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反社会人アイドル探訪記 in 仙台:ゥ「働きたくないでござる」

2012年11月18日発行 ロウドウジンVol.5 所収

──今号のアイドルインタビューは、先日晴れて退職され、反社会人アイドルとしてキャリアを進めていくことになった「ゥさん」。シャバに出てこれたということで、おめでとうございます。

ありがとうございます。

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ゥさん(@crayfish0316
3月16日生まれ
宮城県出身

──いかにして反社会人になったのか、ということを解き明かしていきたいのだけど、まず、女子校出身だよね?

女子校10年です。中、高、大。大学の時は女子寮。そこは横浜の超山奥で。でも一番条件の良かった女子寮で、有刺鉄線が四方を囲んでる。バブルの頃にできた寮だから、部屋ごとに一台固定電話があって、春先になると変態さんから電話がかかってくる。

──固定電話だから同じ番号のまま新しい入寮者が毎年入ってくると。いいこと聞きましたね。

おまわりさーん!

──大学時代から反社会人の萌芽は出ていたのかな?

大勢の集団の中にいるのはキツいな、という。人の集団が20か30が限界みたいで、それ以上になると、どうしていいのかわかんなくなっちゃって。

宗教学が勉強したくて、本当は他の大学に行きたかったんですけど、見事に落ち、受かったのが女子大。浪人するって言ったら駄目って言われ、しぶしぶ入ってみたら、学級崩壊してて。ケータイカチカチカチ、机の上におやつバーッみたいな。先生の話も聞こえないくらいで、それがもう嫌で。

──就活はしたの?

しました。でも、ずっと心の奥底では「働きたくないでござる」が常に。どうすればいいんだ、大学院にいけば働かなくて済む、よーし、頑張るでござる。

──大学院では著名な某先生の研究室に所属したということだけど、やりたいことに近かったから?

卒論のテーマが比叡山の千日回峰行という修行。お坊さんが10日ずっと飲まず食わずで、延々と真言を唱えながらお堂の中を歩く行があって、そのお寺に実際行ったり、一緒に回らせてもらった。例えば落ち込み気味の人は背筋が曲がって、自信のある人は背筋が伸びるみたいに、修行って身体の形を整えることで精神状態を整った方向に引っ張っていこうって所があって、これ面白い、こういうのを受け入れてくれる先生どこにいるんだろうと思って、学部の時の先生に話したら、某先生を教えてもらって、公開講座に行って、飲み会出て「受けたいんです!」って。その年、私しか志望者がいなかったらしく、受かっちゃったんです。

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──しかし、院に入ってから某先生の本性がわかり……。

某先生は常に自分がチヤホヤされてないと嫌なタイプの人で、その日のご機嫌でゼミの内容が全然変わる。ご機嫌良いときは「うん、このテーマ面白いんじゃない?」みたいなこと言うんだけど、ご機嫌悪いと、「大学院生としてそれはどうなんだ、読みが足りないんじゃないか」とお説教タイムになったり。

講演や講義で熱狂的なファンを作るのが上手な先生だったので、学生たちから持ち上げられるのに慣れちゃってて。それに、授業のある日しか学校来なくって、その他は全部講演会とか行っちゃうから、指導とか、文献の指定とかもなく。だから修士1年の前期は、他の研究室の院生のみんなと一緒に遊んでたり、ニコニコを観てたり、普通に単位取るために講義。このままでいいのかな、修論どうなるのかな、と考えながら。

──でも、学校行けば楽しい、みたいな。

昼の11時前に院生室行くと、ドクターの人が、『暴れん坊将軍』を観てて、「ゥさん、今日も良い成敗が始まりそうです」「いいっすね」という。2人で『暴れん坊将軍』の上様が悪者をやっつけるのを観て、気づいたらいつの間にか『ドラえもん』観よ~とかなってる。「あれ」って。

──気がつくと、修論どうしようと。

このやり方で合ってんのかな、これ修論としてやってけるレベルの話なのかとか、すごい不安で、でも先生いないし。

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で、ゼミ旅行で、某先生と私を含めた4人で海外行ったんですよ。で、全員で酒を飲み過ぎて、男同士、女同士でチューしてハグしてチュッチュハグハグの嵐になった時があり、そこから全てがおかしくなり、日本帰ってきて、某先生と一緒に電車乗ってて、「ゥ、このままホテル行かない?」って言われて、「いやいやいやいや」と断って、「おっかしいなあ」「困ったなー」と思って。それから、夜、何も用がないのに電話かかってきたり、院生室に一人で居た時に、たまたま某先生が学校来てて、「ゥ、ちょっと部屋で話しよ」って呼ばれて行って、延々「ゥは~、なんかね、ごく普通なんだけど、魅力があるよね~」とか言われて。

──口説きなのかな、それ。

頭の中ではてなマークが飛んでて、「ゥ可愛いよ~」って抱きつかれて、チューされそうになって、そこは逃げたんだけど……。

──この本、大学にも献本していいかな。

いやいやいや。

──それからも断続的に謎のアプローチみたいなのが?

さすがにまずいと思って、周りの人に相談して、そしたらOGの先輩から「あー某先生ねー情緒不安定なんだと思う」って言われて。何か、前任の大学を辞める直前の時は、一番目の奥さんと離婚のすったもんだがあって、その時学生と不倫してたと。

──前科があったと。

そうそう。前科持ち。その後専攻長に相談して、専攻内では対処してもらえたんだけど、それ以上の処分は求めなかった。申し立てするかどうか訊かれたんだけど、もうその時結構精神的に追い詰められて、就活もしなきゃだし修論もどうにかしなきゃだし。ていうかもう大学院辞めた方が良いのかな、うわあどうしよう。

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でもとりあえず残ることにはして、ちょうど現代美術の方向にも興味があって、オルランっていう自分の整形手術を全世界実況中継をしてる人みたいな、体使ったメディアアートやる人は多いから、「おお、面白そう」って思って、美術系の先生の研究室になんとか移ることができました。

──某先生からその後、謝罪とかあった?

一応よれよれの封筒に入った、申し訳ございませんでした的な文は貰ったけど、気持ち悪くて捨てて。

──知り合いの父親も大学の教授で、学生と不倫して親は離婚してる。別の知り合いの父親も東大の教授だけど、学生と浮気して離婚して再婚してさらに浮気中。

クズですね。

──そういうのクズじゃなくて、反社会人と呼んでるんです。ちなみに某先生って子供いる?

いるよ。現妻との間に三人娘が。

──将来メンヘラになるんじゃない?

絶対なると思う。

──娘に生まれたんだから、20歳くらいになったらインタビューに答えてくれるかもしれない。ロウドウジン40号(笑)……それで、修論は新しい研究室で滞りなく?

超面倒見の良い先生で、文献の読み方から作品の見方から、すごい丁寧に指導してくださって、研究室はホント移って大正解で。

でもとりあえずごたごたの処理で、結構ぐわんぐわん頭がきてて。友だちのダブル不倫に巻き込まれて、某先生のことが同時進行にあって、腹が立って、髪の毛ざっくり短くしたりとか。

──もう女は辞めようみたいな。

そうそう。そんな感じでざくっと切って、就活。働きたくないけど、なんとなく就活してたら内定もらっちゃって、内定者懇親会に出た瞬間に、うわダメだぜってえ合わねえ、やべえリア充だらけだよココ、って思って。

──で、結局合わなかった。

合わなかったですね……。全然理数系ダメで、コードもろくに書けないけど、ガジェットいじったりは好きだし、プロジェクトマネジメントとかファシリテーションとかも面白そうだなとか、そっち系でいけたらいいなと入ったんですが、最初の技術研修で、クラス別に分けられて、上のクラスの奴らから「お前なんでそんなこともできねーんだよ」って。

──出来る人が多かったんだ?

出来る人はそんなに多くは……情報系の専攻の人は四分の一くらい。でも、みんな、理屈が分からなくてもとりあえず教科書を丸暗記して覚えるタイプの人が多かったみたいで、それでテストの点はみんなどんどん取れてて、でも実際システム開発演習になると、組めない。でも、うまく男子に媚を売れる女子が、やっぱ可愛がられるわけで、私そういうの出来なかったし。

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あと、最初についた先輩が、後輩クラッシャーで、私の前に二人クラッシュさせてて。で、半年後に「お前技術も何も中途半端だから、仙台帰って主婦にでもなれば」ってプゲラされて、さすがにその後ばーって泣いて、「もう限界です」って他の先輩に言ったら、「やっぱりか~」って。なにその反応!っていう。

──ひどい(笑)

分かってたのかよ、先に言えよっていう。で、配置換えにはなったんだけど、もうその頃には心身共に弱ってて、火の手が上がり始めたところにポンって入ったら、残業が100時間超えたりして半年持たなかった。男の人と基本的に体力が違うのに、追いつこうとしちゃ無茶だったんだなあと今は思ってる。

──そして休職の後、退職、反社会人アイドルに至るわけだけど、将来の夢は?

働きたくないでござる。最近、phaさんの『ニートの歩き方』を読んで、ニートに必要なのは居候力、家事力、料理とか、ということなので、よしニートになろう、と。

──直近の目標とかあったりする? 目標がなければ予想とか。

このまま行くと、とりあえず家事手伝いでしょ。あとオーケストラのエキストラの話頂いたりしつつ、来年あたりもうちょっと体力ついたら見合いが来そうな。

──フリーライターとかどうかなあ。体力なくても出来そうなのは詩とか。現代詩。

あ、思い出した。十年前に、中二病をまさにこじらせていた時期に、ユリイカにうっかり載ったことがある。本当に中二の時でしたね。

──それはすごい。今はもう投稿しようとか思わないの?

あれはホント偶然の産物だったので。載ったら、「この歳でこんなのが書けるなんて面白い」というコメント付きで……。

──今の生活はどんな感じ?

日々、猫の世話をし、カジテツして、楽器弾いて、近所にちびっ子がいっぱい居て、暑い時期は水撒いてる下をダァーってチャリンコライダー達が通っていったりとか、非常に平和なんですよね。あと必死で庭のどくだみを全部抜く。

──これが反社会人の生活だ。

超平和ですよ本当に。朝起きて、お母さんが朝ごはん作っていて、猫が「朝飯、朝飯」って鳴いて、朝ご飯をはなまるマーケットを観ながら食べて、父ちゃんが出かけの、私は食器洗って、その後新聞読んだりしつつ、いいともが始まり。

庭のどくだみは、農家のおばちゃんハットをかぶり、完全武装して昼間に根詰めてクワ持って、根っこ掘って根こそぎ。結構広いっすよ、庭。お母さんが好きで。

あとこれうちの猫。猫かわいい。

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にゃ~。

そういえば、人生に「うわぁぁ」ってなってたときに、占い師さんのところに行ったら、「あなた、無理して働かなくていいみたいよ」と手相見て言われてしまいました。

──占い師はさすがだよね(笑)

「あなたは29で出会って、32で結婚して、そのあと子どもが生まれたら、すごい子育てを頑張るみたいだから、無理に『仕事が仕事が……』って考えなくていいわよ」って、言われてしまい。どうなんですかね~。

──絶対、人相だよね。占い師って基本的に相手が言って欲しいことを言うのが仕事だから、それを探るには、顔を見るしかない。

そんなに結婚したそうな顔してたんですかねー。それとも「働きたくない顔」? 今日の写真とか、就活中の学生が見たら、呪いがかかるんじゃないですか(笑)

──いいんじゃない? だいたい文フリに来てまともな就職する奴なんていない(笑)

2012年10月13日 杜の菓匠 玉澤総本店 一番町店にて

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ロケ地 せんだいメディアテーク
世界的な建築家である伊東豊雄が設計した複合施設。造船技術を応用したチューブ状の柱によるダイナミックな空間は、日本各地の建築家を目指す学生ホイホイとしても機能している。(文責:弁当丸)

Photography by @2tar(猫を除く)
Interviewed by @noir_k, @2tar, @Nerd_Arthur
Special Thanks to smt

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