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メチャクチャにヤバイ就活生kondoyuko 丸の内圧迫インタヴュー

2013年4月14日発行 ロウドウジンVol.6 所収

残念なお知らせをしよう。

メチャクチャにヤバイ就活生」として世間を震撼させたkondoyukoは、内定を捨て、就職活動家を継続している。初任給が低かったからだ。彼女は手取り20万円欲しかった……。

その情報をキャッチした反社会人サークルはすぐさま下部組織である「僕の株式会社は未来をつくる」(以下、未来社)に働きかけ、彼女に採用オファーをかけた。彼女との面接を申し込むウェブサービス「KondoMeeting」は、すでに応募が締め切られていたが、構うことなく応募し、幸運なことに未来社はメチャクチャにヤバイ就活生・kondoyukoの逆面接を受けられることになったのだ。我々は赤い亀甲縛り用の縄を携えて、圧迫面接サディスティック・インタビュー(学生に当社を志望しない理由を圧迫的に追求するタイプの面接方式)に臨んだ。

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 一次面接

──早速ですが、kondoyukoさんは未来社を志望されてないですよね?

されてないです(笑)

──なぜ志望されないのですか?

志望しないとかするとか以前に、どんな会社なのかわからないので。

──当社は世界征服を目指して様々なプロダクトを開発しておりまして、ゆくゆくは人がバタバタ死ぬ社会に貢献したいと考えております。

ちなみに初任給はおいくらなんですか?

──初任給は……いくらですかねえ。これから考えましょう。応相談。

怪しい。

──現状社員がいないもので。まだ社長しかいません。やる気があれば役員にもなれるかもしれない。結構貴重だと思いますよ? 2年で店長とかじゃなく、入社の瞬間から取締役。で、他に当社を志望しない理由は?

志望しない理由ですか。それをはじき出すのは難しいですね。ただ私、「志望しない」アクションは「辞退」だと思うんですよ。だから、逆就活ではその権利を面接の前段階で行使することで、偏った関係を崩せると。就活は普通不均衡な関係で、採用される前は志望者が弱者ですし、採用された後は会社の方が弱い立場になりますから。まあ、お互い様といえばお互い様ではありますけどね。

──ではまあ、とりあえず自己アピールをして頂きたいんですけども。

自己アピール? その質問も大嫌いですね。

──自己アピールは嫌い?

自己紹介も、東京大学で建築を研究しています。kondoyukoです。くらいです。

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──では、やりたいこととかは? 他社の面接の使いまわしでも結構です。

金儲けの仕組み作りですね。自分が儲かりたい、給料が欲しい、というのではなく人はどこに金をPayしていくんだろう、金ってどうやってまわっているんだろうということに興味があります。例えばメディアで儲からないんだったら儲ける仕組みを作るとか。私はこの一年キンドルで本を出すのが目標、いえ夢なんですけど、それだけではなく本を売るために今までにないプロモーションするにはどうしたらいいか、といったことが面白いなと思えてきて。今まであまり直接的なビジネスの研究をしていなかった反動でもありますし、社会人として自分の能力を発揮する手段としても、人が価値を感じ対価を払う仕組みを作っていけたらと思います。

──当社に入ると金儲けの方法が思いつきますよ。資金難ですから必要性から自然に知恵も出て欲も出てサバイバル能力も身について、きっとお金儲けの道筋が見えますよ。それと、キンドルで本なりなんなり出したいっていうのは、今関心があること?

プライベートでやりたいことはそれです。仕事でやるのはまた別だとは思いますが。

──そのときはただ出すのが目標ではなく、それを売るのが目的?

はい。そうできると面白いな、という発想です。売れる内容の本を作るより、書きたいモノを書いて、それをキンドルでも紙の方でも、私は一応インターネットで若干は実績を作ったのでそういった材料や手法を活用して売る。例えば海外の事例を参考にして、先にキンドルで出して売れたら紙で出すであるとか、論文でもデジタルで査読出した後に紙で出すといったような。そういうレガシーなところをインターネットで新しくしたいというのが私が就活でやりたいことの一つで、そういうことをやっている企業に行きたいという気持ちがあります。御社を志望しない理由は、他に行きたい企業があるからです。

──なるほど。すごくまっとうな理由ですね。ですが複数社内定を取る学生もいる以上、他に行きたい企業があるから当社を志望しないというのは理由にはなりませんね。では、続けて逆の質問をしましょう。自己の良い所ではなく悪い所をPRしてください。

いっぱいありますよ。例えば仕事が遅いです。

──大丈夫ですよ。当社の社長の方が遅いです。この一年の成果は名刺作っただけですから。

あーそうか。私の方がいっぱい作ってますね。名刺2デザイン作ったから。

──名刺をシールにしたりとかいろんな工夫もされてるようなので、すぐに社長を脅かせますよ。社長候補ですね。

でも、それに、ギリギリまでやらないんですよ。私。

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──だけど、ちゃんとやるんですよね? 我々が「今日中に!」とか言えば良いってことですよね?

今日中に、とか結構言って欲しいですね。無駄な〆切をつくってほしいみたいなところはあります。

──では、この問題は解決しますね。当社の求めているレベルからすれば、全然仕事遅くないですし、丁寧だと言えると思いますよ。当社には〆切過ぎてからようやく仕事に着手する者もいます。他に短所はありますか? 当社がkondoyukoさんを採用しないように頑張ってください。

あー……私は大学院時代に、さて研究しようと思って研究室に行っても、すぐ寝たくなりました。御社でも恐らく着いたらまず30分くらいネットして、ああ寝たいって仮眠室に行って寝て、夕方も寝て……みたいな。

──だけど、起きたら仕事はするんですよね? 当社は昼寝制度もありますし全然余裕ですよ。なんだったら別に自宅勤務でも構わないですよ? なにせ、当社はいまオフィスがありませんから。

オフィスないの、ちょっとつらいです。

──じゃあ、借ります。今から借りるんで、好きなところ指定していただければ。仮眠室でもハンモックでも、なんでも。

あー、いや、広さだけじゃなくて私、社員数が少な過ぎるのは、ちょっとごめんなさ

──(さえぎって)今から増やしましょう!何人いれば良いですか?

以前、10人以下のベンチャー企業に遊びに行った際に、オフィスに机が6つぐらいしかないのを見て、毎日同じ景色で仕事をしないといけないと思うと、ちょっと気がめいるなと思ったんですよ。ワークスペース的に。

──でもそれ大企業でも一緒ですよ。自社ビルとか買っちゃうと一生そこですよ。

自社ビルの中でも移動したりできないんですか? フリーアドレスを採用しているオフィスにはすごく憧れます。流石にそこまでは無理でも、せめてカフェスペースがちょっとあるような、そういった場所を設けられるくらいの規模の。数十人以上とか。

──数十人。当社もオフィスに出資する人はもう5、6人以上集まっているんで。非常勤の社員としてそういう人をたくさん増やして、一緒に上前はねましょう。カフェだって、近くにどういうお店が欲しいかという点からも、オフィスの場所を検討できますし。海鮮丼食べたければ海鮮丼屋の近く。フリーアドレスについても、中華屋みたいに丸テーブルにしてテーブルの方を回したら結構良いんじゃないですかね? あー、俺あっちのが良いのに違うパソコンがきたー、みたいな。円卓まわして、プリンター取って!と。

人がフリーアドレスなんじゃなくて、机がフリーアドレス? それは面白い。狭いながらも楽しいオフィス(笑)

──というわけでオフィスの問題もだいたい解決して、やっぱり当社に入るしかない気がするんですけども。

うーん……。

──では、当社に来て、したくないことってあるんですか?

したくないこと、ですか。トイレ掃除とかもやれといわれたらやりそうだしなあ……あ、そういえば私、部屋が汚いです!

──あー(嘆息)。でも別に大丈夫ですよ。我々は誰も潔癖症ではない。

部屋だけじゃなくて、オフィスも汚い。机も汚い。自分の机が汚いから、それで……。

──自分の机だけですか?汚いのは。隣の人の机は汚くないんですか?

それは一応、汚さないですよ。

──個人の裁量の中で済むのであれば別に良いですよ。世の中には自分の机のまわりに草とか植えてる奴がいて、そういう方が迷惑ですから。隣の席に自分の書類置きはじめて、セクハラだって訴えられたり。トイレ掃除だって、近くのパチンコ屋などで用を足せばそもそも必要がありません。では最後に。すごく単純な興味なんですけど、ずっと勤めたい会社を探してるんですか?どこかにいったん就職して、ステップアップを図るみたいなのは?

いや、ありますよ。でも、まず行きたいと思わないとモチベーションがわかないんですよ。エントリーシート書いたりとか。受けたいと思わないとできない。でも以前内定辞退した理由は、給料が安かったからなんですよ。初任給は無理でもそのうち手取り20万円もらって、歯の矯正をしたい。それだけです。1年はそこで働くのもありかなとは思いました。

──わかりました。とにかく、貴方は合格です。最終面接に進んで頂きます。

(2013年3月20日 OLと社畜産業の跋扈する、丸の内のカルフォルニア・イタリアン「A16」にて。奇しくも隣接する三菱一号館では「丸の内・近代ビジネスマンのくらし展」が開催されていた……)

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最終面接

一次面接はつつがなく終了した。面接官をつとめた反社会人サークルの三人は、議論の余地もなく、kondoyukoを最終面接に送り込むことにした。最終面接は代表取締役社長が面接官を務める。世紀の頂上決戦の舞台は新丸の内ビルディング地下1階のフレンチイタリアンバール「ダパウロ」。テーブルに並ぶプレミアムモルツとモヒート白州ハイボール。決戦の火蓋は切って落とされた……。

──それでは、まずは名刺交換からお願いします。

社長「『ほこ×たて』じゃないんですから(笑)。よろしく」

kondoyuko「kondoyukoです。本日はよろしくお願いします」

──とまあ、場も和んできたところで、ビールでも飲み交わしながら、ざっくばらんにお話していただけたらと考えています。

社長「まず最終面接まで進んだにも関わらず、弊社を志望しない理由を教えていただけますか?」

kondoyuko「別に、志望しない、なんて言ってないですよ」

──そんな! まさかの展開。社長相手だと、態度が違いますね(笑)

社長「では、弊社を志望するとのことですが……」

kondoyuko「志望する、とも言ってない」

社長「……はぁ、疲れた。では、志望するわけでも、しないわけでもないのに、なんで本日は面接に?」

kondoyuko「呼ばれたから来た(笑)。応募を締め切ったにも関わらずKondo Meetingに申し込んできた、さらに友達の友達の会社だから来ました」

社長「帰ってください」

──まあまあ、社長。質問を。

社長「得意な言語はなんですか?」

kondoyuko「Rubyを一通りやりました」

社長「どういうものを作ってきましたか?」

kondoyuko「最初はTwitter botが作りたくて。あとITベンチャーでアルバイトをして、PHPのコードをRubyに書き換えるというお仕事をしました」

社長「じゃあ、Rubyに関しての質問です。Rubyにはfor文がありますけど、for文が使われていない理由はなんですか?」

kondoyuko「えっ?……えっ?(笑)質問の意味が分かりませんでした。For文、使いませんか?」

社長「使いません」

(15分ほどの熱い議論)

──いやぁ、圧迫ですねえ。この話はシンタックスシュガーだなんだと、長くなるので割愛しましょう。

社長「はぁ、はぁ。……ではkondoyukoさんは某社の興味を持っているそうですが、その採用基準は何ですか?」

kondoyuko「課題論文の出来、じゃないですか? 単純に。採用ではグループディスカッション(GD)とか、面談とかしますけど、たぶん論文が良ければ。わからないですけど」

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社長「なんでGD苦手なんですか?」

kondoyuko「コミュ障だから。チーム苦手なんですよ。会社で働くには致命的な欠陥なんですけど。本当は例のサイトづくりとかも友人に頼む予定が、友人ちょっと忙しそうだなー、自分でやっちゃえ!みたいな。菊池良さん(世界一即戦力な男)は分業ができたから、知人のセミプロだかと一緒にできて。私はプロデューサーで、彼はディレクター。違うなあと。ひとりでやったのは、そうせざるをえなかったようなんもんですよ」

社長「そもそも、なんでサイトをつくろうと思ったんですか?」

──社長! それはインターネットで検索してください!

社長「はい。それではkondoyukoさんの良いところはなんですか?」

kondoyuko「えっと……正直なところ?」

社長「正直なところは何かビジネス上で役に立つんですか?」

kondoyuko「某社の受け売りですが、正直な経営をすれば会社のファンがついてくる」

社長「うーん。では正直であるってことを定量化してお金に変えるようなサービスとかどうですか?kondoyukoさんが嘘をつくと、みんなが逆保険でお金を払う。kondoyukoさんが本当のことをいうと、みんなにちょっとずつお金が入る。Twitterみたいな発言が可視化されているもので、kondoyukoさんの発言をもとにチャリンチャリンする。真偽判定は集合知で」

kondoyuko「うーん」

──話が盛り上がって来ましたが、時間です。本日はありがとうございました。


最終面接は終了した。社長は深く頷くと、部屋から出ようとするkondoyukoの携帯電話に発信した。「内定」の結果を伝える社長。驚きの表情でこちらを振り返りぴょこんと頭をさげたkondoyukoは、そのまま面接会場をあとにした。数日後、われわれのもとに一通のメールが届いた。

 こんにちは。kondoyukoです。先日は、KondoMeeting経由でのエントリー、および面接の機会をいただきまして、誠にありがとうございました。また、内定のご連絡もいただき、大変嬉しく思います。

 慎重に検討させていただきました結果、残念ながら今回は内定を辞退させてただきたく、ご通知申し上げます。

 貴社の面接のスタンスである「逆圧迫面接」は、通常の就活ステップである「企業側の判断(内定/不採用)」→「就活生の判断(内定受諾/辞退)」に対して、はじめから就活生の選択権を問うものであり、新しく画期的であると同時に、大変逃れられない気持ちで、苦痛を感じざるを得ませんでした。

 社長様のお人柄に関して、興味のある分野に対してのこだわり、ほぼ初対面の私に対して「ブラウスのボタン外れてますよ」という率直さなどとても魅力的なものを感じましたが、貴社が何をされているか最後まで分からず、貴社の事業に対する共感を現時点で感じられなかった点において、少し不安を感じてしまいました。

 今回はこのような結果となってしまいましたが、また今後、別の機会でご縁があることを楽しみにしています。

 末筆ではございますが、今後の貴社のご健勝を心よりお祈り申し上げます。

kondoyuko

われわれは顔を見合わせ、がっくりと肩を落とした。メチャクチャにヤバイ新入社員の誕生とはならなかった。社長は「面接は受ける側からからしてみれば相手企業を面接してやるという気概があるかと思いますが、売り手市場であるいま逆面接を受けるというのは 面白い経験となりました」と呟くと、手元に酒瓶をたぐり寄せ、一息にそれを煽った。夕暮れの部屋に嚥下音が響いた。未来はすぐそこまで迫っていた。

(了)


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kondoyuko プロフィール
1986年岡山県生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。学生時代の主な研究分野は近代建築史、シェア居住。2012年、新卒就活中に制作した自己PRサイトが話題となる。2013年4月、大学院修了と同時に個人事業主として独立。就職活動を継続する傍ら新しい働き方を模索する。

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