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反社会人コラム「やった感」

2012年11月18日発行 ロウドウジンVol.5 所収

反社会人サークルでピックアップした、いまもっともアツい反社会人に同一のお題でコラムを寄稿いただく競作コーナー。三者三様の「やった感」から複層的に浮かび上がる「やった感」は、貴方の琴線を震わすことができるだろうか。

華麗なる社会人の1日

 朝。ギリギリに目覚め、手早く身支度を済ませると、一服。キチガイじみた朝の山手線に乗り込み世界を憎むことしばし、世間のお父さま方よりはおそらくだいぶ短い我慢大会を乗り越え、会社最寄り駅へと降り立つ。ウテナOPのごとき人の波を競歩で乗り越えて、いつものタバコ屋の喫煙スペースでまた一服。ああ、もう帰りてえなあと思いつつ、オフィスへ。

 「はょざぃぁーす」やる気溢れる挨拶と共に自席へつくと、会社より貸与されているThinkPadを取り出す。起動。何重にも掛かっているパスワードは三日に一度は間違える。今日は大丈夫だった。スペックはそれなりのもののはずが、近ごろめっきり起動が遅くなっているのに軽くうんざり。ぼうっと待ちつつ、ゆっくり首を回す。ごき。もう疲れてる。帰りたい。

 朝のメールチェックもそこそこに、透過20%にしたラーメン大陸の小さな窓から「しゅっしゃ #かえりたい 」無表情のまま、たった数文字に込めた全力の祈りをインターネットを通して全世界に叫ぶ。世界の中心はここだ。これが俺の愛だ。

 働きたくないし帰りたいが少しは仕事もする。30分くらいで終わる。多くても2時間で終わる。内容的には出社の必要がまるでない。帰りたい。昼休みを待たずしてすることはなくなってしまう。しかたがない、調べ物の体で画面とにらめっこすることにしよう。おもむろにGoogleReaderを開くと、ああ、また未読のケタが増えている。

 昼。ランチは平日のささやかな楽しみ……とでも思えればもう少し気楽なのだが、どうせ拘束時間、手早く空腹を満たせればそれで良い。今日も牛鍋丼。しかしたまには野菜も食いてえな。セットにしたところであんなサラダではなあ。そんなことを考えつつ、よく噛んで食べる。漫然とものを口に運ぶなとオーガも言ってた。こんなジャンクな肉でもつまりどこかで俺のために死んだ牛がいたということか、胸が熱くなる気がしないでもない。目の前のオヤジの食い方が汚い。帰りたい。

 10分で食事を終え、ふたたび近所のタバコ屋喫煙スペースに赴き、一服。近ごろは会社内に喫煙所などないのだ。世知辛い。たばこは健康に悪いし不快に思う人もいる。なるほど正論だ。仕事も健康に悪いし不快に思う人もいる。隔離すべきであろう。しろ。わたしは帰らせていただきたい。

 午後。引き続き「調べ物」。平和であれば、そのまま一日が終わる。平和でなくなってしまえば、終わらない。いずれにしろ午後は特筆すべきことがない。ひたすら帰りたい、寝たい、帰りたい、そんなことを延々考えてる。合間合間に一服を挟む。そんなループの果て、いつのまにか一日の業務は終わる。瞳のハイライトは消えている。何もしてないのにひどい消耗だ。おつかれさまでした。ああ、今日も一日がんばった。何もしてないをすごくした、そんな充実感に満ちた帰路の足取りは軽い。

 ※以下死ぬまで繰り返し

 ぜつぼう。

著者プロフィール
@shun_tan (しゅん) 夢はろくおく当てて引退。寒風吹きすさぶ東京砂漠の片隅で、今日も満員電車を憎みつつ痴漢冤罪を恐れて両手の置き所に悩む日々。ぼくはやってない。

Maximumザホルモン

 何かを達成した喜びを表現する時「やった!」と言う(リアルではあまり聞いたことない)。プロジェクトが成功した時、新規の顧客を開拓した時、任されたtaskを無事こなした時。脳内にはモルヒネの数倍とも言われる効果を持つβエンドルフィンやらドーパミンが滴る。仕事人間=ヤク中。一仕事終えた後の麦酒は何物にも代えがたいと思う瞬間すらある。頑張った自分にご褒美。また次も頑張ろう。労働とは高尚なものなのだと昔の偉い人は言ったらしい。仰る通り、何もなさずしてカタルシスの快感に与ろうなどとは考えが甘いのである。勤労感謝、労働万歳!

 さて、テーマの「やった感」、定義が曖昧で難しいのだが、つまるところ「やってない感」とほぼ同義である。やったといいながら本当は何もしていないという後ろめたさを内包したネガティブなワードである。それでは真の達成感とは? こなした仕事量、稼いだ賃金、などから推し量ることはできよう。しかし達成感それ自体を定量化出来ない以上、あくまで主観の域を出ない。結局、日々の労働とは「やった感」を探り、取り出し、積み重ね続ける作業に終始するのではないか。ガンバレ! そのうち脳内麻薬が出てくるよ。 

 とまあ、ボク社会人じゃないんですけどネ。「やってない感」甚だしい。そろそろ肩身も狭いのだが諸先輩方のお話を伺う毎に、社会に出ようなどという意気は真冬の男性器よろしくみるみるうちに萎えしぼんで行く。ナ○ポを不○受給した方がマシなのではないかとすら思えてくる始末であるが、それこそありもしない「やった感」を必死に探す作業と延々と向き合うことになる。働くにつけ働かないにつけ、生きることそれ自体がゆるやかな自殺であると再認識せずにはいられない秋の夜長であった。

著者プロフィール
@masked_writer1 (仮面ライター♂号)立派な企業戦士になることを一度は夢見た25歳スチューデント♂。現在はアレキサンダー流忍者学園の新規設立に向け準備中。祝禁煙1ヶ月達成。


イエティもふもふ.fw

著者プロフィール
@imainaoko (いまいなおこ) 捕鯨プロデューサー。


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