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就活 ⇒ シューカツ ~現代日本における現状と課題~

2013年4月14日発行 ロウドウジンVol.6 所収

 ここまでメチャクチャにヤバイ就活生・kondoyukoのインタビューをみてきた。ここで浮き彫りになるのは「就職活動」に潜む数多くの問題である。

 近年、「就職活動」が脚光を浴びている。たとえば、2011年の勤労感謝の日に実施された「就活ぶっこわせデモ」をはじめとする就職活動抗議デモ。本誌とほぼ同タイミングで出版された青土社『現代思想』2013年4月号の特集は「就活のリアル」。文芸の世界においても石田衣良『シューカツ』(文藝春秋・2008年)や朝井リョウ『何者』(新潮社・2012年)といった就活小説が流行している。

 一方、大学生内定率は六割強と回復傾向はみられるものの、依然として就職氷河期であり、就職を苦にした学生の自殺者は07年の16人から52人と三倍以上になっている。企業の人気格差も大きく、より優秀な学生を求めて、採用難化の傾向は続いている。はては「カリスマ内定者」なんてものまでもてはやされる。就活生たちは、肥大化した「就活」の中で、若い体力と精神力を削っているのだ。

 今号のテーマは「たのしい就職活動」。反社会人サークルの考える、未来の就職活動の姿を追い求めていこう。もちろん、反社会人サークルのスタイルで。


 元来より就職は結婚の比喩で語られることが多い。それは逆もまたしかり。たとえば結婚を「永久就職」と呼ぶことがある。いささかオールドタイプな物言いであり、終身雇用が実現されていた過去の亡霊だといえるだろう。しかし、現代においてもなお、就活からインスパイアされた「婚活」なる言葉もある。人材の流動化とともに(十分ではないものの)転職が広く認知されるようになったことに呼応するように、離婚・再婚が増えているのは皮肉的でもある。

現代日本式シューカツ?

 就職活動の話をするにあたって、まず、われわれは「就活」を定義しなければいけない。「就活」とは「就職に向けた活動」であるのは間違いない。しかし、辞書を参照すると「大学新卒者を主とする求職活動。希望する企業・職種を選び、説明会に出て、会社訪問、履歴書などを提出し、筆記・面接試験を受け、内定を得るという一連の活動のこと」(大辞林)とかなり限定的な意味を有している。これはいわゆるひとつの日本式就活スタイルであり、時の流れとともに大小さまざまに変化している。

 たとえば1980年代における典型的な就職活動は、次のようになっていたという。大学四年生の10月1日に会社訪問が解禁されると、学生たちは人気企業の本社前にリクルートスーツで列を成す。そこで会社説明が行われ、そのまま個別面談が行われる。11月1日の採用試験解禁日には、すでに内定を得た学生が集めさせられる。資料請求、会社説明等のステップはあるものの、実質的には履歴書と面接一発が、選考のほぼすべてになっていることがわかる。

 現代の就職活動における過去との相違は主に二点ある。

1.就職状況の変化
2.情報技術の発達

 採用そして企業を取り巻く経営状況は、全般的に芳しくない。平成不況と呼ばれて久しいが、バブル崩壊からの失われた20年を経てなお、状況の改善はわずかにみられるだけだ。アルバイトや派遣労働者といった非正規雇用も拡大している。新卒一人あたりの採用コストは、大手企業において50~200万円ともいわれる。それに加え、入社後の育成コストまで勘案すれば、大学新卒といった非即戦力を採用することが、どれだけ高リスクな所業なのかが想像できるだろう。

 さらに情報技術の発達である……が、その前段階として、1980年代に相次いで「求人情報誌」が刊行されたことが重要になる。現代において求人情報誌といえば、アルバイトや転職用のものがほとんどであるが、当時は新卒者向けの求人情報誌があった。求人情報誌以前の「求職活動」は、職業安定所(ハローワーク)や店頭の求人ポスター、縁故が大部分であった。そこに登場した求人情報誌、そしてIT化にともなうオンラインへの移行(就職情報サイト)により、就活生はあらゆる会社情報をフラットに並べることが可能になり、クリックひとつで選考にエントリーすることができるようになった。しかも、いつでも、どこにいても(ユビキタス)。かつては手書きで一枚ずつ書いては郵送していた履歴書も、パソコン上のコピー&ペースト+サイト上での送信で完結している。さらには筆記試験もオンライン実施が少なくない。就活業界のセンター試験ともいえる統一試験「SPI」(リクルートマネジメントソリューションズ)も大手企業を中心に広く利用されている。

 これらの帰結として、企業(特に大手企業)は就職情報サイト等を利用して広く学生を集め、厳選採用の名の下に優等生的な人材を奪い合うことになる。もちろん、採用フローは難化・複雑化・多段化するし、どんどん長期化する。学生は大手病にかかり、競争はますます激化する。学生間の内定格差は大きく広がり、ひとりで何社も内定を集める学生がいる一方、NNT(無い内定)のまま卒業を迎えることになる学生も多い。不況の下で高度にシステム化・標準化された就職活動、それが現代における就活なのだ。

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注:本誌では、就活のターゲット企業として、就職情報サイトに出稿しているような大手企業を想定している。しかし、実は採用活動に積極的な企業というのは、日本における企業の中ではごく一部の少数派なのだ。そもそも採用活動をしていない企業も少なくないし、地方にあり積極的な採用活動が必要のない企業もある。それらは合計すると約7割になるといわれている。ただし、いわゆる大学における風土病的な就活においてターゲットになるのは、就職ランキングや就職偏差値といったところでもてはやされる、いわゆる大企業である。

就活における問題点

 就活デモ等からもわかるように、いま就職活動に対して異議を唱えているのは、圧倒的に就活生側が多い。企業側からの異議はあまり耳にしない。それもそのはず、「就職活動」という言葉からもわかるように、権力は採用する側に宿っていて、完成されたパワーバランスが最初から存在するからだ。それは売り手/買い手市場というような環境条件とは無関係で、原理的に不可避である。

 しかし、就職活動は同時に採用活動でもある。はじめに就職を結婚の比喩で表したが、それらの最大の課題はマッチングである。就職活動(や結婚)がどのようなプロセスを経たとしても、最終的にマッチングに成功し、企業も就活生もWin─Winな結論が得られるのであれば、それはそれで一応のところ問題は生じない。しかし、現状はそうなっていない。採用側である企業としても、アンマッチは大きな問題になっている。

 たとえば、企業側も自社が必要としている人材像がみえていないことが多い。これには採用担当者に採用能力が不足していることも影響しているだろう。だから業種等に関係なく、どの会社も似たり寄ったりの人材を集めようとしてしまうのだ。そこで求められる架空の人材像は、同時に学生が就活マニュアルを通じて目指すことになる、あるべき就活生像と同一だ。就活生は己の個性を食いつぶしながら、嘘ではないけれど本当でもない、優等生的なキャラクタを苦心して作り上げ、選考に挑むことになる。これは不幸以外のなにものでもない。

 一方、就活生側の考える就活の問題点には、形而下なもの(会社説明会のスケジュールが密集していて予約しにくいとか、運悪くバカ面接官に当たってしまったとか、就活が忙しくて学業の時間が取れない等)だけでなく、形而上的なものも少なくない。祈られ続ける(=不採用通知が続く)ことにより自己否定の感覚にさいなまされたり、非常識な面接官による精神的なハラスメントを受けたり、親からのプレッシャにより精神が不安定になったり、彼らのこころは少しずつむしばまれている。これは企業が学生をセレクションするという前提ゆえに不可避であるが、環境のコントロールによってある程度は軽減できるようにもみえる。

 また、就活の問題点には、新卒一括採用というシステムや、不況からの就職難といった環境要因、人気企業への志望偏向による選考激化、選考手段の陳腐化・形骸化といったものも依然として存在する。倫理憲章に基づく採用時期の問題も、もちろんある。

 いずれにしても、現状における就活の最大の問題は、それぞれがそれぞれの立場から好き勝手に異議を申し立てているだけであり、建設的な議論に向かっているとは言いづらいことだ。この混沌とした状況を、ここまで述べてきた三つの観点「企業」「学生」「システム」の軸で捉え直してみたい。そのうえで、まずは個々の問題を解消するソリューションを提案しよう。建設的な議論は、それからだ。

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就活における課題を上図のように可視化すると、それぞれのあいだにゆるやかな相関があることがわかる。現実では、異議を唱えている主体だけで個別の問題について騒ぎ立てている印象が強いが、共通するのは「就活」という文化基盤の問題に踏み込めていないことだろう。当たり前のことを当たり前のままに受け入れて本当に良いのだろうか、という視点が多面的に議論されていないのが、現代の就活問題を考えるうえで最大の争点になるはずだ。そのためには異議の大部分を占める私的なネガティブ感情を取り払わねばならない。これらの課題の中にはすぐにでも解決可能なものもある。たとえば、合否連絡において、合格の場合しか連絡しないという奇妙な風習があるが、それは企業側の努力だけで解決する。そのような課題を消し去ったうえで、最後に浮かび上がるのが、就活における根源的な問題になると考えられる。まずはソリューションの導入によって、それを炙り出すことが重要になる。

つづいて、就活における諸課題を直接叩き潰す、反社会人サークルの独自ソリューションをご紹介しよう。


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