e65a  3  あの日の公園から日が浅ければ。あれこれと悩むこともなくメッセージの一つくらい、たやすく紙飛行機に乗せて送れただろうか。  南雲からアドバイスをもらって数日。お母さんと和解して数日。  いまだテキストボックスは空欄のままだ。  仕事からの帰り道。空に向かって顎先を上げた。自然とため息がこぼれた。  届け先はよく知った相手のスマホの中。メッセージを送る

          「ただ、君に会いたい」#23【恋愛小説部門】

          「ただ、君に会いたい」#22【恋愛小説部門】

          前話↓【#21】 https://note.com/royal_serval8408/n/n4bca47b68b50  2   慧と距離を置いたと伝えても、紗月は何も動じなかった。詮索もしなければ、中途半端に励まそうともしなかった。ただ唯一、 「ごめん夏々花、よそいすぎたわ」  カウンターに置かれるチャーハンがいつもの二割増し。 「何だこれ。米粒潰れてんじゃねぇか」  お椀形に盛られた黄金色を南雲は笑った。 「手が滑った」 「嘘つけよ」  ──黙れ!  くっきり二重をがっ

          「ただ、君に会いたい」#22【恋愛小説部門】

          「ただ、君に会いたい」#21【恋愛小説部門】

          前話_【#20】 https://note.com/royal_serval8408/n/nd52c2459f0d0  第四章 1  気づけば声は、湿った風に乗っていた。  俺の鼓膜が震えたときにはもう遅く、本心として夏々花の元へ届いてしまう。「しばらく会うのやめよう」と。  わかっていた。抱える不安を伝えれば、崩壊を招くひびが入ってしまうこと。  ちゃんと、わかっていたのに。  夏々花が一人で帰っていく。その後ろ姿を一人、俺は呆然として見送る。  それから何とか気力を

          「ただ、君に会いたい」#21【恋愛小説部門】

          「ただ、君に会いたい」#20 【恋愛小説部門】

          前話↓【#19】 https://note.com/royal_serval8408/n/n4bd73d53159c  4  メイクの前に着替えを済ませる。ファンデやリップで服が汚れてしまうから。  ゆっくりしていたつもりはないけれど、いつの間にか出発の時間が迫っていて私は急いだ。  今日は、慧と展示会へ行く。有名な画家の展示会があるんだと話したら、一緒に行こうと言ってくれた。そのあとは街中を散策する予定だ。いいね、と慧も賛成してくれた。  机の上に置いてある透明の収納ケ

          「ただ、君に会いたい」#20 【恋愛小説部門】

          「ただ、君に会いたい」#19【恋愛小説部門】

          前話↓【#18】 https://note.com/royal_serval8408/n/nd0ebf84fb671  3  電車に揺られていると内臓まで揺さぶられているような感覚になって、あぁこれはだめかもしれないと察した。  だから会場最寄り駅に着くと、私はホームのベンチに座り込んでしまう。漂流の中、岸を見つけたような心地だった。  こめかみがどくどくと脈打つ。頭全体が締め付けられるように痛い。動けない。  自分の体は自分が一番よくわかるのだ。本来なら遊びに行けるコン

          「ただ、君に会いたい」#19【恋愛小説部門】

          「ただ、君に会いたい」#18【恋愛小説部門】

          前話↓【#17】 https://note.com/royal_serval8408/n/nff66d21be5f4  2  西へと日が沈みつつあるのに、体感温度が一向に下がらない。Tシャツの中で熱が立ち込めて、じわりと背中が汗ばんでいく。  待ち合わせの駅出口に来てから数分が経つ。目の前を通りすぎる人はみなベルトコンベアに運ばれるかのよう、一定方向に流れをなしている。 「ごめん! 遅くなった!」  スマホをいじって時間を潰していると、声がした。それは夏々花じゃない。男の

          「ただ、君に会いたい」#18【恋愛小説部門】

          「ただ、君に会いたい」#17【恋愛小説部門】

          前話↓【#16】 https://note.com/royal_serval8408/n/n5db47c5f5c3f  第三章1 「……何?」  見つめられている気がして顔を上げると、それは気のせいじゃなくて狼狽えた。  飲んでいたアイスティーでむせそうになりながら、その目線の意味を問う。 「別に」 「え、何?」 「何もないよ」  釈然としなかったが気にしないことにして、私はケーキにフォークを入れた。 「ここ来たかったの?」  たずねられて、私はうなずく。最近オープンして

          「ただ、君に会いたい」#17【恋愛小説部門】

          「ただ、君に会いたい」#16【創作大賞2024・恋愛小説部門】

          前話↓【#15】 https://note.com/royal_serval8408/n/nf731f119a6f4  8  夏の十九時は夜と呼べない。  辺りを包むのはペールブルーで、勤務を終えて出てきた街中も、夜とは思えないほどの明るさだった。  だから、呆れ果てた瀬名くんの表情もはっきりとよく見えた。 「誕生日なんだったら言ってよ」  瀬名くんの施術は営業終了に近い時間帯だった。だから彼は私を退勤時間まで待ってくれていた。 「だって誕生日の話題になったことないし、だ

          「ただ、君に会いたい」#16【創作大賞2024・恋愛小説部門】

          「ただ、君に会いたい」#15【創作大賞2024・恋愛小説部門】

          前話↓(#14) https://note.com/royal_serval8408/n/n481c9eebf54d  7  身だしなみに気を遣えと、指摘されたわけじゃない。  容姿に無頓着なことは自覚済だが、それでも接客業についているので最低限はきちんとしているつもりで、だけど必要以上の意識は払わない。関心が薄い、というのが自分には当てはまるのだと思う。  しかしこのごろはというと、以前に比べて頻繁に髪を切るようになった。 「来てくれてありがとう」  カット終わりのレジ

          「ただ、君に会いたい」#15【創作大賞2024・恋愛小説部門】

          「ただ、君に会いたい」#14【創作大賞2024・恋愛小説部門】

          前話↓【#13】 https://note.com/royal_serval8408/n/n3b41916e3374  6  あれから瀬名くんは南雲と再会したそうだ。  十数年ぶりに顔を合わせた二人が何を話をしたのかは知らないけれど、  [今日、あいつと野球観に行くんだ]  [南雲が生で試合観たいらしくて]   灯らせたロック画面に連続で表示されたメッセージ。二人のわだかまりがとけたことを改めて知り、ほっとした。   数分後にまたスマホが震える。今度の差出人は南雲で、  

          「ただ、君に会いたい」#14【創作大賞2024・恋愛小説部門】

          「ただ、君に会いたい」#13【創作大賞2024・恋愛小説部門】

          前話↓【#12】 https://note.com/royal_serval8408/n/n1d139d6ae1ed  5  突然の連絡を申し訳ないと思っていること。そちらが問題ないと思ってくれるなら、俺と会ってほしいこと。ゆっくり話がしたいのだと。  悩みに悩んだメッセージには、それらの旨を添えて送信したのだ。  もし南雲に受け入れてもらえて、俺たちが面と向かって顔を合わせるなら、それはカフェや飲みの席であろうと、勝手ながらに俺は予想していた。  しかしなぜだ。指定され

          「ただ、君に会いたい」#13【創作大賞2024・恋愛小説部門】

          「ただ、君に会いたい」#12【創作大賞2024・恋愛小説部門】

          前話↓【#11】 https://note.com/royal_serval8408/n/n13a4c611b803  4  やっぱり傘は返さないと。あれは瀬名くんが買ったものなんだから。  礼儀はきちんと尽くすべきと、昨日、私は瀬名くんと駅で待ち合わせたのだけれど、そこで意外な場面に遭遇した。  一つは、構内で私が落とした小銭を拾ってくれたのが南雲だったということ。  もう一つは、その南雲が瀬名くんの名前を呼んだこと。  同一線上にない点同士、なはずの二人を前にして、私

          「ただ、君に会いたい」#12【創作大賞2024・恋愛小説部門】