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アサカツ 理論編

2010年12月5日発行 ロウドウジンVol.1 所収

 読者諸氏は「アサカツ」というものを知っているだろうか。芳文社から出ている萌え四コマまんが? 違う違う。じゃあ、「婚活」みたいなもの? なかなか良い線だ。悪くない。そう、アサカツとは「朝の活動」の略で、社会人たるもの早起きは三文の得とばかりにアサカツをすると良いらしい。誰が決めたのかは知らないが、どうやらそういうものらしいのだ(伝聞)。

 具体的には読書会やライフハック共有(手帳術とか時間整理術とか)であるようである。ここはひとつ「読書会」なるものについて考えてみたい。ではアサカツの読書会ではどのような本が課題図書として選択されているのだろうか?これは当然ではあるのだが、特に気をてらったりする必要はない。二〇一〇年の今であれば無難に「もしドラ」の通称でお馴染みの岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社)あたりで十分なのだ。必要十分なのだ。もうそこに言葉は要らないのだ。見つめ合うだけで良いのだ。だけど素直におしゃべりできないし、思い出はいつの日も雨。……いったい何の話をしているのだ?

 しかしただ「もしドラ」を読むだけではない。重要なのは朝にわざわざ読むことであるらしい。噂ではアサカツに一生懸命になってしまい、本業であるはずの会社に遅刻してしまううつけもいるそうだ。そのくらいの熱い情熱で取り組まなければ、世間の社会人サークルの皆々様に反社会人サークルの人間として面目が立たない。ただわれわれ反社会人サークルが社会人サークルではなく反社会人サークルである以上、普通に朝集まって「もしドラ」を読むだけではつまらない。

 ここでひとつの提案をしたい。英語で言うと「プロポーズしたい」。適齢期について想いを巡らせている反社会人サークル員のこころの叫びではない。大ヒット本が出ると雨後の筍のように登場するもの、それが駄洒落類似モノだ。特に「もしドラ」は「もしAがBだったら」という特徴的なタイトルや青空に制服姿の女子高生のイラストといった「類似」しやすい要素が少なくないため、テン年代の『チーズはどこへ消えた』状態になっているようだ。ざっと何冊か並べてみよう(参考:JCASTニュース「「もしドラ」類似本続々登場」)。

『金欠の高校生がバフェットから『お金持ちになる方法』を学んだら』(PHP研究所)
『もしリアルパンクロッカーが仏門に入ったら』(イカロス出版)
『もしONE PIECEファンの女子高生が起業したら』(イーグルパブリシング)
『もし無機物が人間になって恋をしたら」(リブレ出版)

 このようなパロディがお得意なのといえばやはりアダルト業界。さっそくアダルトビデオにも登場したそうだが……なんか直截的に卑猥なだけで面白くないので一部伏字にするが、そのタイトルは『もし高校野球の女子マネージャーがみんな健気な『○○○○』だったら』(井坂朋泰、DEEP’S、二〇一〇年)なるものらしい。要するにただの女子高生体育会系マネージャーものみたいです。なんかつまんないの、ふん。

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(左)原作 (右)AV版
2匹目のドゼウとばかりに類似本が出るのはヒット作品の証。この出版不況の中『もしドラ』は電子書籍版15万部とあわせて累計270万部を突破! そんな「もしドラ」パロディ本は本文中でも紹介したようにたくさんありますが、露骨な表紙パロディをやったのは、このアダルトビデオだけでした。次ページの座談会でも触れられていますが、細部までそっくりです。それにしても近年のアダルト業界のパロディに対するこだわりはすごいですね。TMA(トータルメディアエージェンシー)の諸作品も、もはやただの便乗ではなくファン作品のようです。AV版『もしけな(?)』ももしかしたら製作者が原作ファンなのかも……。

 せっかくだから「もしドラ」のパロディ本、できれば反社会人サークルらしく(?)えっちなやつを題材にアサカツ読書会を実施しようと思ったのだが、こんな感じでダメダメなのだ。どうすればよいだろうか。こういうときこそ「会議」かもしれない。会議の良いところは責任を分担するところにあるのだ。本企画が企画倒れしそうな現状において、この失敗が明日への一歩となるように「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」もとい「罪を憎んで人を憎まず」なのだ。ことわざには人類の残してきたすべてが詰まっているのだ。そして、このようなくだりをひとは「責任転嫁」というのだ。転がせ「俺の嫁」を(倒置法)。

 気をとりなおして、読書会で取り上げる本を選ぼう。もうよくわかんなくなってきたので、とりあえずブックオフに行ってきて官能小説でも買ってくるところからはじめたい。そう、実はお恥ずかしながら自分は官能小説というものを読んだことがないのだ。これでは社会人力が低いのも頷ける。反社会人サークルである以上、普通の社会人を超越していないといけないはずなのにこの体たらくである。大変申し訳ない。しかし「大変申し訳ない」などという文言は、実は社会人にとってはただの指の運動なのだ。ここだけの話、Google日本語入力やATOKなどの推測変換が搭載されたIMEを使用している社会人において、「お」と入力するだけで「お手数をおかけして大変申し訳ありませんが」が一発変換できるし、「な」を入力すると「何卒よろしくお願いします」と変換されるのだ。……嫌なIMEですね。だけど逆に考えると、そのような「社会人メール文例」みたいな辞書を作ったら売れるのではないだろううか? ……そんな風にすぐビジネスといえば聞こえが良いが、お金儲けの話ばかり考えてしまうのも、きわめて社会人的である。

 というわけでブックオフに行ってみた。だけど恥ずかしくて官能小説棚で品定めをすることができない! その前を行ったり来たりしながらそわそわしているわけだが、そんなことよりも二三時近くになるのに床に座り込んで『NARUTO』に読みふける推定十歳児の将来が気になって仕様がない。いったいどうなっているのだ、この子どもの親は。親の顔をみてみたいとはまさにこのようなことである。でもいざ親に遭遇したときに、様々な悲劇的可能性も考えられる。申し訳ないがそんなヘヴィなシチュエーションには耐えられない。そんなものに耐えられるなら、ブックオフで官能小説を買うことにこんなには躊躇しまい。うだうだうだ。……こんな風に社会人的な義憤に駆られているうちに『蛍の光』が流れてきて寒空の下に投げ出されて途方に暮れているなう(二〇一〇年ユーキャン新語・流行語大賞)。

2010年ユーキャン新語・流行語大賞
年間大賞     ゲゲゲの
トップテン   いい質問ですねぇ
トップテン   イクメン
トップテン   AKB48
トップテン   女子会
トップテン   脱小沢
トップテン   食べるラー油
トップテン   ととのいました
トップテン   ~なう
トップテン   無縁社会
出典:「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン新語・流行語大賞前 受賞記録(自由国民社)

 なんかもう面倒になってきた(読者のみなさん、ごめんなさい!)ので、「もしドラ」のパロディAVの無料ダイジェスト映像でお茶を濁そう。ここでは「お茶を濁す」なんてネガティヴなワードをアダプトしてルー大柴みたいな変な感じになっているが、シャンパンタワーにダイブしたいなあ(本音)。とまあ、社会人的な振る舞いとしては本音を隠し建前を強調し、そしてなにより重要なことはそのような振る舞いを意図的にしていることを悟られないようにスムーズな論理展開の中に溶け込ますことであったりするのだ。すなわち、この文章は意図的な論理的飛躍を多分に混入させて、中身がないのがばれないように(あっ)読者の興味もとい狂気を惹きつけている気になっているのだ。これは極めて構造的な問題である(適当)。

 というわけで、その翌日六時から某所に集まってパーティもといアサカツを実施した。以下にその顛末を記して、「アサカツ」の項は終わりとしたい。先に書いておくが、端的に失敗していると言えるだろう。何にだって? それはもちろん……人生に。

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