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お客さんを叩き潰すか味方にするか

マジックを演じる際にお客さんにどう対応するのか、はマジシャンの力量の見せ所。今回はその中でもお客さんを叩き潰すか味方にするか、のぼくなりの判断基準とそうなるまでの思考過程を書いていく。

マジックを演じる上で理想的な状態はマジシャンがお客さんからちゃんと尊重されていて、そしてマジシャンもお客さんに対して敬意を払っている、という状態。

マジックに限らず人間というのは自分と他人を比べる生き物だ。そしてマジシャンとお客さんの間にもやはり上下の関係は存在する。賛否あるだろうが、ぼくは基本的にマジシャンは客よりも上にいるべきと考えている。

いやいやマジシャンが上だなんてとんでもない、そんな事はおこがましい、と、マジシャンは対外的にはそう言っておくべきだし、マジシャンはそう思っているとお客さんに思われておかないといけない。が、実際にお客さんが上、マジシャンが下、の構造になった場合おそらくまともなマジックは破綻する。

そこから先は主導権を客が握り、自分より格下の相手だから多少無礼でも強引な妨害をしてタネを知りたいという欲求を満たそうとするかもしれない。はたまたマジックを見るよりマジシャンの困る姿を見た方が面白いと考えたり、格下に騙されるのは不快だとタネがわかったふりをする、etc……挙げようと思えばマジシャンにとって不都合な状況になる例はいくらでも上がってくる。だからこそマジシャンは実力を認められお客さんからこのマジシャンには礼儀を持って接し、面白いものを見せて貰おう、と思われなければならない。

どんな状況でも楽しんでもらうのがマジシャンだ!という意見も分からなくはないし、実際にお客さんに主導権を持ってかれてしまうこともあるが、まずはそうならないようにする努力をすべきである。

と言ったところで話は戻って叩き潰すか味方にするかの判断基準である。

基本的にはすべてのお客さんを味方にしたい、ちゃんと尊重してくれる人を叩き潰すなんてのはもっての他、たとえ味方にならずとも邪魔をしたりしないなら、こちらが上だと誇示する必要はない。が、どうしても上下の関係をはっきりと分からせないといけないお客さんも存在する。演技の進行の妨げになる行動をとるお客さんだ。

例としてあげるなら、「あ、俺わかったわー!」と分かっていないのに分かったふりをするお客さんや、「その消えたコインが俺のポケットから!!」と謎のボケをかまして目立ちたがるお客さんなどだ。

前者の場合は他のお客さんがその都度「え!?わかったんおしえて!?」と聞いて流れが止まったり集中が切れる。や、(こいつが分かったのに自分がわからないのは恥ずかしい……)という考えから驚いたリアクションをあまり出さないようになる。

後者の場合もうまく返してあげれたり空気感を保ってあげれれば良いが、調子に乗って何度もやり、重要なタイミングで全員の集中力が予期せぬ場所に移ることに不都合の出る手順もある。

という理由で、マジシャンより上であることをアピールしようとする、自分の方が目立とうとするなど演技進行の邪魔になるお客さんは容赦なく叩き潰すべし。やり方はそれぞれの目的が不可能であることを理解させるだけで良い、例えばタネわかったアピールをするお客さんならクイズ形式のマジックを演じて(カップ&ボールなど)答えを外させることで周りのお客さんに(こいつはタネ分かってないな……)と認識させる。変なボケをかまして邪魔をするお客さんなら真面目な顔して本当に理解できない程を装いながら「え?どういう事ですか?」と聞き返して全員が注目する状況で滑らせるだけでいい。それでもボケ続ける強メンタルの持ち主はなかなかいない。(いたら諦めるしかない…)

対応策はすべてケースバイケースだが、このお客さんは何がしたいのだろう?とお客さんの気持ちを考える事で対処できる。これは叩き潰す場合以外でも、お客さん側の思考を考えるというのは様々な場面で有効活用できるので、普段から訓練しておくと良いだろう。

基本的には上記のような対応でいいが、例外として演技進行の邪魔ではあるが叩き潰してはいけないお客さん。というのも存在する。

例としてあげるならお客さんグループの中で役職が高いかつプライドが高い人や接待として連れてこられた側のお客さんでプライドが高い人、などである。

社長さんが部下数人を連れて遊びにきて、その社長さんが邪魔をするので叩き潰した。結果、社長さんが不機嫌になり部下の人たちもその社長さんのご機嫌とりに必死になる。なんて事になればもはやまともな演技進行どころかその日の満足度すら最低ラインを切る可能性がある。接待の人も同じでその人が不機嫌になってその日の接待が上手く行かなければ、もう二度とお客さんを連れてきてくれないだろう。

グループの中で重要な人物、というのは必ず存在し、その人が満足しなければたとえ他の全員が喜んでも失敗となる、というお客さんも存在する。テーブルについた時点でお客さんの中の人間関係を観察し判断を誤らないようにするのもマジシャンの力量だ。

僕の場合は叩き潰していいタイプの人でも不貞腐れそうだなぁ……と思ったらめんどくさいから叩き潰すのはやめてる。

じゃあ邪魔にはなるが叩き潰してはいけないお客さんにはどうするの?

ここでやっと先ほどのところに戻ってどんなお客さんにも楽しんでもらうのがマジシャンだ!精神を発揮する。止められないなら邪魔される事はもう諦め、その邪魔の中で楽しんでもらう、最高の演技をする事に努める。

そもそもお客さんと闘う事は極力避けたいし、そんな状況にならないようにする努力は必要だが、上記のような状況になった時は綺麗事を捨て、叩き潰すという手段を取れる事も実力だ。

余談だが叩き潰す事を僕は『格の違いをわからせる』店長は『現象でボコる』と表現してる。人間性の違いが垣間見えるね。




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