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本読みの記録(2017)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2017年刊行の書籍。
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2018年2月の記事一覧

生涯学習原理主義でいこう!?〜『これからの日本、これからの教育』

◆前川喜平、寺脇研著『これからの日本、これからの教育』 出版社:筑摩書房 発売時期:2017年11月 元文部科学省官僚の二人がこれまでの教育行政を振り返り、さらにこれからの日本の教育のあり方について思いの丈を語り合った対論集です。文科官僚としての矜持や自尊心がにじみ出た発言も多く、二人の仕事や考え方に賛否はあるにしても、全体をとおして興味深く読みました。「ゆとり教育」を推進した寺脇研の著作はすでに数多く出ていますが、前川喜平がみずからの教育論を披瀝したものとしては本書が最初

3・11の教訓を活かすための〜『原子力規制委員会』

◆新藤宗幸著『原子力規制委員会──独立・中立という幻想』 出版社:岩波書店 発売時期:2017年12月 福島第一原発の悲惨な事故によって原発規制行政は制度面だけをみても様々な点で刷新されました。事故以前は、原子力安全・保安院と原子力安全委員会によるダブルチェック体制が敷かれていましたが、民主党政権下で原子力規制委員会に一元化されたのことは最も大きな改革といえます。原子力規制委員会は環境省の外局としての行政委員会であり、その事務局として原子力規制庁が設置されました。規制委員会

権威的な装いを剥がしてみると!?〜『「日本の伝統」の正体』

◆藤井青銅著『「日本の伝統」の正体』 出版社:柏書房 発売時期:2017年12月 「伝統」と呼ばれるものがしばしば近代の所産で底の浅いものであることについては、すでに洋の東西を問わず多くの論証研究が存在しています。古来行なわれてきたと多くの現代人に信じられている風習やしきたりが実は最近になって始められたということは珍しいことではありません。そこではたくましい商魂や仕掛け人の作為が明瞭に見てとれる場合も少なくありません。 本書ではそのような「日本の伝統」と考えられてきた事柄

「謙虚な叡智」としての現実主義!?〜『国際政治』

◆高坂正堯著『国際政治 恐怖と希望 改版』 出版社:中央公論新社 発売時期:2017年10月(改版) 高坂正堯といえば日曜朝のテレビ番組でコメンテーターとして出演していた時の姿が強く印象に残っています。京都弁まじりの明朗な語り口には独特の味がありました。 本書は初版が1966年の刊行です。50年の年月に耐えて今日なお現役本として読者のもとに供せられていることは、多くの書籍が賞味期限付きで読み捨てられていく現状に照らしてみれば素晴らしいことに違いありません。「名著刷新!」の