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本読みの記録(2017)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2017年刊行の書籍。
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2018年3月の記事一覧

熱狂を抑えることにおける熱狂〜『保守の真髄』

◆西部邁著『保守の真髄 老酔狂で語る文明の紊乱』 出版社:講談社 発売時期:2017年12月 西部邁といえば日本の近代保守思想の重鎮的存在でした。中島岳志をはじめ西部を敬愛する後進の保守思想家は多いですし、テレビの討論番組でバトルを展開した宮台真司もその後は西部と何度か親密な対談を交わしています。2018年1月に惜しまれつつ他界した直後には本書にも言及した追悼的文章をいくつか見かけたこともあり、久しぶりに西部の本を手にとりました。 なるほど首肯しうる発言は少なくありません

知のブリコラージュの愉しさ〜『都市と野生の思考』

◆鷲田清一、山極寿一著『都市と野生の思考』 出版社:集英社インターナショナル 発売時期:2017年8月 クロード・レヴィ=ストロースの名著『野生の思考』に「都市」をトッピングした標題がいかにも興味をそそります。大阪大学の元総長と現役の京都大学総長との対話集。臨床哲学なる分野を開拓したユニークな哲人とゴリラ研究で名を馳せる霊長類・人類学者によって交わされる言葉は相互に刺激しあいながら専門分野の垣根を越えて、文字どおり都市や自然を自由自在に経巡るかのようです。 山際が大学の存

女性が陰で男性を支えることは本当に〈日本の伝統〉なのか!?〜『〈女帝〉の日本史』

◆原武史著『〈女帝〉の日本史』 出版社:NHK出版 発売時期:2017年10月 日本における女性の政治参加が著しく遅れていることは折りに触れて指摘されるところです。これを日本古来の考え方とむすびつけて論じる言説は少なくありません。けれども本当にそうなのでしょうか。 本書は神功皇后伝説から、持統天皇、北条政子、淀殿……と連綿とつづいた女性権力者たちの系譜をたどり、日本の政治における女性のパフォーマンスを分析するものです。中国や朝鮮半島の政治史を随時参照することで、東アジアの

今こそ「体験デザイナー」の出番なのだ!〜『ウンコのおじさん』

◆宮台真司、岡崎勝、尹雄大著『子育て指南書 ウンコのおじさん』 出版社:ジャパンマシニスト社 発売時期:2017年12月 子育て指南書と銘打たれてはいますが、書かれていることはもっと広くて深い。単なる子育てのノウハウ伝授にとどまらない、広義の世直しの書ともいえる内容です。 本書ではまず親たちにコントロールされた子どもたちの存在、いやそのような関係性に警鐘を鳴らします。コントロールされてきた娘が、母親となって、自分の娘をコントロールする。いわば「病理の伝承」が生じているので

外来文化を取り入れる過激な知識人だった!?〜『聖徳太子』

◆東野治之著『聖徳太子 ほんとうの姿を求めて』 出版社:岩波書店 発売時期:2017年4月 聖徳太子といえば日本人にはおなじみの歴史上の人物です。ところが、昨今、日本史の教科書での扱いをめぐって政治家が容喙するなど、その評価に関する論争は政治的な色合いをも帯びるようになってきました。 「聖徳太子の特異な点は、その没後、歴史的な事実から離れ、人物像が極めて伝説的に変貌していったことです」と東野治之はいいます。太子に関する歴史論争はそれこそ歴史的に繰り返されてきたのです。本書