七つの夜 真夜中の焙煎機ー11

あれはいつだったか忘れたけど、随分と昔の事のようです。私は当時、東京へ月に一度通っていて、深夜バスの停留所に着いて、さあこれから出かけようとしていたら、前の御婦人がなにやら探し物。あれこれ無いと言いながら重い荷物をひきづっていた。

私は思わず荷物を持って、お運びしますよと言うと、

呆気に取られた様子でいそいそと着いて来る。

駅までで良いですか?と尋ねたら折角なのでお茶にしましょうと開いている喫茶店へ引きづられていった。

御婦人は若い人も連れていたけど、殆ど口を開かない。

聞けば、お茶会の為に上京したのが、手違いでバスに乗ることになった。お茶道具は他のお弟子さんか運んでくれるので助かったが、これだけは自分で運びたかったと大きな荷物を指さしていった。

もし良かったら明日 お茶があるのでいらっしゃいと誘われたのですが、

丁度予定があったので丁寧にお断りしてして、

連絡先だけいただきました。

夜明けの苦いコーヒーを飲みながらその時の事が

懐かしく、「おおきに」と言って去って行った御婦人の

言葉の響きが懐かしい。


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