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Neil Young & Crazy Horse『Barn』

Neil Young & Crazy Horseの『Barn』がリリースされた。米ワシントン・ポスト紙の記事が面白かったので、翻訳してみました。



前の晩は満月だった。太陰暦に敏感なニール・ヤングは、その夏の日、バンドメンバーと会うために犬を連れて納屋に向かった。ロッキー山脈に囲まれた道を歩きながら、彼の頭の中には新しい曲のアイデアが浮かんでいた。

「歩いては止まってメモ、歩いては止まってメモの繰り返し」と76歳のヤングは言う。「あそこに着くと、さっきも言ったように、新しい曲が思いつく」

彼はこの話を、ギタリストのニルス・ロフグレン(Nils Lofgren)、ベーシストのビリー・タルボット(Billy Talbot)、ドラマーのラルフ・モリーナ(Ralph Molina)の3人からなるクレイジー・ホースに伝えた。そして、自分でカスタマイズしたレスポール・ギター「Old Black」を手にした。「いいかい?」と彼は言った。「これを弾き始めたら、他のことはどうでもいいように弾きたいんだ」

それが、ヤングの41枚目のアルバム『Barn』に収録されている「Human Race」である。気候変動をテーマにしたこの曲で唯一オーバーダブされているのは、ヤングとクレイジー・ホースが“children of the fires and floods”と歌っているいるハーモニー・ボーカルだけだ。

このレコードに収録されているバージョンには、他の曲にはない魅力があると、コロラド州の自宅からのZoomインタビューで語っている。「この曲には、他の曲にはない何かがあるんだ。ちょっと手に負えない感じの。君たちが聴いているのは私たちの最初で最後の演奏なんだ」

このバージョンは、妻で女優のダリル・ハンナがこのセッションを捉えた73分の映画『Barn』に収められている。このドキュメンタリーは、12月9日と11日に限定的に劇場公開され、12月10日から1月10日までAARP会員専用サイトで公開される。また、Blu-rayも発売され、アルバムのデラックス・エディションにも収録される予定だ。

ヤングにとって『Barn』は、コロナが彼を家に留めたことによって出現した。

「この人は休む人ではない」と、2018年に2度の離婚をしたヤングと結婚したハンナ(61歳)は言う。「ロックダウンは、彼にとってカウチ・サーフィンではなく、パジャマ・パーティーのようなものだった」

Neil Young Archives」というウェブサイトがあり、1990年の『Ragged Glory』や、最近発掘された1987年のデモ曲をリイシューする計画がある。また、ロックダウン中にハンナが撮影したインターネット限定の「Fireside Sessions」もある。また、彼は長年、サウンド、特にアナログへの強いこだわりがあり、それをフィル・ベイカーと一緒に2019年に出た『To Feel the Music: A Songwriter's Mission to Save High-Quality Audio』に記録している。未だに議題に上がらないものが一つある。コンサートだ。

道楽者として知られるヤングは、9月に行われた自身が共同設立した「Farm Aid」の公演にも参加しなかった。彼のパートナーであるウィリー・ネルソン(Willie Nelson)とジョン・メレンキャンプ(John Mellencamp)は、彼の決断を理解してくれたそうだ。

「信用していない」とヤングはパンデミックについて言う。「何もかも信用できない。誰も自分が何をしているのか分かっていないと思う。1週間前にあることを言っても、2週間後には別のことが起こっている。私たちは遅れをとっている。どのくらいの規模なのかもわからない。私たちは何も知らない。だからこそ、私は感染拡散を止めるために何でもする。私がやりたいのは、スーパー・スプレッダー・イベントを開くことではない」

その代わり、今年の初め、ヤングは長年のコラボレーターであるクレイジー・ホース-ロフグレン(70歳)、タルボット(78歳)、モリーナ(78歳)-を呼んだ。彼らには、ハンナとヤングが家を構えているコロラド州のロッキー山脈に出てきてもらい、何曲か作ってもらうことにしたのだ。誰もフルアルバムを作るつもりはなかった。

10代の頃、ジョージタウンのセラー・ドアでライブをしていたヤングと出会ったロフグレンは、「10日も経たないうちにかなりの曲ができた」と言う。「10日後には、ほとんどの曲ができあがっていたんだ。1975年の『Tonight's the Night』のように、レコーディングしながら曲を覚えていったという意味では、とても似ている。とてもルーズで生々しいものだった。ヘッドフォンは使ってない。ナイトクラブのようなステージが用意されていたんだ」。

100年以上も前に建てられたこの納屋は、敷地内に放置され、徐々に朽ち果てていったが、彼らはそれを修復することを決めた。ヤングとクレイジー・ホースが召集されたときには、ほとんどの作業が終わっていた。

決して豪華ではない。丸太の壁の隙間から太陽光が入ってくる。暖房もバスルームもない。ドアのヒンジがうまく動かないと、ハンナは防水シートを持ってきて、土と泥をかぶせ、その上を歩いて装飾に合わせた。ポータブル・トイレもいくつか持ち込んだが、ヤングは映画の中で2回も登場しているように、外を歩いて排泄することを好んだ。ステージには楽器が置かれ、マイクもある。部屋に入ると、ヤングのマネージャーだったエリオット・ロバーツ(Elliot Roberts)が笑顔で写った大きな写真が出迎えてくれた。

もちろん、これは通常のレコードの作り方とは全く違う。

防音スタジオも個室のブースもなかった。ヤングもそれを望んでいなかった。

彼の長年のプロデューサー兼エンジニアであるニコ・ボラス(Niko Bolas)は、外の移動式スタジオ・トラックに座っていた。楽器の音はマイクを通してお互いに混ざり合っていた。

ヤングは、フェンダー・デラックス・アンプを回してカントリー・バラードを歌っているときも、1983年の『Trans』のように加工された電子音を使っているときも、初期テイクを信条としている。

1980年代半ばからヤングと一緒に仕事をしているボラスは、「オーバーダブやリテイクはいつでもできるけど、ファースト・テイクを2度やることはできない」と言う。「ニールやあのバンドが入ってきたとき、彼らはレコードを作ることを考えていない。彼らはお互いのことを考えている。だから、みんなが入ってきたときにレコーディングをすると、私が言うところの"天使がくれたミス"が出てくるんだよ」

「そうすれば、それを装飾することができる。より良いものにするためのアイデアを持っているはずだ。"一日かかっても構わない。でも、最初のインスピレーションを壊さない"というのがニールの考えだ」

「Shape of You」のレコーディングを例に挙げよう。ある日、ヤングはピアノの前に座った。ただのピアノではなく、1970年の『After the Gold Rush』で使ったピアノだった。彼は、バンドメンバーに、このシャッフルされたラブソングのコード進行を教えた。そこで彼は、コーラスがないことに気付いた。そこで、シンガーはタイトルにある言葉を3回繰り返し、ハーモニカを吹いて、パッと曲を完成させたのだ。

「ライブで歌っているとき、演奏しているとき、その曲は生きている」とヤングは言う。「曲をやって、それがしっくりきたのであれば、それは一生あなたのものであり続ける」

この哲学には、慣れるまでに少し時間がかかる。「dhlovelife」とクレジットされているハンナが撮影した『Barn』では、ロフグレンが、驚異的な進み具合に順応していく姿が見れる。

「"あのちょっと待って、この曲について考えてみたんだけど、いろいろなアイデアが浮かんできた"みたいなスピード感」とロフグレンは言う。それに対してヤングはこう返す。「この曲はもう完成している」

モリーナは、2019年の『Colorado』でロフグレンがクレイジー・ホースに再加入したときに、彼をからかったことを笑い話にしている。ギタリストのフランク・"ポンチョ"・サンペドロ(Frank "Poncho" Sampedro)が引退し、1984年以降、ロフグレンはブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)のE Street Bandのメンバーとして活動していた。(彼は今両方に属している)

「私たちはThe Archiesじゃない」とモリーナは言う。「私たちは心を込めて演奏し、感情と情熱を持って演奏すり。スプリングスティーンから学んだことは、忘れてください」

『Barn』のセッションは、ハンナがそのほとんどをiPadで撮影した。彼女は、クレイジー・ホースの化学反応を捉えるだけでなく、曲が考えられていく様子を見せてくれる。ヤングが即興で、納屋でのセッションでは足りなかったであろう冷たいビールを賛美したり、モリーナの誕生日パーティーが行われたりする。雹が降ったり、ロフグレンが『After the Gold Rush』のピアノをアドリブで弾いたりと、魅惑的な納屋の様子が見られる。彼はその様子をバンド仲間に見つけられ、静かに見守られている。

「クレイジー・ホースの有名なセリフに“馬を驚かすな”というものがある」とハンナは言う。「彼らはカメラを見たくないし、スタッフも見たくもない。だから、何かをするには、とても、とても、こっそりしなければならないの」

その瞬間は、いきなりやってきたり、突然終わってしまったりと、一瞬のものだ。それは、ヤングが「Shape of You」のコーラスでセリフを口ずさんだり、「Welcome Back」のソロで音を外したりするような、一種の愉快な反面教師でもある。

ハンナは「これこそがリアルだ」と言う。「魂や精神を排して完璧さを追求するのは違うの」

ロックダウン期間中、コミュニティでのあらゆる瞬間を素晴らしい逃避場所とする傾向がある。ハンナが撮影した『Barn』では、ヤングがモリーナのドラムセットに近づき、“I’m so glad we’re f—ing here(ここにいることがめちゃくちゃ嬉しい)”と言う様子が捉えられている。

しかしヤングは、これはコロナとは何の関係もなくて、単に今この瞬間への感謝の気持ちだと言っている。

そして、モリーナは『Barn』がクレイジー・ホース復活のきっかけになったのではないかと考えている。最近、ヤングと電話で話したところによると、今度はカリフォルニアでレコーディングをしようということになったという。コロラド州の暖房の効いていない納屋では1月や2月には使えないからだ。

モリーナはヤングにある提案を持ちかけた。モリーナは、「Barn」には満足しているが、1970年代の名曲「Cortez the Killer」や「Like a Hurricane」のような長い叙事詩を書くことを考えて欲しいという。

モリーナは、ニューアルバムの中で一番好きな曲は、9分近くある「Welcome Back」だという。

モリーナがロフグレンに語ったように、「私はニールにこれを書けと言っているのではない。私はニールに何を書けと言っているのではなく、彼がクレイジー・ホースと一緒に演奏するなら、彼が輝けるような書き方をしてほしいと言っているんだ」。

エリオット・ロバーツ(Elliot Roberts)、プロデューサーのデビッド・ブリッグス(David Briggs)、『Harvest』時代のバンド全員など、多くのヤングの友人がいなくなり、いつまで演奏できるのかは知る由もない。しかし、ヤングはここ数年で一番体調が良いと言っている。定期的に歩いているし、痛めた腱板を鍛えるための運動もしている。また、夜は睡眠時無呼吸症候群のために特別なマスクをつけているが、これはハンナが診断に付き合ってくれたおかげだという。(「彼が息をしていることを確認するために寝ずに起きてるわ」と彼女は言う)

「誰もが目で追えないほど長く演奏を続けたれたらいい」とヤングは言う。

Listen to “Barn

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