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本読みの記録(2019)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2019年刊行の書籍。
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2019年5月の記事一覧

家族関係にもきめ細かいメンテナンスを〜『子育てが終わらない』

◆小島貴子、斎藤環著『子育てが終わらない 「30歳成人」時代の家族論 新装版』 出版社:青土社 発売時期:2019年2月 本書刊行後の2019年3月、内閣府は40〜64歳の「ひきこもり」が全国で61万人いるという推計値を公表しました。「ひきこもりは若者特有の現象ではない」ことがあらためてお役所的にも確認されたわけです。ひきこもりの長期化・高齢化は今や深刻な社会問題といえるでしょう。 行政や教育の現場で就労困難な人々の支援活動を行なってきた小島貴子。「社会的ひきこもり」を日

政治学者と作家の異色の対談〜『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』

◆原武史、三浦しおん著『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』 出版社:KADOKAWA 発売時期:2019年2月 天皇制の研究で知られ、同時に「鉄学者」としての一面ももつ原武史が作家の三浦しをんと対話を交わした記録です。天皇制という日本政治の根幹に関わる論題がメインになっていますが、全体をとおしてリラックスした雰囲気で話は進みます。三浦はもっぱら聞き役に徹して、原の事細かな知見を引き出しながら、随所で巧みに絡んで面白い対談集に仕立てています。 対話の多くが皇室論に費やされて

諧謔精神に満ちた著者初めての小説〜『すべての鳥を放つ』

◆四方田犬彦著『すべての鳥を放つ』 出版社:新潮社 発売時期:2019年1月 四方田犬彦初めての小説作品。第一作とはいえこれまで多くの著作を物してきた四方田のこと、様々な仕掛けとヒューモアを盛り込んで、堂に入った作品に仕上げています。 主人公が山陰地方から東京の一流大学(作中では東都大学となっている)に入学する──という設定には漱石の『三四郎』を想起する読者も少なくないかもしれません。 もっとも1972年から説き起こされているので、主人公・瀬能明生の身にふりかかる出来事