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Phantom Regret by Jim

2022年1月6日にリリースされたThe Weekndによる新譜《Dawn FM》。今回はアルバムのフィナーレを飾るジム・キャリーによる、スポークン・ワードともとれる楽曲〈Phantom Regret by Jim〉の歌詞を、『Genius』の解説を翻訳しつつ、解き明かしていきたい。この詞がこのアルバムのほぼ全てを物語っていると思ったからだ。拙い訳だけど我慢してください。

♪You’re tuned to Dawn FM♪
チューニング・ダイアルでは合わせられない(注1)
さあ、リラックスして
しばらくはここにいることになる…
未来の計画はすべて延期されたから(注2)

You’re turned in to Dawn FM
The middle of nowhere on your dial
So sit back and unpack
You may be here awhile
Now that all future plans have been postponed

自分が手に入れたと思い込んだものを振り返るときです
ちゃんと覚えていますか?
ハイになっていたのか、それともただ酔っていたのか
どれだけの恨みを墓場まで持っていったのでしょうか
嫌われたりしたとき、どのように振る舞ったでしょうか
あなたがかき鳴らしていたのは不協和音だったのか
あなたは人生が奏でた歌に合わせていたのだろうか

And it’s time to look back on the things you thought you owned
Do you remember them well?
Were you high or just stoned? 
And how many grudges did you take to your grave? 
When you weren’t liked or followed, how did you behave? 
Was it often a dissonant chord you were strumming? 
Were you ever in tune with the song life was humming? 

肉体がなくなっても痛みが残るなら
幻の後悔(注3)がまだつかんで離さないのでしょう
あなたに与えられた方法で死んでいないのかもしれない(注4)
すべての幻影は己の不信感に取り憑かれる
時間がなくなれば、そこには空間しかなくなる
狩りもせず、採集もせず、国も種族もない
天国はその頬をつたう涙より近くにある(注5)
紫色の雨(注6)が降るとき、私たちはその恵みを浴びる

If pain’s living on when your body’s long gone
And your phantom regret hasn't let it go yet 
You may not have died in the way that you must 
All specters are haunted by their own lack of trust
When you’re all out of time, there’s nothing but space 
No hunting, no gathering, no nations, no race
And Heaven is closer than those tears on your face 
When the purple rain falls, we’re all bathed in its grace

後悔を捨てた人のために天国がある
そこへ行く前には、ここで待たなければなりません
でもこの曲が終わる頃にはそこにいけますよ
ザ・ウィーケンドがずっと遊んでいる所
ゴングを打ち鳴らして楽しもう(注7)

Heaven’s for those who let go of regret 
And you have to wait here when you’re not all there yet
But you could be there by the end of this song 
Where The Weeknd’s so good and he plays all week long 
Bang a gong, get it on

もし心が重くなっても、秤(注8)にかければ
ヴェールを脱いだら身軽になれる
花は着飾ろうとしない(注9)
ただ花びらを開いて光に向かう

And if your broken heart’s heavy when you step on the scale 
You’ll be lighter than air when they pull back the veil 
Consider the flowers, they don’t try to look right

ちゃんと聞いていますか?天国はそんなものじゃない。これだ;
今という瞬間の深さだ、至福には手が届かない
神は人生が混沌としていることを知りながら、一つのことを真実にされた
心を解き放ち、魂を磨くのだ
そして、神聖なブーガルー(注10)に出会えるまで踊り続けよう

They just open their petals and turn to the light 
Are you listening real close? Heaven’s not that, it’s this 
It’s the depth of this moment, we don’t reach for bliss 
God knows life is chaos, but He made one thing true
You gotta unwind your mind, train your soul to align
And dance 'til you find that divine boogaloo

天国を見るには天国にならなくては

あなたがたに平和があるように(注11)(注12)

In other words 
You gotta be Heaven to see Heaven
May peace be with you

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(注1)このアルバムのコンセプトとして、「煉獄」と「受容」がある。

「金持ちとラザロ」(ルカによる福音書 第16章19節〜21節)は、来世で何が起こるかの一例を示している。この例え話には3つの警告がある。

・物質的なものを崇拝してはいけない-〈Heartless〉
・困っている人を助けること-〈Save Your Tears〉
・預言者に耳を傾けること-〈Until I Bleed Out〉

さらに深掘りすると、ザ・ウィーケンドはキューブラー=ロスモデルという5つの感情的段階を経ているのではないかと分析できる。

〈Gasoline〉で言及される「否認」
〈Sacrifice〉-犠牲にされることへの「怒り」
〈Out of Time〉-時間を超えた所での「取り引き」
〈Less Than Zero〉-(ゼロ以下の時の)「抑うつ」
〈Phantom Regret〉-幻の後悔がとれたら(曲が終わったら)終わる「受容」段階…という5つのプロセス

(注2)やはりCOVID-19を想起せずにはいられない。『After Hours』のツアーもできてないし。

(注3)この曲のタイトルにもなっている「Phantom Regret」がここで出てくる。肉体がなくなっても、痛みがあるように感じるのは、「幻肢」といえるだろう。

(注4)これは「Rest in Peace」という言葉の考え方。人生で何か後悔したまま死んでしまったら、安らかに眠ることはできない。安らかに死ぬためには、自分の人生を縛っているものを手放さなければならない。

(注5)狩猟や採集(人類が最も古風な形で純粋に生きるための小さな試みへの言及)、権力闘争のために作られた国や帝国、人種間の偏見や憎しみなど、地上的なものは無用で忘れられる場所として、ジムは死後の存在を表現している。これらは、現代の人類にとって最も中心的で重要なものでありながら、死後は何の重みも持たない。

ジムは、天国が非常に遠くて実現しにくいものではなく、自分の中にあることを後でほのめかしているため、「頬をつたう涙」よりも近いと表現し続けている。「頬をつたう涙」の部分は、詩の受け手が経験した/させた後悔、切なさ、悲惨さといったテーマを持ち出している。

(注6)これは直接的にPrinceの楽曲<Purple Rain>を引用している。「Purple Rain」とは、青空が血(赤色)で染まったとき、紫色の雨が降り注ぐだろうというPrinceの考えに起因する。NMEによると、Princeはこう言ったという。「紫の雨は、世界の終わりと、愛する人と一緒にいること、そしてあなたの信仰/神が紫の雨の中を導くことに関連している」

(注7)T. Rexの楽曲<Bang a Gong(Get It On)>からとったのだろう。

(注8)エジプト神話では、人が死んだ後、アヌビスはその人の心臓を取り出し、マアト女神の羽根と照らし合わせたという。心臓は、その人が行った全ての悪行が含まれていると信じられていた。心臓が羽と同じ重さであれば、その人はオシリスと共に楽園で永遠に生きることができると信じられていた。

(注9)マタイによる福音書 第6章28節〜29節「なぜ、衣服のことで思い悩むのか。野の花がどのように育つのか、注意してみなさい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった」

(注10)「神聖なるのブーガルー」とは、一種の陶酔状態、あるいは涅槃に達することであろう。

ブーガルーはフリースタイルで即興的なストリートダンスの種類で、ソウルフルなステップとロボットのような動きでポッピングダンスやターフィングの基礎を構成している。ブーガルーにはイリュージョン、筋肉の制限、ストップ、ロボットやウィグリングを取り入れることができる。

(注11)ヨハネによる福音書 第20章19節より。

(注12)自己愛と尊敬をテーマにした詩の、力強いエンディングである。ジム・キャリーは、仏教的に、天国は内側からやってくる、人は内側に平和を見いだして初めて本当に幸せになれると信じている。なので、天国は自分自身の中に見い出したときにのみ見ることができるのだ。

キャリーはプロザック(抗うつ剤)の服用をやめ、代わりにスピリチュアリティとアートに逃避することにした。また、薬物、アルコール、コーヒーなど、あらゆるものを生活から排除した。その結果、彼はもううつ病を経験しなくなった。資料:The Spiritual Emergence of Jim Carrey

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それにしても、《Dawn FM》も《After Hours》同様コンセプチュアルで面白かった。「今、三部作のまっただ中にいる」こともTwitterで明かされたし、最終章も非常に楽しみ。

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