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本読みの記録(2017)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2017年刊行の書籍。
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2017年9月の記事一覧

ドイツの近現代史に学ぼう〜『ナチスの「手口」と緊急事態条項』

◆長谷部恭男、石田勇治著『ナチスの「手口」と緊急事態条項』 出版社:集英社 発売時期:2017年8月 麻生太郎副総理が「ナチスの手口に学んだらどうかね」と口を滑らせたのは、2013年のことでした。すぐに撤回されたとはいえ、自民党が目指す改憲はより現実味を帯びてきているので、麻生発言は一つの戦略を示唆するものとして未だ不気味に地底で響き続けているようにも感じられます。彼の認識によれば、ワイマール民主制からナチス独裁への移行は「誰も気付かない」うちに変わったというのですが、本当

公平公正な熟議のために〜『メディアに操作される憲法改正国民投票』

◆本間龍著『メディアに操作される憲法改正国民投票』 出版社:岩波書店 発売時期:2017年9月 「改憲派」議員が両院で3分の2以上の議席を占め、安倍首相が改憲へのスケジュールを言明したことによって憲法改正の動きが俄に慌ただしくなってきました。突然の衆議院解散表明により今後のことは選挙結果に大きく左右されますが、民進党も憲法改正論議を封印しているわけではありませんから、やはり有権者も改憲にそなえた心づもりをしておく必要はあるでしょう。「護憲派」も単に「改憲ノー」と叫んでいるだ

様々な角度からの検証を試みる〜『日本の右傾化』

◆塚田穂高編著『徹底検証 日本の右傾化』 出版社:筑摩書房 発売時期:2017年3月 「右翼」とは、もともとフランス大革命期の国民議会・国民公会の議席配置に由来する言葉です。三省堂『コンサイス20世紀思想事典』によれば、左側に「急進派のジャコバン党」が着席したのに対して、右側に「穏健なジロンド党」が着席したことがその起源といいます。当初は「急進」に対する「穏健」な立場を指していたわけです。 それから200年以上が経過して、極東の島国における「右翼」の意味するところはずいぶ

一度も訴えられたことのない物書きなど信用しない〜『わが筆禍史』

◆佐高信著『わが筆禍史』 出版社:河出書房新社 発売時期:2017年8月 辛口批評で知られる佐高信は、あちこちでトラブルを起こしてきたらしい。訴訟騒ぎも一つや二つではなく「一度も訴えられたことのない物書きなど、私は信用していない」とまでいいます。本書はそんな人騒がせな物書きがこれまで体験してきた「筆禍」の数々について書き記したものです。 佐高の喧嘩相手となった人物は左右両翼にまたがっていて多士済済。日向方齋、渡辺恒雄、木村剛、渡辺淳一、中坊公平、猪瀬直樹……。自民党はいう

ユング心理学への良き道標〜『無意識の構造』

◆河合隼雄著『無意識の構造 改版』 出版社:中央公論新社 発売時期:2017年5月 無意識という用語は今でこそ私たち一般人も普通に使っていますが、その概念が初めて提起されたときには人々を驚かせたことでしょう。意識のなかに、いや意識と対立するものとして、そのような概念がありうるとは誰も考えていなかったのですから。三省堂刊『20世紀思想事典』でも、〈無意識〉は複数の項目で言及されていて、現代思想や近代アート全般に大きな影響を与えたことがうかがわれます。 無意識という概念を最初

接続と切断のあいだに〜『動きすぎてはいけない』

◆千葉雅也著『動きすぎてはいけない──ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』 出版社:河出書房新社 発売時期:2017年9月(文庫版) FACEBOOKだのLINEだのと、とかく人と繋がらずにはおれないインターネット社会。現代人は好んでみずからのプライバシーを晒し、些細な情報までをシェアしあう。「接続過剰」の社会。そこではしばしばコミュニケーションは形式化し、ただ繋がることが目的化しているようにもみえます。 千葉雅也は、『朝日新聞』(2013年12月11日)に掲載された浅田彰