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未来のシューカツ たのしい就職活動

2013年4月14日発行 ロウドウジンVol.6 所収

下記の記事で、ソリューションをひと通りみていただいた。しかし、これらが就活問題のすべてを解決するわけではない。そこに込められた意義を解きほどきながら、未来の就活、そして「たのしい就職活動」の姿を明らかにしていこう。

 反社会人サークルでは、抽出された就活における問題点を独自の理論で分析・モデル化したうえで、これらのソリューションを開発した。そこには一定の理論的裏付けがある。どういうことか。

 まず世の中を見回すと、就活ソリューションというのは意外と多いことに気がつく。リクナビ、マイナビ、日経就職ナビといった就職情報サイトを筆頭に、就活生用SNS(電子掲示板)であるみん就(みんなの就職活動日記)や2ちゃんねる就職活動板といったウェブサービスが代表的だ。しかし、それだけではない。たとえばスマートフォンアプリの分野では、クイズ形式で面接テクニックを磨く「必勝!面接徹底対策」(キャリアデザインセンター)、履歴表用の入卒年を一発計算できる「学歴早見表」(エスキュービズム)、内蔵カメラを使用した「就活メイク診断」(花王ソフィーナ)、質問に対話式に答えていくだけで自己分析や適職診断ができる「適職ラボ」(アクセスリード)まである。果てはそのような就活アプリが山ほど入った就活生専用オールインワン・スマホ「就活Xperia」(ソニーモバイルコミュニケーションズ)などというものも存在する。

 しかし、これらのサービスは現代日本の就活スタイルを大前提としている。いや、それどころか、いわゆる就活傾向を加速すらさせる。就活生が全員このようなツールを手にしたら、値下げ勝負の末に崩壊寸前となった牛丼業界のような荒野を、われわれは観測することができるだろう。価格競争はジリ貧しか招かない。これらのソリューションにおける基本的な原理は、就活における様々な面倒を排除し、効率化することにある。現状において、ジョークソフトのようなものが大半であるため影響は大きくない。しかし、十分に成熟した就活サイトの影響で、就活生ひとりあたりのエントリー数が爆発的に増加したのは間違いない。それはブログ革命といったいわゆるIT革命の恩恵のひとつであるが、それが就活生に負担を与え、問題化しているのは事実だ。

 われわれ反社会人サークルで提唱するソリューションは、既存のソリューションとは一線を画する。なにが異なるのか。ソリューション・マップをご覧いただきたい。

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 就職活動の初期段階は、自己分析と企業分析だといわれる。これを採用側に当てはめれば、自社分析(自社の客観的な立場、必要としている人材像等の把握)と就活生分析(志望学生の性質、ポテンシャル、スキル等の見極め)になる。反社会人サークルでは、この二つの側面を「ブランディング」と「対象研究」と名付けた。すると、学生の「ブランディング」は企業の「対象研究」と強い相関があることになり、そこには「炎上リクルーティング」が有効だ。目の前の採用担当者だけを騙せば良かった従来の自己PRとは異なる、より客観的な視点をソリューションで担保することができる。

 次の段階はエントリーである。しかし、現状のエントリーは十分なマッチングの結果にあるとは言いづらい。なぜなら、就活情報サイトをはじめとするIT化により、エントリーのハードルが劇的に下がっているからだ。最近では長大なエントリーシート等でハードルを上げて、志望度の高い学生を事前に絞り込もうとする企業も少なくない。しかし、大量エントリー(=選考フローに入ること)が物理的に困難であった時代ではふるいにかけられていたような就活生が紛れ込むのを排除しようとするのは企業側の論理である。反社会人サークルはそのようなテクノロジに逆行する採用スタイルを認めない。そしてエントリーそれ自体も「マッチング」の一部だと位置づけたうえで、ソリューションを投入している。たとえば「99のおいのり」は、人力では不可能な大量エントリーを実現するソリューションだ。エントリー数と内定率の相関には首を傾げたくなるところもあるが、エントリー数が多いほどマッチングが成功する可能性が上がるのは数学的な事実である。

 続いて「選考」だ。この分野は、基本的に面接改革がテーマになる。いわゆるバカ学生/面接官問題を素直にクリアするためのソリューションとして「一般採用意志2.0」「中国語の面接」がある。いずれのソリューションも面接官の個人特性という観測問題を回避する。これにより、学生/企業双方にとって、納得感の高い選考を実施することができる。

◇就活における最大の課題

 ソリューション・マップをみて不思議に思った読者諸氏も多いことだろう。なぜなら、就活における問題点としてよく話題にのぼる「選考」があまり重要視されていないからだ。本来であれば、選考における諸ステップ・形態──SPI、筆記試験、集団面接、グループディスカッション、個人面接──それぞれに個別のソリューションがあってしかるべきなのだ。しかし、われわれは選考それ自体をあまり重視していない。なぜなら、本特集の冒頭に述べたように、最大の問題点はマッチングにあるからだ。

 選考上の問題は、基本的に工学的に解決できる。ひとがひとを判断する、その密室下における狂ったパワーバランスを解放して、客観的な採用基準を導入すれば良い。そこで不採用ばかり続く就活生はどうすれば良いのか? それはマッチングが不十分で、アンマッチな企業を志望しているだけなのだ。では、どのようにマッチングを行えばよいのか? それが問題なのである。

◇未来の就活像

 反社会人サークルの夢想する未来の就活像は、就活生が好き勝手に振る舞っているのに、大局的には秩序立っており、気がつくとそれぞれがそれぞれにマッチングした企業に採用されている姿である。さらに雇用が流動化されていれば、なお良い。そのために前述のソリューションが有効だと考えている。ただし、それらは未来の就活を生むための土壌を準備するに過ぎない。最終的にマッチング問題だけが残される。

 実は反社会人サークルは、その問いに解答を用意してない。なぜなら、マッチングはそもそも幻想に過ぎないからだ。しかし、その幻想こそがひとびとの就労意識を支えている。まるで神様からの贈り物のように企業が決まる、そのような物語をどうやって個人に供給するかが鍵なのだ。十分に雇用が流動化されれば、そのような問題は生じにくくなるが、マッチング幻想を抱けないと「たのしい」とは言いがたい状況を産んでしまう。同時に、その鍵が就活自身なのではないかと考えている。就活なるものに最後まで残る役割は物語の供給、具体的には自己認識を中心とするイニシエーションとしての機能だ。

 結論。たのしい就職活動、その目的は内定でもなければ、自己実現でもない。ただ納得して就職するためだけに存在するイニシエーションなのだ。そのために余計な課題は反社会人サークル的就活ソリューションで一蹴するのが吉である。


識者に聞く 就職活動の未来は就職活動ではない

ソーシャルメディアを利用した就職活動について、「SNSのプロ」である廣田周作さんにお話をうかがいました。

 僕は、近い将来、そもそも就職活動という考え方そのものが消滅すると思っています。

 どういうことか?

 そもそも就職活動とは、就職をしたいと思っている学生が、ある一定の時期、自分のことを深く反省し、自らの様々な記憶の欠片をかき集めてきて、時にはKJ法っぽいことをやりながら、また時には、マインドマップみたいなのをつくりながら、まるで「まったく関係のない3つの単語から面白い話を作らせられる落語家」のごとく、整合性のあるストーリーを捏造し、パッケージ化する作業にほかなりません。

 「夢」とか「働く目的」とか「御社を志望する理由」というのは、そうした過去のくだらない記憶の断片をつなぎあわせ、事後的に強引に導き出された(ロマン主義/リアリズムの文体の違いはあれど)フィクションを捏造する所作にほかならないわけです。「世の中を動かすシゴトがしたいと思っています。シゴトを通して多くの人と関わりたい。自分のツヨミは、諦めないことです」というのは、フィクションとして、インスタントに立ち上がった仮想的な自分=キャラなのです。

 しかし、もう少しソーシャル・メディア時代が進むと、学生はそんな悩みから開放される日がやってくるでしょう。なぜなら、その人の生き方そのものがログとして(例えば、Facebookのタイムラインのような場所に)ほぼ全て残るようになるからです。

 いちいち、学生自ら自分の過去を振り返って、KJ法をしなくても、採用担当者が、その人のTLをクローリングすることで、その人のことをビッグデータの塊として把握出来るようになるでしょう。友達が何人いるか、とか、はじめての彼女が出来た時の年齢とか、タグ付けされた写真の数などから、「リア充偏差値」が測定され、機械的に「あなたのコミュ力」が分かるようになってしまうわけです。学生の意志とは関係なく、全てが分かってしまう。

 つまり、学生は就職活動という特別な期間のために、意志をもって、「活動」する必要はなくなるわけです。言い換えれば、学生側が主体となって、「ある一定期間、内省する期間」=「就職活動」は消滅するのだと思います。

 当然、自己分析もいらなくなるでしょう。採用担当者は、あなたの膨大なログをSQLサーバにつっこんで、ちょっとした集計をかけたり、統計処理をほどこすことによって、サックリと分析してしまうでしょう。ちょっと気が効いた担当者なら、コレスポンデンス分析をかけたり、共分散構造分析とかをやって、なんか「意味がある風」の解釈をしてくれるかもしれませんが、しかし、現在のような自己分析=精神分析の時代は終わり、データベースによる動物的な「入社」が実現するでしょう。ベルトコンベアーにのって生きていれば、あるものは、ある企業のドアが開き、あるものには、他の企業のドアが開く。いちいち、就職活動なんて面倒なこともしないで良くなるのはもちろんのこと、ソフトな環境管理社会の中で、学生は、不愉快な思いをせずにいたまま、無意識的に勤め先が選別されるのでしょう。

 そう、就職活動の未来は就職活動ではないのです。

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廣田周作(ひろたしゅうさく)
ゼロアカ道場最終予選出場後、電通に入社。東浩紀さんに、1年でやめると予言されるも、何故か電通でコミュニケーション・プランナー(笑)として粛々とシゴトをして早4年。2013年6月5日には、待望の単著「シェアードヴィジョン」(宣伝会議出版)を出版予定。

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