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本読みの記録(2019)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2019年刊行の書籍。
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#ちくま新書

中立機関による公文書管理の徹底を〜『官僚制と公文書』

◆新藤宗幸著『官僚制と公文書 改竄、捏造、忖度の背景』 出版社:筑摩書房 発売時期:2019年5月 公文書の改竄や捏造、隠蔽など官僚が関与した不法・不正行為が目立つようになってきました。かつては出来の悪い政治家を優秀な官僚たちがカバーし「官僚内閣制」とまで言われたこともあったのに、官僚の世界は一体どうなってしまったのか。そのような疑問を国民の多くは感じ始めているのではないでしょうか。その意味ではまことにタイムリーな本です。 昨今顕在化している官僚たちの破廉恥な行為は、何よ

主権者として思考するための〜『感情天皇論』

◆大塚英志著『感情天皇論 』 出版社:筑摩書房 発売時期:2019年4月 天皇について考えることを日本人はサボタージュしてきた。思考する代わりに感情の共感をもってやり過ごす。これが明仁天皇の「お気持ち」発言以降の国民の処し方だった……。 冒頭で核心的な認識が提示されます。もちろん大塚英志は本書を通して自己批判を混じえつつそのことを厳しく糾弾することになります。 感情労働。近年、社会学で提唱されている新しい概念ですが、大塚は明仁天皇にそれを見出します。これはなかなかの卓見で

戦後日本のモデルが崩壊した時代!?〜『平成史講義』

◆吉見俊哉編『平成史講義』 出版社:筑摩書房 発売時期:2019年2月 平成とはいかなる時代であったのでしょうか。本書では、天皇、政治家、官僚、企業と従業員、若者たち、対抗的勢力、メディア、中間層といった様々な歴史の主体のパフォーマンスを検証していきます。その作業をもって平成という時代の複合的な姿を浮かび上がらせようとする試みです。 寄稿者は、野中尚人・金井利之・石水喜夫・本田由紀・音好宏・北田暁大・新倉貴仁・佐道明宏。前後に編者の吉見俊哉の文章を配して挟みこむ形になって