たったひとりの反社会人サークル
2010年12月5日発行 ロウドウジンVol.1 所収
反社会人サークル。その集団がどのようなものであるかは他の稿で既にご理解頂けたと思うが、社会人サークルや学生サークルといった他の集団と同じように、その構成員にも個人としての生活がある。特にフットサルやテニスなどと違い、職場で口に出すのも憚られるような集団に属している場合、多くの時間を大勢の敵の中で隠れ、生き延び、しかしメンバーとしての矜持を持って慎重かつ大胆に過ごすことが要求されるのだ。
今日はそういった過酷な生活をいかにして全うするべきか、具体的にポイントを絞ってお話していきたい。
朝食 MORNING
反社会人は朝からしっかりご飯を食べる。厳しい戦いを勝ち抜く上でやはり健康は基本だからだ。健全な肉体に不健全と呼ばれる精神、これを養っていきたい。理想は自宅で夕食の残りなどどっしりとした食事だが、難しい人はオール明けの週末と同じ優雅で規則正しい……富士そばのカツ丼セットなども良いだろう。
出勤 GO TO HELL
出典:任天堂「みんなのリズム天国」
反社会人はクズ社会人とは違うので毎日ギリギリに出社したり遅刻を繰り返してしまったりはしない。早めに行って誰もいないオフィスでだらけるのがクールなやり方だ。職場で「早く来て仕事してる」というイメージを浸透させる事が出来ればその分残業せずに早く帰っても許されやすい。仮にコーヒー片手にtwitterをやってるだけでも仕事のアウトプットさえ出来てればバレはしない……夜はいくら遅くてもワーカホリックがいるものであるが、早朝に来て人のことを見ている者など居はしないのだ。
また、同じ労働時間でも人が居ないときに働くと自分が働き者みたいな気がして優越感を味わえるものだし、逆に人が働いてる定時間後に早々と退勤して遊ぶのもやはり優越感があって精神衛生に非常に良い。「誰がやっても同じ」些事をポンと振られる回数も確実にに減る。少なからず残業のある事務職の人であれば社会人、反社会人問わずオススメのスタイルだ。
トイレ SANCTUARY
ぼっち学生のように中で食事をとることはないが反社会人にとってもトイレは重要な拠点である。背後の人気に気を使わずに仕事中存分にネットサーフィンをしたいときはここに限る。タッチパネルのスマートフォンがあればぽちぽちとしたタイプ音が外に漏れずより秘匿性は増す(ただし自分のデスクや歩行中にさりげなくネットサーフィンするには覗かれにくい小さい画面でブラインドタッチの可能なガラパゴスケータイの方が優れている)。君を捕まえようとする邪魔者から電話があった際に、携帯キャリアがおかけになった電話はただいまパケット通信中です、などと言わぬよう二台あっても良いかもしれない。
なお、万が一性的な鬱屈を個室内で発散させようとする場合は、備え付けのトイレットペーパーは使わない方が良い。水溶性であるため上手くふき取る事ができないと先端に白い紙が残り、小用を足した際やパハワラ溢れる飲み会で脱衣する羽目になった場合破滅的な展開が待っていかねない。紳士たらんとするならば常にハンカチとティッシュは持ち歩いていることだ……幼稚園で習っただろう?
ガム SOUL FOOD
仕事中の眠気防止などによく用いられるガム。これは通常知られている以上の効果を発揮することが出来る。噛むという行為は意外と力を使うので、ブルボンの歯磨きガム(コンビニで手に入る中で最も硬い)を複数枚口に入れて思い切り噛めば壁など殴らなくとも結構なストレスが発散できるし、栄養ドリンクでも飲んでいるような凄みが醸し出される。味がなくなってきたらコーヒーをわずかに口に含みまた噛むと、ガムに隠された本来の甘みを味わうことが出来るだろう。君が考えているよりもっとずっと、ガムの限界というのは遠くにあるのだ。
ガム以外だと飴やグミ、ミントのタブレット等が同様に四六時中労働者達の口を潤すが、「噛む」感触と口に残る時間、摂取するカロリーなどのバランスを考えるとやはりガムが一歩抜けている様に思う。ちなみに、飴を舐めている際に電話がかかって来た場合は吐き出さずとも頬の方に逃がしてしまえば意外と唾液や歯に当たる音はしない。
退勤 GO TO HEAVEN
出典:コナミ「新入社員とおるくん」SG-1000版
さて、怒られたり無視したりトイレにこもったり対策むなしく意識を飛ばしたりして、なんだか頭がシャッキリしてきたらそろそろ退勤の時間だ。ここでも用意周到に、周囲にバッシングされることのないよう周囲よりお先に失礼しよう。
定時間前になったらそれとなく片付けをはじめ、鐘が鳴った瞬間帰宅できれば理想だがそれが出来る職場は稀。あまりにもすぐ帰り過ぎると暇だと思われる。暇だと思われると評価が下がるだけでは飽き足らず仕事を振られることとなり、それは恒常的な変化であるため本当に帰りたい時にも帰れなくなる! よって狙うのは定時間30分~1時間後(当然職場によりベストタイムは異なる)。やることがないから帰るのではなく、あくまでキリの良い所で帰るという演出をすること。帰宅の準備も最低限にし、業務終了後やれば良い。そして注意することとしては、過度な雑談や上司との余計な会話は慎むこと。自分一人早く帰るのは日本人的精神からするとやはり抵抗があり、気まずさのあまり周りとコミュニケーションをとろうとしてしまう所だが、話題が仕事から離れていってもいつ「これやって」となるかわからない。予定があって本当に帰りたいとき程不安になりやってしまいがちなことなのでこれだけは本当に注意して欲しい。過剰なコミュニケーションが必要な場合は、避けられない飲み会などで十分に楽しみ気を使い、その分濃密にこなせばよい。
最後に、ここまで述べてきた社会人の中での反社会人の立ち回りだが、一番重要なのは協調性を持ちつつキャラを認めさせてしまうこと。余計な障害を増やさないため、やはり集団の中で生活する以上集団と敵対してはいけない(敵対が目的の場合は好きにすれば良いが)。そしてその中で多数には紛れず、「あの人なら仕方がない」と思われるような存在になってしまえば自らを殺さず、背中が後ろ指で穴だらけになるような人格のまま仕事と私生活を両立できる日は近い!そしていつか君達と好き勝手にぐだぐだで豊かな社会で横になれる日を楽しみにしている。
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