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本読みの記録(2018)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2018年刊行の書籍。
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2018年3月の記事一覧

他者と共存していくための〜『9.11後の現代史』

◆酒井啓子著『9.11後の現代史』 出版社:講談社 発売時期:2018年1月 中東地域が政治的にも軍事的にも混乱し治安の悪いエリアと認識されるようになったのは、そんなに昔ではないといいます。複数のデータを照らし合わせると、中東でテロや紛争が増加したのは21世紀に入ってから、特に2003年のイラク戦争以降ということらしい。 本書はそのような事実認識に基づき、昨今の中東地域に出来した混乱の背景を多角的に分析します。著者の酒井啓子は、イラク政治史、現代中東政治を専門とする研究者

「理性の政治/政治の理性」をもっと重視しよう〜『なぜ政治はわかりにくいのか』

◆西田亮介著『なぜ政治はわかりにくいのか 社会と民主主義をとらえなおす』 出版社:春秋社 発売時期:2018年1月 なぜ政治はわかりにくいのか。本書は一見素朴なそのような疑問から出発します。なぜ政治はわかりにくいのか。西田亮介はその問いに対して二つの次元から答えを導き出そうとします。 ①政治そのものに起因する問題②政治の外部に起因する問題──という仕分けです。 ①に関しては、第一に、昭和から平成時代にかけて政治と社会それぞれが大きく変化したことが大きい。また、戦後の期間

本当の「独立」を勝ち取るために〜『白井聡対話集』

◆白井聡著『白井聡対話集 ポスト「戦後」の進路を問う』 出版社:かもがわ出版 発売時期:2018年1月 今も参照されることの多い『永続敗戦論』刊行直後に白井聡が行なった対話の記録を収めた本です。対話の相手は、孫崎享、水野和夫、中島岳志、中村文則、信田さよ子、佐藤優、岡野八代、栗原康、内田樹、島田雅彦、馬奈木厳太郎、猿田佐世……と多彩な顔ぶれ。 いずれも読み応え充分の対話がなされていますが、すべてに言及すると長くなりそうですので、以下、とくに印象に残った対話について紹介しま