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カザフスタン・キルギス旅〜長い長い北京空港 ヤドカリ〜

旅人にとって役立つ情報を含む雑多なエッセイです。

7/2発、北京空港で23時間45分の乗り継ぎをしてから7/3にカザフスタンのアルマトイに向けて発つ便を取った。

羽田空港

空港に向かう最中の私は、リュックサックを右肩だけで背負って背中に風が通るようにしていた。パンパンのリュックサックは、いつも大学に背負って行く時より軽い。その軽さと背中に感じる過度な膨らみよって、自分が今から行く場所の異質さを意識したりもした。

空港での手続きは、入管検査直前に買った水をすぐに捨てなければならなかったこと以外は特に問題なく進んだ。

搭乗ゲートを通って、飛行機とターミナルビルを繋ぐ、カーペットが敷かれた搭乗橋を歩く事でようやく旅の始まりを実感した。久々に飛行機に乗りたかった欲求の8割がここで解消された。離陸時と着陸時の身体が浮く感覚を味わって、残りの2割も解消された。

北京空港

着陸時の浮遊感も無事味わい満足した私は、まだ浮ついた心のまま、今度は機内からターミナルビルへと続く搭乗橋を渡った。

中国語の案内表示は日本人にとって案内の役割を十分果たすことが出来るので、迷わずに乗り継ぎカウンターまで行く事が出来た。

深夜残業を思わせる18時の空港職員は皆、目の前の仕事をいかに早く片すかを考えているようだった。並ばなくていい列に40分並んでいた私の受付は誰よりも早く進んだ。

人の姿がほとんど見えないターミナルに着いた。まず無料のwifiを確保し、事前に準備しておいたVPNで主要SNSを機能させた。アルマトイ行きの便は23時間後に来る。ゆったり過ごそう。

顔でも洗おうと出した洗面道具入れからは、シャンプーのいい香りがとても強くしたので嫌な予感がした。シャンプーを入れていたキャップの形状が、多くのものと一緒に保管するのに向いていなかったようで中身が溢れていた。捨てた。

キャップの形状をなんと説明すればいいか気になったので、キャップの種類について調べるとこれがかなり奥深くて面白い。日本キャップ協会のウェブサイトでは様々な場面で使われるキャップが紹介されていて、ニッチすぎるくせにほぼどのキャップも、それが使われている製品がすぐ頭に浮かぶのだから、キャップが日常生活にどれだけ密接に関わっているのか教わった。
ちなみにキャップには、酸化することによって中身の品質が低下することを防ぐめに、酸素吸収性があるものもあるらしい。すごい。

ヤドカリ

良い椅子を探す。あと20時間もここにいないといけないのだから、椅子探しの成功がものを言う。眠れそうな良い椅子にはきまって、椅子と一体化して生涯そこから離れることが無さそうな先客が居座っている。背面を、優しく覆う箱を探して歩き回る私はまさにヤドカリだった。

体力を消費することによって持て余している時間を消費する、この暇つぶしフェーズ1にも限界を感じたので、適当な椅子に座って読書やスマホをした。

罪悪感

1時間もそうしていると眠くなってきたので、またヤドカリする。

そのヤドカリはマッサージチェアを見つけた。背面から近づき、巻き付くようにしてそこをヤドにしたいところだろうに、躊躇している。マッサージチェアとしてでは無く、お金を払わず椅子として使うのはありなのか判断しているのだ。

そしてヤドカリは考える。お金を払うのはこの椅子のマッサージ機能に対してであって、椅子の座る機能に対してでは無い。しかし、椅子の質も料金の内に入っていると考えられるため、心地いい椅子として利用するのもやはりダメなのでは。だが椅子の質というのは、椅子自体に価値を持たせるものではなく、マッサージの質を上げるためのものだから……。

まあ普通に座った。すごい気持ちいい。夜だったので人も数える程しか居ないしまあ良いか。

多少の罪悪感を消すには、その原因となる行為を後押ししてやるといい。そうやって人は、燃えるような赤の信号機とすれ違おうとする時、心の深いところが赤い信号機にジリジリと燃やされていく感覚を忘れていく。私はいまだにジリッと来る。

罪悪感を消すためにいっそ寝てしまおうか、そうすれば座ることの罪悪感なんて忘れてしまうだろうとも考えたが、罪悪感の火でぽたぽたと音を立てて溶けていく心を放置して寝るのは、寝ている間に心が溶けきってしまいそうで怖い。結局私はヤドカる。

ヤド

先輩ヤドカリが先に旅立ったのだろう。横長のソファーが空いていた。暑い日のビールは体に沁みると言うが、数時間ヤドカった後のヤドは本当に身体に染み込んでくるようだった。耳栓とアイマスクを付け、リュックサックを抱いて寝た。

かなり寝たらしい。空は明るくなり、空港内は多くの人で賑わっていた。最果ての地にあるマクドナルドに朝食を求め、正式名称「オートウォーク」を使って移動する。中国限定メニューのお粥は見つからなかったが、腹は満たされたのでこれで良い。

その後元のヤドに戻りまた寝た。夏でも朝方は足元が冷えたので、リュックサックを毛布替わりに足先に置いた。

昼過ぎに目が覚めたのでそこからは適当に過ごした。私は離陸数時間前から搭乗ゲート前で待機していた。離陸一時間前にもなると、中央アジア系の顔がゾロゾロやってきた。彼らの表情は、興奮というよりは安心したものだったので、この便の乗客のほとんどは帰国をするのだと分かった。23時間45分の乗り継ぎがようやく終わるという安堵の表情を浮かべていただろう私も、傍から見れば立派なカザフ人だったのかもしれない。

長い長い北京空港での乗り継ぎが終わる。やっと訪れた旅の始まりを興奮と緊張で迎え入れるには、幾分時間が経ちすぎていたのかもしれない。何はともあれ、出発。



以上。
ここまで付き合ってくれてどうもありがとうございます。次回はアルマトイに到着した当日の濃い一日について書きます。

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