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自分探しの旅⑤

子どもの頃からお菓子作りが好きだった。
特に焼き菓子。
火を通す前はフニャフニャ、トロトロ頼りなさげな生地が、オーブンの中で膨らんだり焦げ目がついたり美しく姿を変えていくところ。
部屋中に甘く芳ばしい匂いが広がるところ。
そして、出来立ての美味しいところを一番乗りで試食できるところ。
お皿にきれいに並べて眺めたり、可愛くラッピングするのも好きだった。

社会人になって一人暮らしを始めてからも、狭いキッチンと小さなオーブンレンジを駆使して、クッキーやブラウニー、チーズケーキ、スコーン、たまにパンを焼いたりもしていた。
そして、出来上がりを誰かとシェアする。
遊びに来てくれた友達に振る舞ったり、職場の人に配ったり。
喜んでもらえると嬉しいし、何より作ること自体を楽しんでいたように思う。

今でも時々、簡単なものを作っておやつやデザートに食べたりしているけど、何かが違う。
メインは自分のお腹と甘いモノが食べたい欲を満たすためで、日々のごはん支度の延長みたいな感じ。
とにかく楽して早く食べたいから、家にあるモノでパパっと簡単にできるレシピばかり。

例えば以前はこうだった。
誰かのためにケーキを焼こうと決めた時から特別な時間が始まる。
お気に入りのレシピ本を開いて、どれにしようかなと考える。
買い物に行く。
普段は大雑把な私も、この時ばかりは材料をきっちり揃えて、レシピに忠実に作る。
雑念が入ると焼き上がりに響くので、慎重に。
手早く仕上げてオーブンに入れたら、ほっと一息。

今思えば、心を整える時間だったのだと思う。
そんな時間を、今の私は求めている。
日々の雑事から離れて、目の前のことだけを見つめる時間を。


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