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本読みの記録(2019)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2019年刊行の書籍。
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2019年4月の記事一覧

「楽問」としてのサイエンス〜『35の名著でたどる科学史』

◆小山慶太著『35の名著でたどる科学史 科学者はいかに世界を綴ったか』 出版社:丸善出版 発売時期:2019年2月 自然科学の本は文系人間には時に取っ付きにくい感じがするものですが、本書は何よりもコンセプトがいい。科学の歴史に刻まれた名著をピックアップして、簡明に科学史的な位置づけを解説していくというシンプルな作りが好ましい。 科学の転換点と言われる16~17世紀の「宇宙と光と革命の始まり」から説き起こされます。バターフィールドの『近代科学の誕生』、コペルニクスの『天球の

主権者の作法を身につけるために〜『ハッキリ言わせていただきます!』

◆前川喜平、谷口真由美著『ハッキリ言わせていただきます! 黙って見過ごすわけにはいかない日本の問題』 出版社:集英社 発売時期:2019年2月 前川喜平は文科事務次官を退官後はすっかりマスコミの寵児になりました。文部科学省のこれまでの政策と現在の前川の発言に齟齬を感じることもなくはないのですが、退官後の発言だけを読めばなるほど真っ当なものが多いと思います。本書は全日本おばちゃん党代表代行で大阪国際大学准教授の谷口真由美との対談集。 現在の教育全般に対する批判や注文、ラグビ

〈集合的無意識〉の表現〜『あの人に会いに』

◆穂村弘著『あの人に会いに 穂村弘対談集』 出版社:毎日新聞出版 発売時期:2019年1月 ……ごく稀に奇蹟のような言葉や色彩やメロディに出会うことができた。この世にこんな傑作があることが信じられなかった。世界のどこかにこれを作った人がいるのだ。それだけを心の支えにして、私は長く続いた青春の暗黒時代をなんとか乗り切った。(p3~4) やがてみずからも売れっ子の歌人となった穂村弘は憧れの創作家たちと言葉を交わす機会を得ました。対談の相手は、谷川俊太郎、宇野亞喜良、横尾忠則、

戦後日本のモデルが崩壊した時代!?〜『平成史講義』

◆吉見俊哉編『平成史講義』 出版社:筑摩書房 発売時期:2019年2月 平成とはいかなる時代であったのでしょうか。本書では、天皇、政治家、官僚、企業と従業員、若者たち、対抗的勢力、メディア、中間層といった様々な歴史の主体のパフォーマンスを検証していきます。その作業をもって平成という時代の複合的な姿を浮かび上がらせようとする試みです。 寄稿者は、野中尚人・金井利之・石水喜夫・本田由紀・音好宏・北田暁大・新倉貴仁・佐道明宏。前後に編者の吉見俊哉の文章を配して挟みこむ形になって

文化的な社交の空間〜『図書館の日本史』

◆新藤透著『図書館の日本史』 出版社:勉誠出版 発売時期:2019年1月 公共図書館は私たち庶民にとってはなくてはならない基本的な文化インフラの一つです。しかし地方における緊縮財政を背景に運営を民間企業に委託するなどの動きも目立ってきました。また出版業界からは売上げに悪影響を与えるとして、時に批判的な言辞を浴びるようにもなっています。図書館はどうあるべきか。あらためて問われる時代になってきました。 さて本書は、図書館情報学・歴史学を専門とする研究者が図書館の歴史的変遷を通