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それぞれの過ごし方〜『クリスマスのその夜に』

クリスマスは、いうまでなく世界中の誰もが祝う日ではありません。イスラームや仏教には何の意味もない日です。それゆえ、欧米では公共の場所におけるその日の挨拶として「メリー・クリスマス!」に代えて「ハッピー・ホリデー!」という人が増えてきたようです。

ドナルド・トランプの米大統領選勝利に際して、そのような多様な人々に気を使わなくてはならない「ポリティカル・コレクトネス(PC)」に疲れた人々が彼に支持を与えた、という怪しげな分析がメディア上を賑わしたことは記憶に新しいところです。

『クリスマスのその夜に』は2010年に製作された映画ですが、トランプ時代を迎えた今、あらためてPCについて再考するという意味でも示唆に富む作品ではないかと思います。

本作ではノルウェーの小さな街で繰り広げられるクリスマス・イヴの一夜の人間模様を描きます。題材的にも形式的にもありふれた群像劇ではありますが、クリスマスを祝わないイスラームの女の子やコソボから逃れてきたカップルの挿話を織り込んで、世界の多様なありようを垣間見せる内容は、これまでのハリウッドが軽視してきた視点を提起しているといえましょう。

ベント・ハーメル監督のユーモアを含んだ優しい眼差しが、北欧の冬の夜を、そして観る者の心をほっこりと温めてくれる。そんな映画です。

*『クリスマスのその夜に』
監督:ベント・ハーメル
出演:トロン・ファウサ・アウルヴォーグ、フリチョフ・ソーハイム
映画公開:2010年(日本公開:2011年12月)
DVD販売元:角川書店

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