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コンピュータと人間の経験〜『ハドソン川の奇跡』

「ハドソン川の奇跡」のニュースは私にも記憶が残っています。ただその後に「機長の判断と行動は無謀だったのでは?」との観点から国家運輸安全委員会の厳しい追及を受けたことまでは知りませんでした。クリント・イーストウッドも、そうした後日談がなければ映画化することもなかったでしょう。かくして本作は単なる機長の武勇伝としてだけでなく、その後に続く人間ドラマにも熱い視線が注がれることとなりました。

本作では一見すると、無機的なコンピュータ・シミュレーションと経験に基づく人間的なノウハウの対立が描かれているようにも見えます。あらゆる出来事(の検証)は、データ化も言語化も容易でない人間的なファクター抜きに考えられないのではないか、という人間的な問いかけにコンピュータは何と答えるのか……?

バードストライクからハドソン川に不時着するまでの208秒間の描写は映画ならではのスリルと緊迫感にあふれています。不時着した旅客機の周囲に、フェリーや市警のヘリが救助のため素早く集まってくる場面は理屈抜きに感動的。一世一代の決断をした機長との交信が途絶えても、あきらめず対話を続けようとした若い管制官の姿もまた。

空を飛ぶのもそれらを統制することも科学技術抜きにはありえないけれど、人間の心を幻滅させるのも感動させるのも、その出来事を作り出すのはひとえに人間の振る舞いにあるといえば陳腐にすぎるでしょうか。

イーストウッドは本物のエアバスを購入したほか、救出に関わった当時の関係者を本人役で多数キャスティングしました。映画作りにかけるイーストウッドの並々ならぬ情熱は画面にはっきりと定着されていると思いました。

*『ハドソン川の奇跡』
監督:クリント・イーストウッド
出演:トム・ハンクス、アーロン・エッカート
映画公開:2016年9月(日本公開:2016年9月)
DVD販売元:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント

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