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まちカドまぞく ヨシュアの正体についての考察

この記事は2020/8/28時点での最新話(まんがタイムきららキャラット2020年10月号)までのネタバレを含む可能性があります。

はじめに

まちカドまぞくの主人公・シャドウミストレス優子(シャミ子)の父親であり魔族であるヨシュア。彼は原作2巻でその存在が明かされるも詳細は不明である。分かっている点を列挙すると、闇の一族(魔族)であること、リリスの末裔であること、ヨシュアという名前、とんでもない若作りなこと。

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「ヨシュア」という名前だが、これはヘブライ語に由来する。ヘブライ語表記すると יְהוֹשֻׁעַとなり、これは「יהוהが救う」ことを意味する(יהוהとは神聖四文字のことで、ユダヤ・キリスト・イスラム教における唯一神ヤハウェを表す。すなわち「神が救う」という意味)。妻・清子が言う通り、「昔のメソポタにはよくいた名前」だそうなので、出身地であるメソポタでそう呼ばれていたことは不思議でない。しかし、リリスの末裔の魔族には似つかわしくない、明らかに光の一族寄りの名前だ。世界観の設定や伏線にとても深いこだわりのある同作品で、このような矛盾に意味がないはずがない。

さらにもう一つ、彼は「アロンの杖」を受け継いでいる。アロンの杖とは、旧約聖書「出エジプト記」第4章より言及される、神の力を備えた不思議な杖である。作中では「なんとかの杖」と称されるが、この記事ではこれがアロンの杖を指すことは疑いないものとする。

なぜ魔族であるヨシュア(以下父ヨシュア)が、ヨシュアなどという光の一族らしき名前を持ち、アロンの杖という神のマジックアイテムを受け継いでいるのか?これが本記事で言及する中心的な議題である。

父ヨシュアの正体を探る鍵は、やはり旧約聖書にあると考えられる。

結論を先に述べると、まちカドまぞくの父ヨシュアは旧約聖書『出エジプト記』『ヨシュア記』に登場するヨシュアと同一人物なのではないかということだ。

旧約聖書概説

最初に旧約聖書について簡単に説明する。詳しいことを知りたい人はウィキペディアへ。

旧約聖書は、ユダヤ教およびキリスト教の正典である。(宗教・宗派によって異なるが)およそ39冊の書物で構成されており、順番にモーセ五書、歴史書、詩書、三大預言書、小預言書に分類される。宗教・宗派によって具体的にどの書物が経典とみなされるかはまちまちだが、最初のモーセ五書が最も重要である点は変わらない。モーセ五書では神ヤハウェによる天地創世から、イスラエル民族の起源、エジプトで虐げられたイスラエルの諸民族を導き約束の地カナンへと赴くモーセへの啓示、そしてモーセの死までが描かれる。モーセ五書の構成は
・創世記
出エジプト記
・レビ記
民数記
申命記
の5つであり、これにイスラエル王国の歴史を描いた「歴史書」が続く。その歴史書の第一冊目が『ヨシュア記』である。

以上が今回の議題と関連する旧約聖書に関する説明である。まちカドまぞくの父ヨシュアと同名の「ヨシュア」(以後聖書ヨシュア)、およびアロンの杖が登場する書物は太字で示した。

旧約聖書『出エジプト記』

時系列的な初出は『民数記』である。モーセは、イスラエル民族の祖ヤコブ(イスラエル)から別れた12の支族からそれぞれ従者を選び、その中でも特にエフライム族の末裔を選びヨシュアと名付けた。

主はモーセに言われた、 「人をつかわして、わたしがイスラエルの人々に与えるカナンの地を探らせなさい。すなわち、その父祖の部族ごとに、すべて彼らのうちのつかさたる者ひとりずつをつかわしなさい」。(中略)エフライムの部族ではヌンの子ホセア、(中略) 以上はモーセがその地を探らせるためにつかわした人々の名である。そしてモーセはヌンの子ホセアをヨシュアと名づけた。(民数記13:1-16)

『出エジプト記』でモーセはエジプトで虐げられていたイスラエルの12支族を率いて約束の地カナンへと赴くように神から命令される。それにあたり、エジプトの王パロへ自分たちが神に祝福された民族であることを証明する必要があった。

モーセは言った、「しかし、彼らはわたしを信ぜず、またわたしの声に聞き従わないで言うでしょう、『主はあなたに現れなかった』と」。 主は彼に言われた、「あなたの手にあるそれは何か」。彼は言った、「つえです」。 また言われた、「それを地に投げなさい」。彼がそれを地に投げると、へびになったので、モーセはその前から身を避けた。 主はモーセに言われた、「あなたの手を伸ばして、その尾を取りなさい。――そこで手を伸ばしてそれを取ると、手のなかでつえとなった。―― これは、彼らの先祖たちの神、アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である主が、あなたに現れたのを、彼らに信じさせるためである」。(出エジプト記4:1-5)

要約すると神は、モーセとその兄アロンに蛇に変形できる不思議な杖を与え、これを使ってエジプトを脱出しろと命令を下した。アロンはこの杖を使い、エジプトに10の災厄を引き起こすことでエジプト王パロに自分たちが神に祝福された存在であることを認めさせた。
出国後もエジプト王に軍勢を差し向けられる等、その旅の前途は多難であったが、モーセ達はこの杖を使いエジプトを脱出した(有名な海を割るエピソードもここ)。ヨシュアも従者としてモーセに付き従い、敵を打ち破っている(出エジプト記17章)その後シナイ山へたどり着き、神より「十戒」を授けられた。

1.わたしのほかに神があってはならない。
2.あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない。
3.主の日を心にとどめ、これを聖とせよ。
4.あなたの父母を敬え。
5.殺してはならない。
6.姦淫してはならない。
7.盗んではならない。
8.隣人に関して偽証してはならない。
9.隣人の妻を欲してはならない。
10.隣人の財産を欲してはならない。

清子の「『隣人とは分かち合え』的なこと」とは十戒に関連する?また、これとは別に『レビ記』第19章においても神はモーセ達に隣人愛を説いている。

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ちなみに十戒の石版とアロンの杖はもう一つのマジックアイテムであるマナの壺とともに箱(契約の箱)に収められている。

その時、主はわたしに言われた、『おまえは、前のような石の板二枚を切って作り、山に登って、わたしのもとにきなさい。また木の箱一つを作りなさい。 さきにおまえが砕いた二枚の板に書いてあった言葉を、わたしはその板に書きしるそう。おまえはそれをその箱におさめなければならない』。 そこでわたしはアカシヤ材の箱一つを作り、また前のような石の板二枚を切って作り、その二枚の板を手に持って山に登った。 主はかつて、かの集会の日に山で火の中からあなたがたに告げられた十誡を書きしるされたように、その板に書きしるし、それを主はわたしに授けられた。 それでわたしは身をめぐらして山から降り、その板を、わたしが作った箱におさめた。今なおその中にある。主がわたしに命じられたとおりである。(申命記10:1-5)
主はモーセに言われた、「アロンのつえを、あかしの箱の前に持ち帰り、そこに保存して、そむく者どものために、しるしとしなさい。こうして、彼らのわたしに対するつぶやきをやめさせ、彼らの死ぬのをまぬかれさせなければならない」。 モーセはそのようにして、主が彼に命じられたとおりに行った。(申命記17:10-11)
イスラエルの家はその物の名をマナと呼んだ。それはコエンドロの実のようで白く、その味は蜜を入れたせんべいのようであった。(中略)そしてモーセはアロンに言った「一つのつぼを取り、マナ一オメルをその中に入れ、それを主の前に置いて、子孫のためにたくわえなさい」。 そこで主がモーセに命じられたように、アロンはそれをあかしの箱の前に置いてたくわえた。 (出エジプト記16:31-34)

従者であり後継者である聖書ヨシュアもこの箱を受け継いでいる可能性が高い。

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「例の壺」とはマナの壺?箱と杖はそれぞれ契約の箱とアロンの杖?(きららキャラット2019年10月号)

旧約聖書『ヨシュア記』

モーセはカナンの地を征服することなく一生を終えた。その後、神は後継者として聖書ヨシュアを指名した。

主のしもべモーセが死んだ後、主はモーセの従者、ヌンの子ヨシュアに言われた、 「わたしのしもべモーセは死んだ。それゆえ、今あなたと、このすべての民とは、共に立って、このヨルダンを渡り、わたしがイスラエルの人々に与える地に行きなさい。(ヨシュア記1:1-2)

ヨシュア記ではその後、聖書ヨシュアが武力によりカナンの地を征服し、それぞれの支族に分配したエピソードが記載される。

こうしてヨシュアはその地を、ことごとく取った。すべて主がモーセに告げられたとおりである。そしてヨシュアはイスラエルの部族にそれぞれの分を与えて、嗣業とさせた。こうしてその地に戦争はやんだ。(ヨシュア記11:23)

その後、ヨシュア記の物語は聖書ヨシュアの死で幕を閉じる。

【考察】まちカドまぞくの父ヨシュアと聖書ヨシュアの共通点および矛盾点

ここで、父ヨシュアと聖書ヨシュアが同一人物であるという仮説を立てる。

父ヨシュアと聖書ヨシュアの二人は名前だけではなく、おそらくアロンの杖を受け継いでいるという点、「隣人と分かち合え的なこと」を言っていたという点で共通する。

ところが、これ以外のほとんどすべての点が矛盾している。聖書ヨシュアは神に祝福された存在で、闇の一族の始祖リリスの影は全く見えない点。魔族の直系でないと使えないとまちカドまぞく作中で言及されるアロンの杖を、モーセ・アロン・聖書ヨシュアが使っている点。そもそも聖書ヨシュアは物語中で死んでいる点。

これらの矛盾を部分的に解決できる文書として、ベン・シラのアルファベットと呼ばれる物がある。

【考察】ベン・シラのアルファベット

まちカドまぞくとベン・シラのアルファベットの関係については、先に考察されていた方がいらっしゃったので引用させていただく。
https://note.com/ilapaj/n/n9aa7f08ff7de
ざっくり説明すると、神は最初の人間として男だけでなく同時に女も創っており、それはアダムとリリスであるという説である。リリスはアダムの妻となったが、悪女であり、性について奔放で、様々な悪魔の祖となった。

つまり、魔族の始祖であるリリスの子の血がどこかのタイミングで『創世記』のイスラエル民族の系譜に混ざり込んだためにモーセもアロンもヨシュアも魔族として覚醒し、アロンの杖を神(?)から渡された、もしくは創ったかをして旧約聖書にあるようにイスラエルの民族を導いた。
矛盾点を解消できるように作ったストーリーを以下に示す。

①神はまずアダムとリリスを土から作った
②リリスは魔力的な力で魂的なものを育むことで大量の魔族の祖先を産んだ
③神は怒り、リリスを排斥し(封印し)アダムの肋骨からイブを生み出し与えた。(光と闇のウォーズ?)
④少なくともヤコブ(イスラエル)以前に魔族と光の一族(ノアの末裔)と混血が発生(アブラハムは99歳で、アブラハムの異母妹かつ妻のサライが90歳で息子イサクを産んでいるので、2人とも「とんでもなく若作り」の可能性あり。ということはアブラハムの父テラもすでに魔族の血が入っていた?)、ごせん像も受け継がれる
⑤イスラエルの息子ヨセフが魔族として覚醒(祝福?)し、夢で予言を行う能力を獲得。その能力で未来を予言したために兄弟達から恨まれ、ごせん像を携えてエジプトへ逃げる。エジプトで夢解きを行い名声を得、イスラエル人をエジプトへ呼び寄せる
⑥ヨセフの死後イスラエル人が虐げられる
⑦イスラエルの息子レビ(ヨセフとは異母兄弟)の末裔であるモーセ、アロンが魔族として覚醒。アロンがアロンの杖を手に入れ、モーセはイスラエルの一族を引き連れ出エジプトを行う
⑧モーセはカナン征服の前に死亡する。その時後継者として選ばれたのがヨシュア(前述のヨセフの末裔で魔族)。ヨシュアはアロンの杖を受け継ぐ。カナンを征服する。
⑨なんやかんやあって(←ここ謎、後で考察する)ヨシュアは逃げに逃げて日本へ。清子と結婚しシャミ子を産む

上記のストーリーでは、光の一族と闇の一族の区別がはっきりしていないことが分かる。リリスが5000年ほど前に封印されるまで光と闇の戦いがあったと原作中で言及されていたが、その後は光の一族と闇の一族は同化していたのかもしれない。この時期は一神教としてのユダヤ教は成立しておらず、多神教のメソポタミア神話の影響を強く受けているため、魔族であっても信仰を獲得していた可能性がある。闇のパワーであっても使えるものは何でも使う派。
また、上記ストーリーにあるようにイスラエルの子ヨセフは「夢解き」を行ったことでエジプト王に重用された人物である。これも魔族としてのリリスの能力を有効に使った例である可能性がある。

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一方で、約2000年ほど前からリリスの魔力が弱まったと言及がある

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これはもしかすると、キリスト教の成立と普及に伴う変化かもしれない。ユダヤ教含む唯一神教は善悪二元論と相性がよく、「光の一族の定めし世界の矩から外れたもの」として魔族を悪として排斥したために、信仰が薄れリリスの魔力も弱まった可能性がある。

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そのため、ヨシュアは(死んだのではなく)ごせん像を携えて多神教の残る日本まで逃げてきた、と考えると筋が通る。

結論・まとめ

父ヨシュアを聖書ヨシュアと比定することで、冒頭の疑問(なぜ魔族であるヨシュアが、ヨシュアなどという光の一族らしき名前を持ち、アロンの杖という神のマジックアイテムを受け継いでいるのか?)は一応の解決を見る。一方で、いろいろと妄想でストーリーを補わないと矛盾点が解消されない。かなり苦しいが今の所これを超えるヨシュアの正体に関する説明ができないと思う。

おまけ?

ヨシュアの名前יְהוֹשֻׁעַをギリシア語表記するとΊησοῦς、日本語発音に近似すると"イエースース"となる。すなわち、キリスト教における救世主ナザレのイエス(イエス=キリスト)と同じ名前なのである。
もちろんこれだけを理由に父ヨシュアをナザレのイエスと比定するのは無理があるが…その場合の矛盾点を解消したストーリーも妄想したのでメモしておく。

①マリア(リリスの末裔で魔族)とヨセフ(モーセの後継者の末裔でアロンの杖を受け継ぐ)が結婚
②マリアは魔族でありながら天使ガブリエルと契約し魔法少女に(①と②は順不同)
③その後魔力的な何かで魔力的な子供を生む(魂のママ=処女懐胎)、それがヨシュア
④ヨシュアは父ヨセフからアロンの杖を受け継ぐ
⑤ヨシュアはキリスト教の原型となる教えを解くも、異端として迫害されるなど何らかの理由で逃亡し(聖書では磔にされる)、日本の多魔市に行き着く
⑥清子と結婚しシャミ子が生まれる

この場合、モーセ・アロン・聖書ヨシュアを光の一族として、マリアの先祖を魔族として対比しやすくなる。一方で、『歴代志下』5:10に言及があるように、イスラエル王国のソロモン王の時代ですでに契約の箱の中には十戒の石版以外のものは失われていたとある。これはヨセフがアロンの杖を受け継いでいることに矛盾する。

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